spot 3 前編

【※当動画を見たことによるについて、○○(チャンネル名)は一切責任を負いません】






は最初からそこにいた】





……カメラ起動。

「みなさんこんばんは。○○のアズサです」

(いつものように、帽子を目深にかぶった紫のインナーカラーの少女が映る。しかし、もう一人の、黒髪ボブカットの少女がいない)

「今回なんですが、エリちゃんいないです。まさかのウイルス性胃腸炎に罹ってしまったそうでですね。なので私一人です。我慢してください」


カット

「今回私たち……じゃないや、私が行くのは、えー、また廃墟なんですけど、レストラン跡です。割と住宅街にあるんですが、今からもう20年前に業績悪化で廃墟になったとされていますね。ただそれはあくまで表向きの話で、実は、殺人事件があったと、そういうことなんですよ」


(テロップ)

【当時オーナーだった男性が、深夜の店内で従業員に包丁で刺され、店にあった冷蔵庫に閉じ込められて死亡した】

【それからも営業は続いたが、死体が冷蔵庫に閉じ込められていたというショッキングな報道により、客は激減。事件からわずかひと月で廃業に追い込まれた】


「その後新しい店が入ったりもしたらしいですが、長続きしない。土地の持ち主の方によると一年続かないと。しかも、撤退するときにみな口々に言うのが、包丁の音がすると。オーナーの男性が殺された包丁の音なんでしょうか。まあ、そこらへんを踏まえて、ちょっと潜入してみたいと、思います」



カット・店の前

(ファミレスとは違い、普通の一軒家に見える。一階建てで、洋風ではなく和風家屋だ。和食料理店だったのだろうか)

「ここがそのお店です。パッと見た感じ、あまり荒れてないっていうか、普通に人が住んでてもおかしくない感じですね。じゃあ、入ってみましょうか」

(鍵が開けられる。軋む音もなく。扉が開く)



店内

(懐中電灯が照らす。右手テーブル席があったであろう場所。テーブルはなくなり、残った椅子が部屋の端に積まれている。左手はカウンター席だ。椅子はない)

「あまり広くはない……かな。うーん……」

(アズサ、ゆっくりとテーブル席の方に歩みを進める)

「なんか寒いな……。普通外より家の中のほうがあったかいと思うんですけど」

(懐中電灯が頭上を照らす。どのタイミングで残されたものか、風景画が残されている)

「風車と……山? 何の絵でしょうね。……」

(不意にカメラが背後を捉える)

「なぁんかさっきからコツコツ音が聞こえるんですよね。そんなに新しい家でもないし、あまり変なことではないんですけど」

(カメラ、再び視線を戻す。部屋の端、積まれた椅子を映す)

「や、それにしてもエリちゃんいないと静かだな。私がもっと喋ればいいのかもしれないですけど」

(思えばエリカとアズサの来歴は詳しく語られない。余計な情報を入れないようにということなのだろうか)

「じゃあ、カウンターの方行ってみます」



カウンター裏・厨房

(蛇口などの設備は残されているが、皿や調理器具は何もない)

「ここで料理作ってたのかな。んー……」

(アズサ、厨房を進み、バックヤードへ。そこへ入るなり「うっ」ともらす)

「何このにおい……」


(テロップ)

【下水のにおいが漂う】


「あっ、あれか……」

(不自然に残された巨大な棚。それが冒頭で彼女が紹介した、冷蔵庫だ)

「なんでこの冷蔵庫が残されてるかって思うかもしれないですけど、実はこれもともとこの家を建てるときに既に備え付けてあったらしくて。だからすごく大きいんですよ。なのでもう外に出せないんですって。だから事件のあと入った飲食店も、使いはしないけれど残したままにしてたそうなんですね」

(ザッザッと、アズサ、その前に立つ)

「ふうっ……じゃあ、ちょっと開けてみたいと思います。ん、何っ……!?」

(カメラ、背後を振り向く。特に変化はないし音もない)

「今、結構でかい音鳴ったけど……」

(しばらくカメラは客席の方を映していたが、やはり、変化はない)

「……じゃあ、開けますね」

(カタッ……ズズズ……、不気味な音を立てて扉が開く。その中は、普通の業務用冷蔵庫に見える。ただその大きさと使用された経緯が規格外なだけで)

「刺されたあと生きてたんでしょうか……だとしてもこの扉は開けられないでしょうね」

(アズサ、しばらく中を撮影したのち、カメラを自分の方に向ける)

「ちょっとだけ、入ってみたいと思います。扉は流石に開けたままで……」

(身を縮めて、彼女はその中に入っていく。引き止める者は誰もいない)

「すっごく寒い……。当たり前ですけど、電気なんか……通ってないですよ」

(それからしばらくアズサはその中にいた。が、次の瞬間、スマホの着信音が響いた。もちろんこの動画を見ている視聴者わたし/あなたのではなく、アズサの、だ)

「エリちゃん……? なんで」


(テロップ)

【エリカから突然の電話が……】


(アズサ、訝しがりつつカメラを置いて、電話に出る)

「もしもし? 何? ……うん。撮影中。……うん? かけてないよ電話なんか。…………いやいや、ずっとカメラ回してたし、発信履歴も無いって。……うん……うん……。わかった。とりあえずその着信履歴だけスクショして見せてくれる? うん。……はい、お大事に」

(電話が切られる。アズサ、「着信履歴」を待っているのか、しばらくスマホを見つめている)

「……ほんとだ。確かに、履歴が……」

(アズサ、再びカメラで自分を映す)

「エリちゃんから電話がかかってきたんですけど、なんか私から電話がかかってきたって言ってましたね。でも、これ見てもらえばわかるんですけど。私電話なんかかけてないです」

(編集で後入れしたのか、アズサのスマホの画面が示される)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

                💬「胃腸炎?わかったゆっくりやすんで」10:01

💬『はい(;_;)』10:01

                💬「あの場所には一人で行ってくるから」10:02

💬『気を付けてね』10:02

☏ 22:16

[スクショ画像:エリカのトーク画面] 22:20

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(上にエリカが病気になったことについての会話があり、その次にさっきのエリカとの会話の履歴である受話器マークが、そして一番下にエリカから送られてきたスクリーンショットがある。たしかに、アズサから電話はされていない)

「でもエリちゃんの画面には……受話器二つあるな……。ううん……どういうことだろ……」

(エリカのスクショ画像も示される)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

💬「胃腸炎?わかったゆっくりやすんで」10:01

                            💬『はい(;_;)』10:01

💬「あの場所には一人で行ってくるから」10:02

                          💬『気を付けてね』10:02

☏ (不在着信)22:13

                                  ☏ 22:16  

                 [スクショ画像:エリカのトーク画面] 22:20

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(エリカから電話がかかってくる3分前に、確かにアズサから電話があったらしい)

「いたずらにしては手が込んでるなあ、エリちゃん……」

(沈黙が降りる)

「22時13分……今すごく嫌なこと思い出したんですけど。ひっ!」

(話し始めようとしたその時、アズサが口元を抑えた。その理由をカメラも捉えている)


 ドンドンドンッ!


(テロップ)

【店内に響く、激しく扉を叩く音……】


【アズサは何を見たのか】

【後編へ続く】



             ↺(もう一度見る)




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――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※この物語はフィクションです。無許可で廃墟などに立ち入ることは辞めましょう。もちろん私(蓬葉)もしません。法律が許してもそんなことしません。

 また、この話は書き下ろし風の展開になっていますが、元動画があるわけではありません。

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