第13話 泣き言
「私、
それは突如、何の予兆もなく星華が言い出したことだった。急に咳き込み始めたり、持っていたお茶を取り落としたり、ぴきっと固まったりと、側近達の反応は様々であった。
「弟子入り、ですか??それにもう一度ということは....、」
「星華様は二歳頃から霜晏殿に、武術を習っておられたのです。」
「でも星華、武術できないんじゃなかったか??」
平民街の方へ視線を向けた
「ごめんごめんー。手、抜いてたのよ。」
はははーと頬を掻きながらはにかむ星華に廉結は呆然とした。
(まさか、あの星華が....っ!!)
「まぁ、廉結がびっくりするのも無理ないわなー。あの演技はなかなか気付く奴おらんやろ。」
「はっ!?
「そりゃそうや!うちは武官やからな!」
ふんぞり返ってドヤ顔をキメる絳鑭が、廉結には眩しく見えた。
「そんなことより廉結!あの霜晏殿の弟子という事は、星華様はかなりお強いっていう事だよ!!」
いつも近くにいた俺が気付けなかったなんて....、とかなりショックを受けていた廉結の心に、『そんなこと』という鋭い刃がさらに突き刺さった。
「武術だけではなく、星華様は勉学においても霜晏殿に叩き込まれておりますよ。」
どこかでぐさっという音が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。....いや、そうではなく........、
「「はいっ!?」」
(あのアホ面の星華が!?よりにもよってあの天才の弟子??どこにその要素があるんだ??きっと何かの間違いだ。うん。絶対そうだろう。)
口にこそ出さないが、皆思っている事は同じであった。
「ふっふーん!!すごいでしょー!っていうことで、弟子入りに反対する人はいないっていう事でっ!!」
わーい!と踊り出す星華の喜びを感知したのか、
(星華様は大丈夫だろうか........。)
何か不安事のある時に見せる視線を上に向けた笑いは、幼い頃から全く変わらぬ星華のクセだった。
そんな星華の表情に気が付いたのは無論、鵲鏡だけであった。
「それで、私に弟子入りしたいのですか??」
優雅に
「はい。私は側近達に甘えているだけではいけないと思うのです。」
決意を秘めた真剣な眼差しで見つめてくる星華を彼は目を細めて見ていた。その表情はまるで、届かないくらい遠くにある眩しい光を見ているかのように星華には思えた。
「いいでしょう。しかしご存知の通り私は貴女の側近のように甘くはないですよ。」
「分かっております。だからこそ霜晏に師事して頂きたいのです。」
「どうしてそこまでして....、」
「一人になるのが、怖いんです....。歴代の虹王様達の言葉を聞いてから....。」
星華は眉を震わせて蚊の鳴くような声でそう言った。霜晏はその様子をただ黙って見つめていた。
「............お母様は.....、、」
しばらくすると星華は再び口を開いた。
「お母様は、幸せでなかったのでしょうか。」
それはずっと側にいて、関係が深すぎる鵲鏡には言えなかった星華の不安だった。
「あの時....、虹で、お母様の声が聞こえなかったの。たくさんの後悔、屈辱、嫉妬....。胸に突き刺さるような言葉の中に、お母様の声は無かった。....どうして??辛かったことや苦しかった事、言ってくれればいいのに。言ってくれた方が、私........っ!」
「星華様!!そのような事はないと思います。紅鏡様は後悔のない人生を送られたのでしょう。ですから声にならなかったのではないかと。」
涙で濡れた満月のように丸く大きな瞳が、縋るように霜晏を見つめる。まるで捨てられた子犬のようだった。
「公子様がお生まれになられた時、そして貴女様がお生まれになられた時、紅鏡様はこれまでにないくらい幸せそうなお顔をされておりました。あのお方にとって貴女様は一番の宝なのです。少なくとも私はそう思います。」
霜晏はまっすぐに星華の瞳を見つめ、はっきりと言い放った。そのしっかりとした視線に、星華は安心して薄く微笑んだ。
「そう、ですか....。申し訳ありません。情けないところを見せてしまったようですね。ご心配をおかけしました、霜晏。」
彼女の大人びた表情に霜晏は軽く息を呑むと、目を瞬きながらも一つ頷いた。
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