第347話 邪神召喚の手順
スラムの視察を終えた日の夜、アイスたちは宿屋の酒場エリアに集まっていた。
今回司会進行を務めるのは、アイスだ。補助としてクレイ、トキシィ、解説にピリアとスールが控えている。
アイスが前に立ち、場が静まったのを確認して、アイスは口を開いた。
「では、今回の作戦―――スラム邪神召喚作戦について、説明したいと思います……っ」
それを聞いて、前情報がなかったムティーが「へぇ?」と面白そうに口をゆがめた。サンドラが「ワクワク」と目を輝かせてこちらを見ている。
「作戦の概要を、お話します……っ」
アイスは、話し始める。
「まず、スラムで邪神召喚の儀式を整え、邪神を召喚し、スラムで大暴れしてもらいます……っ。それからスラム全体の戦力が削がれてきた辺りで、塔を掌握します……!」
「超特大爆弾って感じだねー。キャハハッ。楽しみー!」
ピリアがクスクスと笑う。
「その後に、戦力の低下を見計らって、召喚した三柱の神と、ドン・フェンの討伐・拘束。そして塔制圧維持の魔人の誘導で、今回の作戦を完了とします……っ」
つまり、とアイスは付け加える。
「これまでは、第一フェーズ『有力魔人を隠れ蓑とする』、第二フェーズ『塔を掌握する』という流れを、第一フェーズ『邪神を呼び出す』、第二フェーズ『塔の掌握、エーデ・ヴォルフの討伐』と、一挙両得の流れに変更する、という形になります……!」
エーデ・ヴォルフを隠れ蓑する代わりに、邪神を呼び出しこれを隠れ蓑とする。それが、今回の邪神作戦の、表向きの説明だ。
そして、アイス、クレイ、トキシィのみ、裏の目的を有している。
それすなわち、邪神討伐による『神殺し』そのもの。神殺しを成し遂げることで、三人はより多くの力を得ようと画策している。
いずれ―――いずれ来たるその日に、備えるために。
アイスの説明に、魔人兄妹が口を開く。
「お兄ちゃ~ん。この作戦さらっと説明してるけど、これやっばいことになるよね~?」
「そうだな、ローロ。恐らくスラムが消え、更地になる。たった一柱で、バエル領は壊されたんだ。それが三柱なんて想像がつかない」
「だよね~。どうなっちゃうんだろ~」
言いながらも、二人はどこか楽しそうだ。流石は魔人と見るべきか、それともこの二人が特別動揺しないのか。
アイスは、「簡単な説明だけど、どう、かな……っ? ウェイド、くん」と視線をやる。
ウェイドは、アイスからみて最奥の席で、静かに、獰猛に笑っていた。最愛の人の笑みだと分かっていても、どこかゾクリと背筋に走るものがある。
ウェイドが、口を開く。
「アイス。――――最高だ。すげーよ。俺からは出てこない発想だった。そうか。邪神を、俺たちが呼ぶのか。ふっ、くくっ、はは。それ、めちゃくちゃ面白いじゃんか」
くつくつとウェイドは笑う。犬歯をむき出しにして、神とどう戦うかを、どれほどスラムを荒らしまわるのかを考えている顔をする。
それから、強く頷いた。
「それで行こう、アイス。続けてくれ。細かい点を詰めていこう」
「う、うん……っ! じゃあ、時系列に沿って、細かい内容について、詰めていこうと思います……っ」
アイスは、
作戦の下準備でまずすべきことは、邪神召喚の手順を知る者を確保することだ。
何をするにも手順が分からないと意味がない。まずはそこから始めよう、というのは自然なことだろう。
そんなわけで、俺は第二の瞳アジナーチャクラから、村長合議の議長の場所を特定し、アイスとローロを連れて赴いていた。
「サーカス初めて来るな」
「そうだね……っ。バザールも賑やかだった、けど、こっちももっと賑やか……!」
「ひゃ~っ! 見て見てご主人様! あれすっご~い!」
バザールからサーカスに踏み入れて数十秒。周囲には、道端で大道芸を披露する魔人たちでいっぱいだった。
誰も彼もが何かしらの芸を行っていて、それを見た観客なのだろう魔人たちが、機嫌よく銅貨を投げ入れている。
特に芸が上手く、地面に垂直に立てた梯子の上で、指一本で逆立ち腕立て伏せをしているような魔人の投げ銭入れの帽子には、大小の銅貨が溢れんばかりだ。
それを見て、なるほどと思う。
歓楽地区に入った瞬間からサーカスは始まっている。そんな場所のことを歓楽地区なんて呼ぶのは、野暮の塊だろう。これはまさしくサーカスだ。
そしてこの、歓楽街ことサーカス。村長合議の議長は、ここにいるらしかった。
「あのクソ爺はどこで何をしてるんだか……」
村長合議の議長。俺の中では、バエルの息子キャビーを拉致して好き放題するためだけに、邪神を召喚した頭のおかしい魔人だ。
バエル領の領民、言うこと聞くのはいいのだが、城下街の魔人よりも全体的に発狂アベレージが高いのがよくない。前回の連続強盗でも、調子に乗って収監された奴多いらしいし。
そして仮にも、その頂点に立っていたのが議長になる。はたして今は、どんな悪行をしでかしているか……。
そう思いながら、俺は復活の糸のたどる先についた。
「ここだな。このテントの中だ」
俺は入り口の布扉をあけ放つ。するとそこには―――
―――何故か足を四本に増やして椅子に座る議長がそこにいた。
「おや、これはこれはご主人様ではございませぬか。お久しゅうございます」
議長は以前の様子とあまり変わらない態度で、俺にペコリと頭を下げた。俺はテントの中にちゃんと入りながら、「あ、ああ……」と頷く。
「議長は……それ」
「ああ、これですかな? 悲しいかな老体にサーカスでできることは少なくてですな。近隣のサーカス団に相談したら、死体の足を二本持ってこられて、縫い付けられました」
えげつないことされてる。
「おかげで食事には困らない程度に金が入るようになりましたぞ。いやはや、縫い付けられた時は邪魔で仕方ないと思いましたが、お蔭で快適ですぞ。ほっほっほ」
議長は言いながら上機嫌そうだ。俺はげんなりとしつつも、「今日は質問があってきたんだ」と近づく。
「これはこれは。何のご用向きでしょう」
「邪神召喚の手順を教えてほしい」
俺が言うと、議長はニタァと悪い笑みを作った。
「おや、おや、おや。それは、それは」
もったいぶるように言って、議長は不気味に笑う。
「無論、ご主人様の祭りに参加する形で城下街に居る以上、断る理由などございません」
が、と議長は俺を見た。
「あれは、ご主人様のような人間には、恐ろしい手段になりますぞ。結果もひどい限りでしょう。それでも、やる覚悟はおありですかな?」
「……ああ。邪神召喚の手順を教えてくれ」
「かしこまりました、我らが主よ―――と言っても、難しいことは何らございません」
議長は続ける。
「邪神召喚に必要なもの。それは生贄でございます」
「生贄」
「ええ、ええ。生贄。それも生きていて、邪神となる神を崇拝し、同時に穢れて欲しいと望む生贄……それを、ざっと千人ほど惨たらしく殺し、召喚陣にその血を捧げること」
議長は、おぞましく笑う。
「我らバエル領の魔人が、自らを何度も何度も生贄にして、やっと成し遂げた召喚の儀でございます。ご主人様が見事邪神召喚の大義を成し遂げることを、お祈り申し上げますぞ」
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