第166話 復活

 不意に、いつものが戻ってきた。


「よし……」


 俺は、魔力を注いだ。アナハタ・チャクラが、うまく再構築されていく。そして、ちゃんと機能するようになった。満足して、俺は何度か頷く。


「魔力残ってるし、ついでにこっちもやるか」


 最近上がってきた動体視力。俺はそこにイメージをつぎ込んで、第二の瞳、アジナー・チャクラをモノにしていく。


「うん、出来た出来た」


 よぉーし、と俺は頷く。そして、さっそく両者を起動状態に持っていくことにした。


ブラフマン


 第二の心臓が、第二の瞳が起動する。心臓が鼓動を始め、瞳が開く。


 開いて、意識を現実に取り戻した。


「ウェイドッ!」


 いの一番に俺を抱きしめたのは、トキシィだった。それで、何となく悟る。俺はトキシィを抱きしめ返しながら、その背中をトントンと叩いた。


「助けてくれてありがとな。おかげで、戻ってこれた」


「うぁああああぁぁん! よかったよぉおおおお、ウェイド、生き返ったよぉぉおおおお」


 泣きじゃくるトキシィをよしよししながら、俺は起き上がった。他のみんなも、目を潤ませて近づいてくる。


「心配、した、よ……! 本当に、心配したん、だからね……!」


「ああ、アイス。ごめんな。心配かけた」


「あたしもッ! ……でも、良かった。助かって、良かった」


「サンドラも、心配してくれてありがとう」


「今回のは、相性が悪かったね。でも、トキシィさんが居てくれてよかった。じゃなきゃ手の打ちようがなかった」


「クレイ冷静そうにしてるけど目元赤いぞ」


「ここぞとばかりにやり返してくるじゃないか」


 仲間と一通り言葉を交わしてから遠くを見ると、モルルやリージュ、ウィンディ辺りが心配そうな眼差しで見つめていた。


 俺はニッと笑って言う。


「よっ、完全復活だ。心配かけたな」


「ぱぱぁぁあああああ!」


 モルルがものすごい勢いですっ飛んできてビビったさ。











 それから少しして、アレクが帰ってきた。


「おぉ! 無事復活したみたいだな。ったく心配かけさせやがって。トキシィも、お疲れ様だ。良く倒してきた」


 俺とトキシィを労ってから、アレクは「少し話がある。聞かれちゃまずいわけじゃないが、あまり人前でする話でもねぇ。向こうで話せるか?」と俺たちを客間に誘導した。


 客間に移動した俺たちはソファに横並びに座り、対面にアレクが収まった。「さて、じゃあまずは」とアレクはトキシィに目を向ける。


「トキシィ。妖刀ムラマサは回収してきたな?」


「あ、うん。はい」


「ああ、そこにおいてくれ」


「? 分かった」


 手渡そうとしたトキシィに、アレクは机に置くように指示をした。トキシィが刀を机に置く。俺を貫いた、厄介な妖刀だ。


「一応、話しておくべきかと思ってな。ウェイド、それにトキシィ。お前らが抱える運命や、己の強さの性質みたいな話だ」


 改めて話し始めるアレクに、俺たちは姿勢を正す。


「まず、今回の件について。正直、かなり危なかったと言っていい。トキシィが居なければ真剣に詰みだった。っていうのは、今回の件はからだ」


「聞いてるよ。呪われた勝利の十三振り、だっけ?」


 俺が言うと、アレクは頷く。


「そうだ。こいつは特にひどいものの一つではあるんだがな。ウェイド、持とうとしてみろ」


 言われ、俺は妖刀ムラマサに触れようとする。だが、手を近づけただけで強烈な怖気が走って、思わず俺は手を引っ込めた。


「なっ!? 何だ、今の……」


「そうだ。お前はもう十分に英雄としての資質を得てる。だから、『英雄殺し』とされるムラマサには触れない」


「英雄って」


「凡人、天才、達人、英雄、そして化け物」


 アレクは言う。


「凡人は言うまでもねぇ。才能もなく実力もない連中だ。一般人に毛が生えた程度の冒険者。鉄等級をイメージすればいい。どんなに鍛えても、銅が関の山の連中だ」


 次に天才。アレクは続ける。


「天才は、今までのお前らだ。銅から銀。経験はないが、才能がある連中。光る資質があって、伸びしろがあって、凡人をいとも容易く抜いていく」


 達人、とアレクは区切る。


「達人は、天才の到達点だ。才能も経験も兼ね備えた強者。銀から金の下位にあたる。あるいは、英雄になれなかった者たちと表現するのが適切か」


 英雄。アレクは俺を見る。


「英雄は、今のお前らだ。金の中位から上位。才能も経験もあるが、達人と明確に違うのは、こと。どんな死地からでも不思議に帰還する。英雄を殺せるのは、基本的に英雄だけだ」


 何故か分かるか、とアレクはトキシィを見た。トキシィは少し考え、こう答える。


「運命を担っている、から?」


「その通りだ。『運命』ってのは、抱える人間を死なせない。災難、騒動を呼びこんでおきながら、抱える人間に乗り越えさせる。そうして難事を乗り越え、天才は英雄に昇華していく」


 アレクは、ムラマサを示すように机を指で叩いた。


「ウェイド。お前が今回負けたのは、お前が勝ち続ける要因でもあった『運命』を、この刀に吸われたからだ」


「……!」


 俺は、ごくりと唾を飲み下す。死なない者を殺す。確かに俺は、まるで決まったことのように、一度殺された。


「はっきり言う。金等級になったお前らは、ほぼ全員英雄だ。怪物になったトキシィは少し例外だが、基本的にこういう『英雄殺し』とされる武器は、お前らを宿命レベルで殺しにかかる」


「それは、怖いな……」


「ああそうだ。恐れろ。お前らはもう、そんじょそこらの事故ごときでは死なねぇ。だが、それは危険が減ったってことじゃない。最強の英雄でも、殺すだけなら方法はごまんとある」


 様々なことを知っているアレクがそう言うと、何とも肝が冷える思いをする。


「トキシィもそうだぞ。英雄殺しじゃあトキシィは死なないが、英雄殺しがあるならもちろん『怪物殺し』があるのも想像できるな?」


「……他人事じゃないぞって、そういうことね」


「ああ。強いだけの敵ならまだいい。だが、こういう武器や、同じ領域に立つ英雄、そして化け物は、これからきっと増えていく。むしろ、これからこそ死にかねない脅威が増えていくと思え」


 警戒しろ、という事らしい。俺としては、出し抜かれて死ぬ寸前まで行った、というのは一つ経験としてなかなか楽しいところではあったが、随分と心配させたし、今後は気をつけなければと思う。


 そこで、「あのさ」とトキシィがアレクに問いかけた。


「最後に言ってた、化け物? って何? 私みたいな怪物、とかではなくて?」


「ああ、説明してなかったか。まぁ化け物ってのはムティーをイメージすればいい。英雄の成れの果て。英雄すら一方的に殺すもの。白金等級の領域。頂き。文字通りの世界最強だ」


「……なるほど」


 トキシィが固い顔で頷く。俺は少し考えて、問いかけた。


「なぁ、それで言うと、世界最強って複数人いるのか? 白金って少なくとも三人はいるだろ」


「そりゃそうだろ。最強なだけなら三人じゃきかん。今戦争で猛威を振るってる殴竜なんかも、まぁ化け物と呼んで差し支えないだろうな。ここからはもう、相性と戦略の領域だ」


 カッカッカ! とアレクは笑う。俺は上には上がいることが分かってきて、段々ワクワクし始める。


「まだまだ強い奴はいっぱいいるってことだな!」


「この話聞いてワクワクし始めるお前が、俺は恐ろしくてならんよ」

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