第154話 成果共有1

 後日、俺たちは成果報告に領主邸に集まっていた。


「では、両陣営の報告を聞こうか」


 領主に応えるように、フレインは口を開く。


「カジノ部門の切り離しと保護を、成功裡に進行中だ。何度か奪還のための襲撃作戦があったが、撃退している。ただ、前回出張ってきたのは銀等級10人だったから、次はウェイドパーティに応援を頼みたい」


 いいか、と尋ねられ、頷く。恐らく、次こそは金等級が現れると予測しているのだろう。「風俗部門も同時進行中。現在従業員の信頼獲得に努めている。以上だ」と〆るフレインに、領主がこちらを見る。


「では、次にウェイドパーティの報告を聞かせて欲しい」


「詐欺・強盗部門の壊滅及び、傀儡子への接触に成功しました。その際に傀儡子には偽物が複数居ることが判明しました。本物を拘束する必要がありそうです」


 ほう、と領主は口を開いた。それから問われる。


「先日、スラムの廃墟街が白骨死体だらけになった、と警吏より報告を受けている。君たちかね?」


「はい」


 俺の返答に凍り付いたのはフレインパーティだ。カドラスが口端を引きつらせ、シルヴィアが顔を青くしている。フレインはしかめっ面だが、他メンバーよりかは反応がマシだ。


「……ウェイド。死体だらけだった、なら分かるんだよ。……白骨死体だらけって何だ?」


 フレインの問いに、トキシィが答えた。


「溶かしたの」


「……分かった。それ以上聞きたくねぇ」


「いや聞けよ」


「何で聞かせようとすんだよバカ野郎が!」


 悪乗りで聞けと言う俺に、フレインが怒鳴り返してくる。俺とトキシィは何か可笑しくて笑ってしまった。


「……やっぱウェイドパーティってやべぇな」


「マジ怖い。仕事で必要じゃなかったら本当に関わりたくない」


 カドラスもシルヴィアもドン引きしている。でも多分次の現場って君たちと連携するんだよな? いいのかそんな態度で。


「じゃあ、次はそっちの応援に出る、って感じの動き方をすればいいか?」


「……そうなるな、遺憾だが。今の話を聞くに、傀儡子は出てこないだろう。お前らという脅威がいると知れば、慎重さで有名な傀儡子は、偽物込みでも隠れることだろう」


 つまり、少なくとも襲撃では出てこない、ということだ。となれば。


「出てくるのは、燕と変幻自在、か」


「十中八九燕が一人で来る。奴は好戦的だが、基本的に一人で戦うことを好むからな。変幻自在は……よく分からん」


 燕。俺は腕を組んで背もたれに寄り掛かる。


「どんな敵なんだ、燕ってのは」


「剣客らしい。変幻自在とは違って謎めいてはいないが、新入りだからな。剣客ってのも最近分かった情報だ」


「なるほどねぇ……」


 俺はいくらか考えてさらに問いかけた。


「襲撃はいつ頃ありそうだ?」


「昨日銀等級を撃退したから、……明後日の夜、以降だとは思うが」


「今日明日はないんだな?」


「それはないわ。燕の今週の動きは掴んでる。今夜はボスへの報告が、明日は燕直轄の部隊の再編制があるもの。今日だけは襲撃されないはずよ」


 シルヴィアに言われ、俺は頷く。


「なら、ウチのクソ親父からもいくつか聞き出してみる」


「ああ……無能の癖に情報を握ってる親父か」


「ふっ、そうだ。無能の癖に情報握ってる親父だよ」


 俺が皮肉交じりに返すと、フレインは肩を竦めた。


「お互い、父親には苦労するな」


「ん?」


「いいや、何でもねぇ。領主様。今回の会合はこんなもんでいいかと思うが」


 フレインに振られ、領主は頷いた。


「そうだね。では、この辺りでお開きとしようか」


 メイドの金の暗器、シャドミラが客間の扉を開く。俺たちは、ぞろぞろと部屋を出ていく。











 門を出てすぐに、フレインパーティの内俺たちとは連携しない、と紹介を省かれた面々が「じゃ、俺たちやることあっから」と別れた。


 残されるのは、俺にトキシィ、そしてフレインパーティのフレイン、カドラス、シルヴィアだ。


 そこで、フレインパーティの兄貴役を担っていそうなカドラスが、「なぁお前ら」と全員に声をかける。


「数日後に共闘するってんなら、ここで一度親睦会と行かねぇか?」


 カドラスの提案に、「おお」「いいね」と答えたのは俺とトキシィ。嫌な顔をしたのがフレインとシルヴィアだ。


「カドラス……お前そこまでバカにならなくたっていいだろ」


「おい、何だか溝が出来つつあるところで気を回した俺をなんつったよクソガキ」


「カドラス、あなた熱があるのよ」


「ねぇよ! お嬢も妙ないじりをしてくるな!」


 わーきゃーと騒ぐフレインパーティに、俺とトキシィは「仲いいな」「ね」と言い合う。


「「「良くない!」」」


「息ピッタリだな」


「なっかよし~」


 俺とトキシィが揺らがないので、フレインがそっぽを向いてため息をつき、シルヴィアがムスっと嫌そうな顔をする。カドラスは「まぁ、そう見えんなら見えないよりかはいいけどよ」と疲れた顔だ。


「じゃあ、何かどこかで飯でも食うか? あ、あと気になってるんだが、フレインとこって敵側にどれくらい顔知れてる? 俺たちまだ掴まれてないけど、できるだけバレたくなくてさ」


 ウィンディの襲撃時にはひどい目に遭ったものだ。顔がバレ、家がバレ、というのは可能であれば避けたいのである。まぁ今となってはそう惨事にはならないと思うが。全員強いし。


 ということで尋ねると、全員顔を見合わせて言った。


「オレとこうやって話してる時点でだいぶ遅いぞ。オレは正面からケンカ売りまくり。カドラスは裏切り者。シルヴィアは脱走者だ」


「「えぇ……」」


 俺とトキシィが声を漏らすと、シルヴィアが言う。


「そうね。それなら立ち話を続けるよりも、口の堅い料理屋の個室に移動した方がいいわ。あなたたち、メイン通りウォルター魔道具店の路地に入ったところの高級店、知ってる?」


「知らないが、ウォルター魔道具店なら分かる」


「そう。ならほとんど分かるようなものね。適当に予約を取っておくから、今夜7時においでなさい」


 じゃ、とシルヴィアが素早く予定を固めて歩き去っていくのに、フレインが「何勝手に決めてんだ。しかもそこメチャクチャ高いだろ」、カドラスが「お嬢パーティの財政状況分かってるか……?」と文句を言いながらついていく。


 それに、トキシィがポツリと言った。


「お似合いパーティって感じだね」


「全員ひねくれ者でも、何とかなるんだな……」


 ウチが大概素直パーティなので、新鮮な気持ちで見送った。

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