第108話 久々ダンジョン探索:15階層~

 15階層に到着していた。


「かなり余裕がある、ね……っ」


 俺の隣で言ったのはアイスだった。


「そうだね~っ。3往復くらい出来そう! 私たちも成長したってことかな」


「ワイバーンにウィンディさんと、超強力な敵を相手にしてきたのが大きかったね。僕らの経験値は、15階層の敵くらいではびくともしないほどになった」


 トキシィとクレイが、アイスの言葉に賛同する。


 周囲は依然として洞窟然とした場所で、俺たちは松明を簡単に固定して、それを中心に休んでいた。ある程度疲れていたら、松明を利用して薪の一つでも作ろうかと思っていたが、そこまでの疲労ではなかったのだ。


「今日は調子と運がいい。マンティコアの群れも一網打尽。優秀な斥候がいると捗る」


「にひひ、サンドラもたまには褒めるんだね。アイスちゃん、優秀な斥候だって!」


「うふふ……っ。嬉しい、な」


 姦しく三人は笑顔を交わす。これだけ見ていると、まるでキャンプに泊まる女子三人と言う感じで、見ているこちらまで気持ちがほっこりしてくる。


「それに、遠距離砲台三門があまりにも優秀。ちょっとした軍隊」


「半分自画自賛だけど、認めざるを得ないよね」


 サンドラが胸を反って主張するのに、トキシィが苦笑気味に認めた。


 そう。ここまでの戦略はとても単純だ。トキシィ&アイスペアのざっくり×精密斥候で周囲の敵を瞬時に補足し、そこに俺、クレイ、サンドラの遠距離砲台が刺さる。


 まずクレイの岩の砲台で敵陣を砲撃し、さらにサンドラが雷を放つ。するとクレイの砲弾が粉々に砕けるから、俺がその小石を重力魔法で操作し、生き残りを始末する。


 この遠距離コンボはかなりの威力かつ精度で、マンティコアの群れ20匹という強敵相手でも、ものの30秒で殲滅してしまったのだ。


「ウェイド君は、こういう的確な連携を作るのが得意だね。訓練生の時もそうだった」


「え、聞きたい聞きたい!」


「興味津々」


 クレイがからかうように俺に言うと、トキシィとサンドラが食いついてくる。クレイは僅かに驚いて目を丸くしてから、「忘れもしない。アレは秋の中頃のことだった」とおどろおどろしく話し始める。


 すると、微笑みながら話しかけてくるのはアイスだ。


「ふふ……っ。懐かしい、ね」


「まだ数か月前のことなんだけどな」


「それでも、だよ……っ。色んな事、あった、から」


「ああ、そうだな」


 駆け足で進んできた。裏社会。ドラゴン。貴族。そして今。


 俺にとってはちょうどいいペースだった。無理なく強くなれたし、刺激的で楽しかった。


 だが、みんなにとってはどうだ?


「ウェイドくん……?」


 アイスが俺の心情を読み取ったのか、心配そうに声をかけてくる。俺が心配しているって言うのにな。その心配してる様子を心配されちゃあ、逆転もいいところだ。


「何でもない。少し考え事をしてただけだ」


「そう……? なら、いいけど……」


 そこで話が終わったらしく、「流石ウェイドえげつないね~……」「材料が足りなければ足りないなりに戦略構築が出来るのは学び。見習いたい」とトキシィとサンドラが言っている。


「クレイ、あんまり脚色せずに頼むぞ」


「失敬だな。僕は僕の見たままを語っただけさ」


 俺の苦情に、クレイは飄々と躱す。それから、こう問い返してきた。


「それで? 余力を残して15階層についたけれど、ここから進むかい? それとも戻る?」


「戻らせる気ないだろ」


「ウェイド君だって、戻らない方が楽しいだろう?」


「……俺はな」


「なら、それがリーダーの考えさ。僕らだって問題ない。だろう?」


 クレイの呼びかけに、みんなが『おー!』と元気に反応する。言わされている感はない。本当に、みんなに余力があって言っているのだろう。


 俺は息を吐いてから、号令をかけた。


「じゃあ、もう5階層だけ進もう。今回はあくまで様子見だ。何が起きても20階層で戻る。それでいいな?」


『了解』


 立ち上がる。軽い休憩でも、体力は全快に近かった。


 俺は松明を掴み、先を照らす。


 気配はない。不気味なくらい順調な道程だった。俺たちは淡々と進む。時には楽しく会話すら交わしながら。


 だが、ダンジョンとはこのようなものだっただろうか?


「あ、宝箱、見つけた、よ……っ」


 アイスの報告に、「お、流石だな」と俺は告げる。照れるアイスの案内に従って移動すると、雪だるまが宝箱の上を陣取っていた。


「じゃ、あたしが開ける」


「サンドラ開けられるのか?」


「ダンジョン規制前はソロダンジョン探索者だった。マルチに動ける万能型」


「最近油断しがちなサンドラが?」とニヤニヤするトキシィ。


「め、名誉返上」


「名誉を返上しちゃったよ」


 トキシィにからかわれながら、サンドラはカチャカチャと細い金属製の道具をいじって宝箱を開けようとする。


 それを眺めながら、俺は口を開いた。


「そう言えば、宝箱って実は初めて見るんだよな」


「え、マジ!? 私とサンドラで潜った時は、ここまででかなり見つけたよ。今回は妙に見かけないけど」


「宝箱を見付けられるかどうかって、かなり運が絡むと言う話を聞いたことがあるよ。ウェイド君はその点、宝箱運はないんだろうね」


「ふふ……っ。ウェイドくんの、唯一の弱点、かも」


「やったねウェイド。親近感アップだよ」


「そこで親近感出してもなぁ~」


 と、そうこう言っていると、サンドラが立ち上がった。


「終わった。というか、宝箱に罠が仕掛けられてなかった」


「え、今までそんなのあった? だいたいサンドラがガチャガチャやって、『迂闊に開けたら爆発してた』とか『罠を解かずに開けたら閉じ込められて死んでた』とか言って開けてたじゃん」


「珍しいけど、たまにある。開けると大抵ゴミが入ってる」


「んじゃ開けなくていっか」


 ドライなトキシィの反応に、俺は愕然とする。


「え、……開けないのか?」


「アハハ。初めての宝箱だから、ウェイド期待してた?」


「そりゃするだろ! ワクワクするじゃんかこんなの!」


 トキシィに悪戯っぽい表情で聞かれ、俺は抗弁だ。すると、アイスが提案する。


「じゃあ、記念すべき初宝箱、ウェイドくん開けて良い、よ……っ」


「ここまで楽しみにされちゃあ、ウェイド君に開けてもらうしかないね」


「中身がゴミだったとしてもね」


「慰めは任せて」


「お前ら……」


 段々俺へのからかい方が堂に入ってきているみんなだ。俺は頭を掻きつつ、しかしワクワクを堪えきれずに宝箱に向かった。


「じゃ、ご開帳と行こうか」


 ニヤリと笑ってバカ、と宝箱を開いた。


 すると、もやもやと何やらいかにもそれらしい煙が湧きあがってくる。


「おおっ、これは確定演出じゃないか!?」


 煙に包まれる。視界は煙でいっぱいだ。それでちょっとむせてしまう。こんなに煙の量要らないだろ。


 俺は手でパタパタやり、煙を追い払う。そうして視界を晴らすと、宝箱はそこになかった。


「……は?」


 どころか、俺が立っている場所は先ほどの洞窟から変化していた。石造りの古い王宮。そんな仰々しい場所に、俺たち五人は立っていた。


『……』


 全員が困惑に沈黙している。


 どこ……? ここ……?

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