第36話 借金完済計画立案本部
最初の方針はこうだ。
「ナイトファーザー全体に、宣戦布告みたいな真似はしない」
俺がそう言うと、パーティの三人は目をパチクリとまばたきする。
「それはまぁ、その方がいいとは僕も思うよ。けど、そんなことは百も承知と言うか」
「甘いな、クレイ。当たり前のことほど言った方がいいんだ。勘違いなんていくらでも起きるからな」
俺の反論に、クレイは疑惑の表情。するとアイスが、ちょっとバツが悪そうな顔で言った。
「わたしは、その、ウェイドくん強い相手と戦いたがりだから、流れ次第だけど、そのまま本部まで狙っちゃうつもり、だと、思ってた……」
「え、……それは、本当にされたらマズイね」
「だろ? まぁこう言うことは往々にしてあるんだ。だから、当たり前の所から確認していくぞ」
俺は指を立てる。
「第一に、俺たちが敵対するのは、あくまで詐欺師だ。詐欺師を追い詰めて、詐欺師のみをぶっ倒す……という筋書きが、周りから見た流れになるようにする」
「周りから見た流れって、どういうこと?」
トキシィの指摘に「良い質問だ」と俺は返す。
「ま、推論だけど、詐欺師はどうせそんな大金どっかで使っちまってとっくに持ってないはずだ。だから、実質的な流れとしては、高利貸しまでさかのぼってとっちめることになる」
「そうだね。それは僕もその通りだと思う」
「だが、高利貸しってのはナイトファーザーっていうギャングだかマフィアだかの幹部なんだろ? 俺たち木っ端冒険者が倒した、なんて話が広まれば、奴らはメンツを潰された、と俺たちを狙いに来るはずだ」
「それは、困った、ね……」
「そうだ。そうなれば長期の全面戦争になるし、俺たちの敗北もありうる。そもそも、俺たちだってナイトファーザー以外にもやりたいことがあるからな。仕方なく街から逃亡、なんて流れはごめんだ」
だから、と俺は繋いだ。
「だからここで重要なのは、高利貸しそのもののメンツが潰れないように、詐欺師だけとっちめた、という形を取ることになる」
「……何となく、分かったような、分からないような。ウェイド、じゃあお金を持ってない詐欺師を倒して、どうやって借金をどうにかするの?」
「詐欺師に、『詐欺してごめんなさい。私の騙した大金貨5枚は借金してでも返します』ってな具合に、高利貸しに借金して返させる」
「ああ、メンツを潰さないって念押ししていたのは、つまり高利貸しもちゃんと倒すが、外聞的にはそんなことはしていないという形を取るってことだね」
クレイの納得したような言葉に、俺は頷いた。
「クレイの言う通りだ。俺たちは詐欺師をとっちめ、詐欺師を高利貸しの所まで連れていって借金してその金を払わせる。だが高利貸しは首を横に振るだろう。だから、それも潰す」
「けどそのままだと危ない、から、対外的には詐欺師さんしか倒してないよ、って形にする、んだね」
「その通りだ。高利貸しだって俺たちみたいな駆け出しにぶちのめされたと知られれば、追加で痛い目にも合うだろ。だから、そこは交渉して、分からせる。そういう筋書きだ」
注意点としては、と俺は続ける。
「詐欺師も高利貸しも殺さないこと。高利貸しを脅して出てくる用心棒みたいなのも、可能な限り殺すな。あとはそうだな。ちゃんと用件は伝えた上で戦闘ってとこだな」
「本当に当たり前のことを確認するね」と苦笑するクレイ。
「しないと危ないんだこれが……」
前世で後輩に雑な指示をしてどれだけ痛い目に遭ったことか。おかげで俺も巻き込まれて始発まで残業して帰ることもままあった。
「ということだ。何か質問はあるか?」
「はい! 詐欺師はどうやって見つけるの?」
トキシィの質問に、俺は答える。
「トキシィの記憶を頼りに、似顔絵を用意する。その似顔絵を元に人探しだ。半年前の事件で、しかも詐欺られた親父さんは死んでるとなれば、雲隠れしてても戻ってきてて不思議じゃない」
「なるほど……ありがとう、ウェイド」
「じゃ、じゃあ、わたしも、いい?」
「ああ、アイス」
俺は、アイスの疑問を聞く。
「あの、ね。高利貸しさん、だけど、お金持ってる人ってね、狙われやすいのもあって、強い人、いっぱい雇ってる、かも。どんな風に、倒す、の?」
「そこは突入前にまた作戦会議を開く予定だ。こないだの盗賊みたいに、問答無用で叩き潰すのはご法度だからな。いくらか考える必要がある」
あとは、そうだな。
「追加で一人、強いのを仮加入させてもいいかもな。トキシィの借金がなくなって、浮くのは大金貨四枚だから、もう一人増やすとややこしいことにはなるが」
「え!? いやいやいや、私は借金完済だけで全然報酬としては十分だよ! 追加で大金貨なんてもらえないって!」
トキシィの辞退を受けて、「じゃあもう一人には丸々大金貨一枚押し付けるか」と俺は笑った。「豪勢な話だねぇ」とクレイはと皮肉っぽく笑う。
「ということで、まずは詐欺師の似顔絵から用意しないとな。誰か、似顔絵が上手い奴知ってるか?」
俺が尋ねると、部屋中がシーンとした。あ、そこはいないんだ……。
「……何か、絵描きの依頼受けてる人とか、知ってたりしない?」
「僕は知らないね」とクレイ。
「私も、ちょっと覚えがないなぁ」と苦笑するトキシィ。
その中で、アイスが一人、おずおずと手を上げた。「お」と俺は期待の視線を投げかける。
アイスは言った。
「そ、その、ね? え、絵が得意な人は知らない、けど、……わ、わたし、少しは絵を描ける! ……よ?」
言ってから、顔を真っ赤にして隠してしまうアイス。そして即、「や、やっぱり、今の、なし……」と言うのを遮って、俺は言った。
「アイス、頼んでもいいか?」
「――――うっ、うん……っ!」
アイスと微笑みあう。ひとまず、似顔絵問題は解決しそうだった。
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