第35話 自由、始動

 俺が言った「詐欺を暴いてもぎ取りに行く」という言葉に、「で、でも」とトキシィは言う。


「そ、その高利貸し、有名な奴なんだよ? ナイトファーザーっていう大きなマフィアの、幹部とからしくって……。昨日のチンピラとは、一線を画す奴だよ」


「強いのか?」


「え? わ、分かんないけど……」


 戸惑うトキシィに、クレイが言った。


「ナイトファーザーのことなら少しわかるよ。危険な組織だ。僕らの世代でも、チンピラっぽい訓練生はいたよね。あれはだいたい、ナイトファーザーの下部組織の構成員だよ」


「なるほどな。中々人数は居そうだ」


「そうだね。鉄等級ならそれこそ無数にいるし、銅等級クラスの奴も現場のリーダーとして闊歩してるはずだ。武闘派の幹部なら、銀等級が居てもおかしくない」


「金と白金はどうだ?」


「えっ、と。金は、居ないものだと思ってもらって、いい、よ。普通、ベテランが引退するときに、ギルドマスターになるときに名誉で貰う等級だから」


「白金も考えなくていいね。そもそも白金等級は、剣、弓、松明にそれぞれ一人ずつしかいない。これは気にしなくていいよ」


 となるなら、恐らく金等級以上の敵は居ないと考えていいだろう。まったく未知の領域の金等級が敵、というのもワクワクする話だが、勝てる算段も微妙なので、今はさておこう。


 ひとまず今回は、組織全てを潰す訳でもなく、ただ高利貸しという幹部一人を絞めるだけだ。戦う銀等級は、ざっくり一人や二人で事足りるはず。


「なら、そう強大な敵ではないな。銀等級が1~2人、銅が10~20人、鉄が無数に。そのくらいなら、俺たちならどうにでもなる」


 に、と笑いかけると、「だ、ダメだよ!」とトキシィは言う。


「そんな、みんなを巻き込みたいだなんて、私言ってない! 私は、みんなとワイワイ冒険して、少しずつ借金が返せれば、それで十分だから」


「だから、ワイワイ冒険するんだよ。俺たち流に、な」


 言うと「だからっ!」とトキシィは反発する。しかし、他のメンバーは違った。


「やっぱり、ウェイドくんはすごいな。―――もちろん、わたしはついていく、よ? わたしは、どんな時だって、ウェイドくんの傍にいるから」


「僕も、やっぱり流石と言わざるを得ないね、ウェイド君。君のその様は、いつだって英雄的だ。……悔しいくらいにね。無論、僕だって参加させてもらう」


 アイスとクレイの賛同を受けて、トキシィ「え? あれ、みんな?」と視線を右往左往させて混乱だ。


 最後に、俺は言う。


「さて、ひとまず方針は固まったな。じゃあトキシィにも聞いておこう。、お前は


「……はい?」


 キョトンと、トキシィは目を丸くする。


「あ、あの。私の件、だよね? 借金って。え? 私が参加しなかったら、始まらなくない?」


「いや? これはもう、俺たちが俺たちに発行した、新規クエストだ。メンバーが一人欠員したくらいじゃ、ギルドから止められてるわけでもなし、止まりはしないぞ」


「え? え? おかしくない? 私の借金だよね? 私がここで参加しないって言ったら、どうなるの?」


「俺たちだけでやる。トキシィは休んでていいぞ。分け前はやれないが、借金はついでに失くしておく」


「……おかしいよ、君たち」


 呆然というトキシィに、俺は言い返した。


「違うぜ。俺たちが、正しい冒険者の姿なんだ。訓練校で教官に言われなかったか? 冒険者は、何よりも自由なんだって。本当の意味では王ですら俺たちを従えられない。俺たちはどこにでも行けて、何だってやれる。その責任もこみこみでな」


 だから、と続けた。


「俺はそのナイトファーザーとか言うクソ組織の中の、トキシィの親を食い物にしたクソを食いに行く。そして、そんな俺にのが、アイスで、クレイだ」


 アイスは微笑み、クレイは肩を竦める。トキシィは目を見開きっぱなしで、俺を凝視していた。


 俺は告げる。


「トキシィ。お前はまだ入ったばっかりだから、ここまでは求めない。けど。それは、覚えといてくれ」


 じゃ、行くか。そう言って立ち上がると、二人から「「了解」」と返ってくる。そこで、トキシィが声を上げた。


「私も行く!」


 俺は振り返る。トキシィは、ギラギラした目で俺を睨みつけている。


「もういい。分かった! 止めても止まらないなら、止めない。けど」


 トキシィが、俺を指さした。


「ウェイド! 今実感したよ。君、本当にイノシシ! それに二人もそれにノリノリで乗っかっちゃうし!」


 だから、とトキシィは続ける。


「だから、今後は私がパーティを落ち着かせるから。こんな三人、放っといたら危険なところに突っ込んですぐ死んじゃうよ!」


 その強気の言葉に、何だか俺は笑ってしまった。これまでの俺たちの、イケイケどんどんスタイルとは異なるが、これはこれで必要な素質だ。


 リーダーの傍には、異を唱える人間が居た方がいい。


「ハハハッ! そうかもな。じゃあ、ブレーキ役は、今後はトキシィの役目ってことで」


「任せて。とりあえず、高利貸しの名前すら分かんないまま街に出ようとするのは、待ちなよ」


「……それは、全く持ってその通りだな」


 俺は、静かに腰を下ろした。「ひとまず、最初のブレーキは効いたみたいだね」とトキシィは口端を持ち上げる。

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