第9話 浅層訓練開始
俺たちは、早速ダンジョンへと足を踏み入れた。流石洞窟の中と見えて、かなり肌寒い。
「教官が言った通り、少し厚手の装備で来てよかったね……!」
「ああ、そうだな。……しかし、暗いな。早速だが、松明をつけるか」
「うんっ……!」
俺は支給品の松明を壁にこすりつける。理屈は分からないがダンジョン内ならこれで火が付くのだと教えられた。松明の先に火花が散る。そして燃え上がった。
「じゃあ、警戒しつつ進もう」
「そ、そうだね」
そして、俺たちはまっすぐに道を進み始める。松明の光を翳しながら、ゆっくり、ゆっくりと。
ダンジョンの脅威を教えられるのは、もちろん先ほどの教官の話が初めてではない。繰り返し、繰り返し、座学を中心にダンジョンの危険について言い聞かされる。
恐ろしい場所だと。予想外のことはいとも容易く起こると。可能ならダンジョン探索を主軸とする松明の冒険者は止めておけ、と。
それでも、松明の冒険者になるものは少なくない。何故かと言えば、ダンジョンには他二つとは一線を画す夢が秘められているからだ。
救国の英雄はかつて松明の冒険者だった。あの国の王はダンジョンから持ち帰った財宝を元手に成り上がった。あの大商人は、元は松明の冒険者だからケンカを売るな―――
財宝。財宝だ。ダンジョンには例外なく財宝が眠っている。そしてダンジョンは屍を飲み込んだ分だけ財宝を蓄え、より強い魔物を番犬とする。
剣の冒険者として名を上げて騎士を目指すのもいいだろう。弓の冒険者として腕を上げればどこでも仕事にありつける。だが、その二つに財宝はないのだ。
……生憎と、俺は財宝なんてものに大した興味はないのだが。
道程は静かだった。俺たちの足音以外、何も聞こえないほどに。だから、その異変に気付くは難しくなかった。俺とアイスはまった同じタイミングで剣を抜く。
「松明を投げる」
「うんっ」
前に松明を投げた。するとそれに目をやられたゴブリンが3匹姿を現す。ゴブリン。魔法がなければ苦戦する、全身全霊で俺たちを殺しに来る小人。
だが、今の俺には荷が軽い。
「ウェイトアップ、ウェイトダウン」
俺は【加重】【軽減】を同時掛けして、瞬時に前に出た。剣を振りかぶりながらたった一歩でゴブリンの前に躍り出る。
ゴブリンはその一瞬の移動にたじろいだ。着地と同時、加重率を高めながら剣を振るう。あまりに軽い手応えで、ゴブリンの首が飛んだ。
まず一匹。
次にもう一匹に視線を向ける。するとすでに奴は俺に敵意を向けていて、棍棒を振るってくる。だがこの程度の近接戦なら、俺は負けない。
返した一閃で、ゴブリンの棍棒を破壊する。何せ俺の一撃は大剣のそれに等しい。ゴブリンは「ギャッ」と短い悲鳴を上げて、棍棒破壊の勢いのままに倒した。
これで二匹。
そこで俺は、近距離で暴れることに気がいきすぎていることに気が付いた。ゴブリンが俺に向けてボロボロの剣を振るう。マズイ。
が、ゴブリンはその途中からだんだんとゆっくりになっていき、最後には停止した。見ればアイスが荒く息を吐きながら、ゴブリンの背中側から手を当てている。
「……凍らせた、のか?」
「う、うん……。ま、間に合って、良かった……!」
俺は頭を一つかいて「助けられたな」と笑いかけた。するとアイスは「う、ううん! むしろ、わたしでも役に立てるんだって分かって、嬉しい……!」と口元をもにょもにょさせる。
「で、でも、びっくりしちゃった。あんな素早く動けたん、だね。フレインくんの時も速かったけど、今のは目にも止まらない、っていうか」
「新しく覚えた魔法のお蔭だな。……けど、アイスの魔法も助かった。知ってはいたが、こんな即時に敵を凍らせられるとは。素手で戦えれば、触れるだけで敵は即死するんじゃないか?」
「そっ、そんな……! わ、わたし、臆病だし、非力、だし。素手は、その……」
「まぁ、それはそうだよな。女の子に無茶言い過ぎたか。ごめん。まぁ良い活用方法はおいおい考えていくとして」
俺は松明を拾い上げる。それから周囲を照らすが、ひとまずの敵はこの程度のようだった。
周りにはただ、闇があるばかりだ。
「……ダンジョンの悪意、か」
俺は足元を照らす。ゴブリンの武器は棍棒にぼろの剣。だが、最初に倒した一匹が持っているそれは、少し趣が違っていた。
「……この紫の文様、なんだ?」
俺はそれを拾い上げる。ナイフ、のように見える。だが禍々しい。刃先を下にすると、ぽたっとしずくが落ちた。
「……それ、毒、かも」
「……なるほど」
俺はナイフをリュックの中にしまい込んだ。訓練生でも成果物はギルドで換金できるのだ。
にしても、1階層でもう毒か。何という悪意だろうか、と思う。ザコの代名詞ゴブリンがそれを持っている、と言うのも意地が悪い。
「あと、三匹。頑張ろう」
「う、うん」
俺たちは松明片手に歩き出す。また、自らの足音のみが響く時間が始まる。
しばらくは、そんな調子だった。歩きながら思うのは、ドロップの5人パーティってかなりキツイ組み方だったのでは、ということ。
何せノルマが1人頭3匹だ。合計15匹。人数が多い分安定はするだろうが、シンプルに課題が重い。
だが同時に思うのは、安定はある程度重視すべきなのだろう、ということだ。教官の言う通り、ダンジョンには悪意がある。財宝で釣りながら、探索者を罠にかけてやろうという悪意が。
だが、同時に疑問なのが、なら教官は何故2人以上、と言ったのだろうか、ということだ。あの安全喚起っぷりを考えるなら、必ず5人以上、とでも言いそうなはずだが。
そこで、俺たちは悲鳴を聞いた。お互いに目を剥いて視線を交わす。
「い、今の」
「同期の誰かだろうな。近いが……」
俺は考える。そこで、アイスが俺の服の裾を握ってきた。前髪に隠れた奥には、必死な表情。正義を訴える顔をしている。
「―――そうだな、助けに行こう」
「うん……っ!」
俺たちは駆け出す。松明を掲げながら。
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