第53話「ダルマストーブ」
父「次は押し方にいくぞ」
娘「これは、重要なやつね!?」
父「誰でも、できるけどね……でも、肛門は急所なので実はコツがいる。俺はテレビを見ながら横になって30分もお尻をもんだり、押したりしていたが、横になって肛門を押すのは難しい。指の角度が悪いんだ」
娘「指の角度ね……」
ノートにメモする冬子。
父「横になって肛門を押すことはできるが、浅くなってしまうんだ」
娘「それは、角度が浅いの?」
父「……角度か? 力が浅いのかな? 横になって、足を上にあげると肛門を押すことはできるが、なんか浅いんだよね」
娘「じゃあ、どういうやり方がいいの?」
父「俺が見つけた、一番の方法は、洗濯機に片足を乗せた状態で肛門を押すというものだ」
娘「お母さんが怒りそうなやり方だね」
父「ああ、怒られた……だから、お母さんがいないのを確認してからやってた」
娘「もっと、何かなかったの?」
父「膝を胸に近づけた姿勢なら肛門が開いて押しやすいのはわかったんだが、便座に片足を乗せてトイレの中でもできるんだが、なんかしっくりこないんだよね。安定感がないのかな? 支えになる物が欲しいな。俺が入院して動けなくなったら、お母さんが『私があなたの支えになります!』なんて言ってくれないかな?」
娘「言わないと思うよ……お母さん、小さいから、お父さんはかつげないよ……」
父「そうか……お母さん、身長150cmって言ってるけど、本当は148cmなんだぞ」
娘「お父さんが支えになってあげなよ」
父「お母さんをかつぐのは簡単だ、寝たきりになってもトイレに連れていくのもたいした苦労しないだろうな。ナオちゃんが寝込んだら、俺でも大変だ。入院しても女の看護師さんでは、トイレに連れて行くことはできないだろうな!?」
娘「ナオちゃんさんは、体重もあったの?」
父「いや、痩せていたよ。それでも80~90kgぐらいはあったのかな?」
娘「何かスポーツはやっていたの? 野球とか?」
父「野球は小学生の時だ、しかも草野球だから遊びで、コーチもいない。中学生の時は卓球部なんだ」
娘「えっ、卓球部なの? バレーとかバスケットなら身長で有利だろうに……」
父「ナオちゃんの運動神経は普通だった。特に優れているということはなかったな。優れていたのは喋ることだ。何か、販売や営業なんかで、喋る仕事の方が良かったんじゃないかな?」
娘「そんなに喋っていたの?」
父「普通、学校では隣りの席や後ろの席の人と話したりするだろ? ナオちゃんはクラスの端から端までで会話をするんだ」
娘「クラス中で話すの?」
父「廊下も使うぞ、窓から顔を出してグランドにいる人にも話す」
娘「凄いね。人と話せないって悩む人には考えられないような行動力」
父「ナオちゃんがいると騒がしかった。でも、ずるいところもあったんだ」
娘「なに? 女子の水着の着替えをのぞいたとか?」
父「それは別の奴だ。当時、小学校の暖房は石炭でダルマストーブというのを使っていたんだ。それで、休憩時間にダルマストーブのそばで暖まっていた女子がいたんだけど、ナオちゃんが走り回って、その女子にぶつり、女子はストーブの煙突に腕が着いて火傷をしてしまったんだ。ちょうど腕時計をするあたりだな」
娘「女の子の火傷はまずいね。深い火傷だったの?」
父「表面が焼けただけだと思う。跡に残るようなものではないと思うが、先生に言われてナオちゃんと、その時、一緒に遊んでいた者は、放課後に火傷をした女の子の家に行き、親に謝ることになったんだ」
娘「お父さんも謝りに行ったの?」
父「その時は、男子5人で遊んでいて、5人で女の子の家に行った。先生も一緒にいた」
娘「そんなふうにするんだ……」
父「俺は、ナオちゃんが謝るものだと思っていたら、前にいた俺を誰かが後ろから押して、女の子のお母さんの前に出したんだ。俺は、しかたないから、女の子のお母さんに謝ったんだが、ナオちゃんは謝らないで後ろにいたんだ。後ろから押したのも、たぶんナオちゃんだろう……」
娘「それ、ずるいね」
父「そうだろう!? 俺も、ずっとずるいな〜と思っていた」
娘「そういうのって、男の人でも忘れないものなの?」
父「忘れないね……」
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