呼ばれたい名前。

 7月1日(木)


 結局四隅を試したが、ツチダのストライクゾーンは外側3インチ(7cm)と下側3インチはストライクに取らない。正直言って日本ならアマチュア以下、いや未満だ。     

こんなん打たれねーわけないじゃん。もう落ちる球で勝負せざるを得ない。


 2回、先頭の4番モレノに縦スラを右中間にもっていかれて2塁打。二ゴロと犠牲フライで先制点献上。


 ただ打たせて取る、あるいはスイングアウトを狙うという方針は功を奏して8回2失点。9回はトリアーノが〆て2対4でチームは勝利。4勝目をマークした。


 7月2日(金)


  今日はトレーニングと練習のみでベンチ入り免除。試合時間にはすでにホテルでストレッチをしながらゆっくり過ごす。一応地元ケーブルTV局が中継をやっているけど見ない。ちなみにチームは2対1で敗北。


7月3日(土)


  地元ケーブルTV局から練習の合間に取材を受ける。俺は2年前のドラフトで全体1位の高卒選手、シーズン前はプロスペクトランキング全体1位と「絵に描いたようなエリート」新人選手ダカラ取材したいのかなーと思いきや。


 実はトワイライツのスター選手であるマウアーも9年前の「高卒全体1位」なのだ。それだけでなく彼は地元ミネソタ州セントポール市出身。地元の人気がないわけがない。ようは俺にマウアーを褒めさせたい企画。え?無償ただでヨイショ要員をやらせる気なのか?


 すまんがマウアーの経歴なんて知らんがな。俺が「フロリダのマウアー」?言われるわけねーだろ?目指すわけねーだろ。タイプが全く違う選手なのに。


 このマスコミのマウアー愛の深さに辟易へきえきしつつ「マウアーのようにオールスターに出られる選手にはなりたいですね」と棒読みレベルの社交辞令を言って終わり。


 少しイライラしながら打撃練習を終えると捕手のモレノが俺を訪ねてくれた。モレノはカナダ出身で俺が出場した北京五輪から俺を知っていてくれてたらしい。昨年のWBCにも対戦はなかったがカナダ代表として出場していて俺のこともチェックしてくれていたそうだ。


 「地元のTV局がすまんな。俺とマウアーも『新』MM砲とか勝手に名付けられて辟易うんざりしてんのよ。」

ちなみに「MM砲」とはかつてこのチームで活躍した大選手ミッキー・マントルとロジャー・マリスの頭文字イニシャルをとったものだ。


「球団も集客に必死なのもわかるし、彼らが偉大な選手なのもわかるけどさ。」

 とはいえモレノ自身も4年前にア・リーグMVPを受賞した名選手であり今更誰かの名前で呼ばれたくはないのだろう。


 そしてモレノ自身にとっての「憧れのヒーロー」はプロアイスホッケーのゴールテンダー(ゴールキーパーのことね)のロアという選手だったという。自身の背番号33もその選手にちなんでいるそう。


「だいたいキミが誰かに憧れてるんなら、そんな『攻めた』背番号は背負わんわな。」

 そういって笑いながら背中をたたいた。確かに背番号「∞【無限大】」を背負うと決めたのは誰でもない自分だけの道を進むと決めたから。もちろん「無限大アンリミテッド」と読んでくれるのは本拠地だけ。登録は「00」だから。


 「せっかくだからキミのサインをくれないか?」

「あ、僕にもお願いします。」

ええ人やった。


 今日は4番指名打者での先発出場。ベーニャが休養日のためだ。相手投手は左腕のルリアーノ。第一打席は初回、四球で出たドンゴを塁において二死一塁。外角への高速スライダーに合わせて一塁線へ飛ばしたがモレノのファインプレーで突破ならずにアウト。


 その後、チームは先発のルリアーノをなかなか打ち崩せず。3回にはモレノの17号2ランも出てウェズは4失点。そして2番手に代わった8回がビッグイニングに。9番のバードレッドから4連続長短打で2点をかえして4対3。無死三塁一塁で俺。右腕のグリエルの初球のシンカーを右翼席への14号3ラン本塁打。


 しんと静まりかえった観客を背にダイヤモンドを一周する。これで4対6と逆転に成功。二死からナザーロの故障で昇格していたジョイナーの1号2ラン本塁打も出て8点目。試合を決定づけた。


 ちなみに俺はボールにサインしてモレノに送ったのだがクラビー(クラブハウススタッフ)さん経由で俺に送られたのはモレノのサイン入りユニフォームだった。

さすがMVP選手はやることが違うわ。


 

 【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席75 打数67 安打26(長打14)四球5死球2 犠打1 打点23 二塁打3三塁打1 本塁打9 

(右)打席41 打数38 安打14(長打7) 四球3  打点17 本塁打5


(合計)打席116 打数105 安打40(長打20) 四球8死球2  犠打1 打点40 二塁打6三塁打1 本塁打14 打率 .381 出塁率.426長打率.857 OPS1.283

盗塁4


投手

(左)試合5  3勝0敗  39回 失点7 奪三振30  防御率1.62

(右)試合4  1勝 2敗  27回 失点9 奪三振18 防御率3.00

合計 試合7 3勝 2敗   66回 失点16 奪三振48 防御率2.18

  


 


 





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