高校・柔道

 小・中とバスケ部に入っていた僕だが、中学二年の時に辞めてしまった。内部でいろいろあった。僕はただ純粋にバスケがしたかったけど、いろんなことに煩わされることが面倒になり、退部した。もし僕が辞めずに順調にキャリアを積んでいたら、今ごろバスケの本場NBAでステフィン・カリーと肩を並べてプレイしていたはずだ(ドン!)。

 というわけで、僕は公立一本受験で受かった高校生活では、のんびりと帰宅部生活を謳歌した。

 スポーツをしなくなった僕だが、体育の授業で柔道があった。柔道の授業では毎回自分でわざと転んで受け身をとるというような切ない練習が繰り返された。一体何が悲しくて自分でずっこけなければならないのか(大事な基本の練習です)。

 柔道の授業の二年目で、ようやく試合をすることになった。

 組み合わせの結果、僕の相手はまさかの黒帯、柔道有段者だった。

 僕は何もできないうちに瞬殺された。

 数ヶ月後。二回目の試合。一回目と組み合わせが変わったはずだが、なぜか僕の相手はまたしても黒帯の同じ相手だった。なんでやねん。

 僕は一回目の時よりだいぶ粘った。

 黒帯が思い切り腕を振って袖を掴む僕の手を振り払い、一本背負いの体勢になる。僕はあえなく投げ飛ばされた。一本!

 数ヶ月後。これで最後となる三回目の試合。これは階級の分かれたトーナメント形式で行われた。僕は軽量級の試合に出る。相手は今度は黒帯ではなかった。

 僕は試合は初めから背負い投げだけで攻めると決めていた。中途半端に技を出すより、これ、と決めてシンプルに技をかけるようがやりやすいと思った。

 僕は試合中幾度となく背負い投げを仕掛け、試合終了間際でようやく相手の足を浮かした。一本!

 続くトーナメントの二回戦目では、相手がゴリラのような怪力の持ち主だったが、僕はどうにか判定勝ちを収めた。

 準決勝となる三回戦では、僕はこれまでで一番鮮やかな背負い投げを決めた。一本!

 トーナメントの階級は軽量級、中量級、重量級と別れ、計六名が決勝に進んだ。柔道の授業は二クラス合同で行われていたが、僕のクラスで決勝まで進んだのは僕一人のみだった。クラスの期待を背負い、僕は決勝の舞台に上がる。

 相手は、これで三度相まみえることになった、かの黒帯だ。いいぜ、相手にとって不足無し。

 試合が始まる。まず組み合わなければ何も始まらないが、黒帯は僕をおちょくるようにこそこそ逃げ回った。

 この黒帯と対戦する時、他の人は初めから負ける気満々で試合をしたが、気の強い気質の僕は勝つつもりでやった。僕は舞台に上がると、スイッチが入る。

 果敢に進み出て、力強く黒帯の襟を取った。

「おお!」

「すげー!」

 と、たかが襟を掴んだだけで周りから歓声が上がった。黒帯にここまで攻撃的にいく人間は他にいない。

 組み合いになり、お互いに何度か技をかけたが、崩れない。

 黒帯が思い切り腕を振り、袖を掴む僕の手を振りほどこうとした。僕の脳には前回の試合の記憶が蘇り、一本背負いが来ると察知した。

 黒帯が背中を向け僕を投げ飛ばそうとしたが、予測できたため僕は耐えることができた。耐え切ったところで、逆にチャンスだと思い、僕はそのまま黒帯を押し倒そうと力を込めた。しかし、ピクリとも動かない。かなりの力を込めたつもりだが、とてつもない腰の強さだ。黒帯は伊達じゃない。

 この力の攻防は、おそらく周りの観客にはまったく伝わっていない。試合をしている二人の間だけに流れた感覚だ。

 試合を通して、黒帯もわかってきたようだ。僕が何もできなかった前の二試合とは違うということが。黒帯の「やばい、やばい」と焦りの呟きが僕に耳に聞こえた。素人相手に引き分けなんて不様だと考えたのかもしれない。

 黒帯が大外刈りをかけてきた。足をかけられたが、大丈夫そうだったので僕はそのまま放置した。まったく、そういうところが詰めが甘いというのに。

 黒帯が体勢を戻すと思ったが、そのまましつこく体を押し込んできた。僕の体のバランスが少しずつ崩れていく。そのまま尻もちをつかされた。有効!

 黒帯が抑えに入ろうとしたが、僕は一度それをはねのけた。周りから「すげー!」とまた歓声が上がる。

 しかし再び覆い被さってきた黒帯に倒され、背中を畳みにつけさせられる。黒帯は袈裟固めの体勢に入った。

 学校の授業でちょっと柔道を経験しただけで、黒帯持ちの本気の袈裟固めを受けた人間はあまりいないだろう。めっちゃ苦しい。動けないだけじゃなく、苦しいのだ。こいつマジだ。殺す気か!?

「頑張れー!」

 とクラスメイトが応援してくれたが、がっちり入った黒帯の抑え込みから逃げられるはずもなく、そのまま一本になるまで抑え込まれた。

 試合終了。

 また、負けた。こちらは素人で相手は有段者とはいえ、悔しい。僕は畳に仰向けになったまま、しばらくぼーっとした。

 一通り感傷に浸ってから、僕はすっくと立ち上がり、中央に進んでお互いに礼をした。

 その時周りから拍手が起こった。僕の健闘を称える拍手だった。負けたけど、清々しい気分。

 僕が高校生活で一番印象に残っているシーンは、この柔道の試合だった。今でも鮮やかに思い出せる。

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