(93)爆笑王子様
~紗彩目線~
「なあ、サーヤ」
「なんですか?」
「シヴァのことをどう思っているんだ?」
「シヴァさんのことですか?好きですよ。彼は恩人ですし…………私がどんなにダメダメでも根気強く鍛練に付き合ってくれますし」
引きずられて言ったシヴァさんたちの方を見ていると、隣にいたレオンさんに聞かれた。
シヴァさんのことが好きか?
それは、もちろん好きに決まっている。
異性としてではなく人としてだけど。
彼は、私にとっては命の恩人だ。
彼に助けてもらわなければ、今頃私はあそこで餓死していたか魔物に殺されて死体も残らず食べられていただろう。
だからこそ、私は彼らに返せるかわからないぐらい大きな恩を感じている。
というか、現在進行形でその恩は増えていっているけど。
あの誘拐犯不法侵入事件が起きてからは良く鍛練をつけてもらっている。
まあ、鍛練って言っても足腰を鍛えて犯罪者から逃げきれるようにっていう鍛練だけど。
もちろんのことだけど、私は彼らについていけるような体力も脚力もなかった。
最近、やっと長時間走るのに慣れてきたころだ。
…………社会人になってから格段に体力が落ちたと気づいてしまった。
そんな足の遅い私のことも、シヴァさんや騎士団の人たちは根気強く鍛練に付き合ってくれる。
…………自分が役立たずのお荷物だってことがよくわかります。
「なるほどな。じゃあ、もしシヴァがハーフだったらシヴァのことを嫌うか?」
…………この話題、この世界に来てからいったい何度目なんだろうか?
なんで、この世界の人ってそんなにハーフの人を邪険にしているんだろう?
そう思いながらも、逆に私もレオンさんに聞く。
まあ、質問に質問を返すのは失礼だけど。
でも私としてはシヴァさんがハーフであろうとなかろうと、差別されるのは普通に気分が悪い。
「何故?」
「何故って……」
「ハーフだからと言って、シヴァさんを嫌う理由がわかりません。だってシヴァさんはシヴァさんですし、ハーフだからと言ってシヴァさんが私の恩人なのは変わりませんから」
「サーヤは、いい子だな!」
レオンさんは、私の答えを聞くとにっかりと笑って私の頭を撫でた。
…………この世界の人は、人の頭を撫でるのが好きなんだろうか?
というか、いい子って成人女性に言う言葉ではないと思うのだが。
「じゃあ、サーヤ。もし、シヴァがいじめられていたらどうする?」
「復讐します」
レオンさんの質問に答えれば、彼は目を見開いて固まった。
え、そりゃあ復讐はするよ?
捕まらない程度のものを。
だって、自分がされて嫌なことを相手にするってことは自分も嫌な目にあいたいって事でしょう?
「テープって知っていますか?」
「え、ああ知ってるよ」
「その人がもし毛深ければ、毛深い脛に長いテープを張り付けます。そして、一気にそれを剥がします」
「ぶほっ!?」
私が聞けばレオンさんは不思議に思ったのか首をかしげながら言ったけど、私が言った言葉に噴き出して笑い始めた。
え、大丈夫?
王子様が出したらヤバそうな声が出てきたけど。
笑っているレオンさんを見ながら、私は思わずそう思ってしまった。
あ、でもこの方法は足が毛深くなかったら有効ではないかも。
そう思うと、何がいいかと考え込む。
あんまり過激なのは、やった場合こっちの立場が危うくなる。
かといって、毛深くない人は日本にもいたから毛深いとは限らないし。
私も、体毛は薄い方だからガムテの方法は意味ないし。
その場合は…………あ、そうだ。
「もし毛深くないのであれば、家の中で歩くたびに足の小指を家具の角でぶつけて悶絶すればいいのです。それか、足の親指を爪を切りすぎて深爪になってほしい」
「ぐふっ!!」
「…………大丈夫ですか?」
私がそういえば、とうとうレオンさんはヒーヒーと言いながら床を転げまわりながら爆笑してしまった。
…………レオンさんの笑いの沸点って低いのだろうか?
ちなみに、なぜこの案なのかと言えば小さい頃に私の祖父が言っていた言葉である。
『箪笥の角に小指をぶつけてしまえ』という地味に嫌な呪いの言葉である。
ちなみに深爪の話は、ジョゼフさんからの注意で思い出した話だ。
こっちの世界でも爪は怪我防止できるらしいし、私も小さい頃に深爪だの巻き爪だので通院した経験があるから。
特に、足の親指の深爪や巻き爪は痛い。
歩くたびに力を入れるから。
「いや…………サーヤ、お前最高だな!!もう、俺の子供になれ!!」
「それは拒否します」
「即答!!」
やっと笑いが収まったのか、立ち上がったレオンさんにそう言われたけど断った。
だって、成人女性が王子の娘とかどんな笑い話だよ。
ちなみに、レオンさんは何が面白かったのかまた爆笑し始めた。
今日わかった事。
レオンさんの笑いの沸点は低かった。
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