(89)突撃王子様①
~紗彩目線~
ハイドさんと別れて、私はラーグさんに抱き上げられたまま本部に戻ってきた。
とはいっても、なぜか裏口から入ろうとしているけれど。
何故なのかと首をかしげていると、表の入り口の方が騒がしくなっていることに気づく。
「あれ、なんだか騒がしいですけどどうしてんでしょうか?」
「…………まだ、いるのか」
「あはは」
私の言葉にラーグさんは眉を顰め、ジャックさんは苦笑した。
ラーグさんの反応からして、彼の苦手な人が本部に来ているのだろうか?
とはいっても、お客さんが来るなんてもちろん聞いていない。
ということは、急に来たのか私には関係なくて言われなかったのかのどちらか。
まあ、後者の方があり得そうだけど。
だって、私ここに保護されているってだけで正式に所属しているってわけじゃないし。
「いるって?」
「あーうん……とりあえず、サーヤは団長の部屋に行こっか」
ラーグさんに聞けば、彼は私を下ろして周りをキョロキョロと見ている。
不思議に思っていると、ジャックさんが苦笑を浮かべて私の手を引いて歩こうとしている。
どうしたんだろう?
そう思っていると、ラーグさんが私の方を見た。
「面倒ごとに巻き込まれる前にとっとと行くぞ」
「ん?」
ラーグさんがそう言いながら裏口のドアを開けた時、一人の男性と目が合った。
うなじまでの茶髪に、黒色の鋭い瞳。
身長は、シヴァさんよりも少し低めだ。
頭には、少し細長くて尖った耳。
なんだろう。
あの耳、どこかで見覚えのある耳だ。
…………ああ、そうだ。警察犬とかでよく見るドーベルマンだ。
「え!?」
「ジャックにラーグか」
ジャックさんの言葉に、ピンッと立っていた耳をヘニョンと垂れさせながら男性は言った。
…………あの耳、可愛い。
にしても、ドーベルマンに似た耳があるってことは犬の獣人なのだろうか?
でも、背丈は明らかにジャックさんの二倍はありそうだけど。
そういえば、ジャックさんは確か『小型種の犬の獣人』だったはず。
ドーベルマンは確か大型犬。
もしかしたら、種類によって背丈が違うのだろうか?
「………ん?」
そう思っていると、私とドーベルマンさん(仮)の目が合った。
どきりとした。
あまりにも、鋭い瞳だったから。
ちょうど私はジャックさんとラーグさんの陰に隠れていたからか、ドーベルマンさん(仮)は驚いたのか目を見開いていた。
「あ、この子はサーヤです。二週間ほど前に、団長と副団長に保護されました」
「ああ…………オズワルドだ」
「紗彩です」
ジャックさんの紹介に、私は思わずたじたじになりながらも名前を名乗ってぺこりと頭を下げた。
どうやら、ドーベルマンさん(仮)はオズワルドさんというらしい。
「…………一応、謝っておく。すまない」
「え?」
「あー、止めたんですね」
「止めた。それでも、止まらない。というわけで、サーヤ。すまないが、耐えてくれ」
「え?」
オズワルドさんの申し訳なさそうな声に思わず頭をあげれば、彼は心底申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
そんなオズワルドさんに、ジャックさんが遠い目をしながら言った。
もしかして、状況がうまくわかっていないのは私だけなのかもしれない。
そう思っていると、三人がこちらを見て疲れたような表情を浮かべていた。
「お前か!?」
「みぎゃ!」
どうしたんだろう。
そう思った瞬間、元気な声と共に私の足は地面から離れていた。
私は、思った。
いったい、どういう状況なの!?
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