(82)鱗

~紗彩目線~



「…………休みだったのに」

「早く行け」



 ブツブツと文句を言いながら私を抱きしめるノーヴァさんから、ラーグさんは私を引き離しながらそう言った。


 固まったチョコを喜びながら食べているノーヴァさんを微笑ましく見ていれば、騎士さんが一人厨房にやって来た。

 どうやら、緊急会議になったからノーヴァさんを呼びに来たらしい。


 それを知った瞬間、ノーヴァさんが私を持ち上げて駄々をこね始めた。

 …………ノーヴァさんって、時々本当に年上なのかって疑問に思う行動をとるね。



「あら、いい匂いね~」

「セレスさん」



 ノーヴァさんを見ていると、セレスさんが厨房に入ってきた。

 そんなセレスさんの姿に、ノーヴァさんは今度はラーグさんに抱き着いて「…………嫌だ」と駄々をこね始める。


 もちろん、私はラーグさんに抱き上げられている。

 だから、私は必然的にラーグさんとノーヴァさんの間に挟まれてしまうことになる。

 …………非常に苦しいです。


 そんなノーヴァさんの軍服の襟をセレスさんが掴んで、彼を引き離した。



「ごめんなさいね~、サーヤ。とっとと、この馬鹿連れて行くから。今度、お茶会しましょう」

「あ、はい」



 ニコニコと笑いながら、ノーヴァさんを片手で持っている。

 ものすごくいい笑顔ですね、セレスさん。


 しかも、彼の足は少し床から離れている。

 …………セレスさんって細いけど意外に筋肉あるんだな、と思ってしまった。

 

 もしかして、着痩せする方なんだろうか?


 そう思っていると、ノーヴァさんが私の方に手を伸ばしてきた。



「サ~ヤ~」

「ほらっ、とっとと行くわよ!サーヤにみっともないところを見せないの!」



 手をバタバタと上下に振りながら、私に手を伸ばすノーヴァさん。

 そんなノーヴァさんをズルズルと引きずっていくセレスさん。

 私を下ろし、厨房のドアを開けるラーグさん。


 そんな彼らにどうすればいいのかと思っていれば、苦笑しながら彼らを見ている騎士さんが見えた。

 …………慣れているのだろう、きっと。


 ドアが閉まると、嫌がるノーヴァさんとそんな彼を叱るセレスさんの声が少しずつ小さくなっていった。



「…………」

「…………」



 完全に二人の声が聞こえなくなり、厨房の中はシンッと静かになった。

 …………非常に気まずい。


 もしかしたら、ラーグさんも私と同じくあまり喋らない人なのだろうか?


 そう思ってラーグさんを見ると、手袋を外していたのかちょうど彼の手の甲にある鱗が見えた。


 そう言えば、ラーグさんは確かリザードマンと熊の獣人のハーフだったはず。

 ということは、あの鱗ってトカゲみたいにツルツルしているのかな?


 そう思うと、友人のペットのトカゲの感触を思い出した。

 あのツルツル感が結構好きなんだよね。

 …………勝手に触ったらダメだよね、やっぱり。



「…………気になるんなら触るか?」

「え、いいんですか?」

「…………気にしない」



 そう思っていると、ラーグさんに話しかけられた。

 どうやら、見ていたのがバレてしまったみたい。


 少し恥ずかしくなりながらも見せられた彼の鱗を触っていれば、彼に頭を撫でられた。


 そして思った。

 …………ここの人、頭を撫でるの本当に好きだね。


 薄い緑色の触ってみれば、鱗はツルツルとしていてところどころザラザラとしている。

 友達のトカゲと違って、ほんのりとした温かさを感じる。


 やっぱり、ハーフだから私の知っているトカゲとは違うのかもしれない。


 そう思いながらも触っていると、頭上でラーグさんの雰囲気が緩んだのを感じた。



「楽しそうだな」

「あ……すみません」



 慌ててラーグさんを見れば、彼は薄く笑っていた。


 そんな彼の表情に、私は驚いてしまった。

 てっきり、ラーグさんは無表情がデフォルトなのかもしれないと思っていたから。


 そう思いながら彼のことを見ていると、ラーグさんは笑顔からまた無表情に戻ってしまった。


 それが、少し残念に思ってしまった。

 だって、可愛かったし。




「いや…………なぜ楽しそうなんだ」

「…………思い出してしまって」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る