(79)とある裏側②

~ノーヴァ目線~



 二日後、サーヤに聞いたら反応からして副団長と同じような雰囲気が一瞬した気がした。


 ちなみに、ラーグは陰で俺たちのことを見ている。

 陰で見ないで、俺と一緒に怒られてよ。


 俺、これからサーヤに怒られるかもしれないんだよ?

 何十歳も下の小さな子に。



 【混血】のことを悪く言った瞬間、サーヤの雰囲気が変わった気がした。


 なんだろう。

 さっきまで綿みたいなほんわかふんわりとした雰囲気が、刃物の先みたいな鋭い雰囲気になった感じ。



「…………そういう言い方は良くないと思うのですが」



 『思う』…………『よくない』と断言するっていう感じじゃなくて、サーヤ自身の考えとして提示してるってことかな?


 ああ、そうか。

 サーヤは中身はともかく実年齢は子供だから、大人の俺を説教するのはやっぱりやりにくいのかな?

 だから、サーヤの意見をして言っているのかな?



「では、逆に聞きます。私には、獣人のような耳はありません。でも、ノーヴァさんにはあります」

「うん」



 ?

 いったい、どうしたんだろう。


 そんなことを改めて言わなくても、見た目でわかるよね?



「私が、それを『変だ』と言ったり『気持ち悪い』と言ったらどう思いますか?」



 グサリと、心に言葉の刃物が刺さった。


 気持ち悪い?

 サーヤにそう言われるの?


 なんで?

 俺、何かした?

 俺が、ちゃんとしなかったから?

 俺が、こんなことを聞いたから?

 俺が、悪い子だから?



「『こっちに来るな、化け物』と言われたら?」



 グルグルと考えていると、またサーヤに言われた。


 そんなの、嫌だ。

 俺は、化け物じゃないよ。

 俺は、どこにでもいる獣人だよ。


 歪む視界でサーヤを見ても、涙で歪むせいでサーヤがどんな表情を浮かべているのかはわからない。



「嫌ですよね?ノーヴァさんは自分が嫌だと思うことを、ハーフの人たちに対して行っているのですよ。それが、他の人が言っていたことだとしても」



 たしかに、そうだ。

 いくらラーグに言われたからって、俺はひどいことを言った。


 でも、こんなこと想像したこともなかった。

 自分が言われたら、どう思うかなんて。



「自分が嫌だと思うことを、相手も嫌がると思いませんか?」

「う"ん"」

「それなら、言わないようにしましょう?それに人が嫌がることを真似すれば、ノーヴァさんをよく知らない人はノーヴァさんのことを嫌な人だと勘違いしますよ?それでも、いいんですか?」



 …………ああ、そうか。


 その言葉で、サーヤが怒る理由がわかった気がする。

 俺が、他の人から『嫌な奴』だって勘違いされないように注意したんだ。


 サーヤは、俺のことを考えてくれたんだ。

 ライバルに勝つことしか考えず、俺のことを考えてくれなかった俺の両親あいつらとは違って。



「でも…………言ってた」



 でも、まだ駄目。

 サーヤの言葉って、すごく正論すぎて言われるたびに心にグサグサ刺さるけど。


 でも、ラーグとの対価の『【混血蔑視】の思想』について探れていない。


 でも、この感じだとサーヤは持っていないと思うけど。

 と言うか、絶対に持ってないでしょ。

 


「言っていた人たちは、可哀そうな人ですね」

「…………え?」

「だって、そうでしょう?誰からも注意をされないということは、誰からも関心を持たれていないということです。そういう他人の悪口を言う人は同じように悪口を言う人同士でなければ、気分が悪いという理由で人がどんどん離れていくでしょうね」



 …………注意?

 そうか、サーヤは俺が勘違いされないように注意した。

 それは、サーヤが俺に関心以上の気持ちを持っているから。


 でも、そうだね。

 悪口は、聞いていても気分が悪い。

 どうせなら、楽しい話題を聞きたい。


 そう思っていると、サーヤになんで【混血】が怖がられているのかって聞かれた。


 まあ、確かにサーヤは知らないか。

 と言うか、たぶんジョセフも副団長も教えていないんだと思うけど。


 だってジョゼフは自分の義理の息子が【混血】だし、副団長は尊敬している団長が【混血】だし。

 団長に救われた俺やセレスも気分悪いけど、二人にとっては余計に気分悪いだろう。



 【混血】には、二種類ある。


 片方は、腕や足や指などあるべきものが失われて生まれてくるか。

 これは、親同士の種族の血が反発しあった結果らしい。


 もう片方は、父親と母親の種族の能力を二つとも強化されて生まれる。

 これは、親同士の種族の血がうまく混ざった結果らしい。


 反発しあうか、うまく混ざるか。


 でもどちらの立場を見ても、一部の奴らは嫌な感情を持ってしまうみたい。

 物凄くむかつくけど。



「ハーフの方は、全員暴れたり暴力を振るったりするんですか?」

「!?そんなことない!!」

「ハーフの方は、周りに対して理不尽なことを強いりましたか?」

「そんなこと…………ないよ!!」



 そんなことはない。


 ラーグはなんだかんだと言って、いつも美味しい料理を作ってくれる。

 子どもが嫌いって言っているけど、それだって自分と子供が傷つきたくないから自分に言い聞かせているだけ。


 ただ、力が強いだけなんだ。


 涙でぼやける視界のせいで、サーヤの表情は何も見えない。

 淡々とした言葉に、サーヤが人形のように見えてくる。


 この子が、どういう表情を浮かべているのかわからない。

 でも、心のどこかで見るのが怖いと思ってしまう。



「なら、どうして怖がるのです?…………力が強いから怖いって、それはノーヴァさんたちにも言えますよ」



 …………それって、どういう意味なんだろう?


 俺達にも言えることって?



「力が強くて怖いのなら、私にとってノーヴァさんもハーフさんもどちらとも背が高くて力が強くて怖い存在になりますよ」

「え……あ……」



 …………ああ、確かにそうだ。

 俺達は普通のことだけど、サーヤにとっては違う。


 でも、サーヤがすぐに否定してくれた。

 俺達は人を守るために力を使っているから。

 逆に、犯罪者はサーヤを簡単に傷つけることができるから。



「だからその……使い方次第じゃないですかね?それぞれの使い方です。ノーヴァさんたちが持っている武器だって、騎士が使うから人を守る武器になっているけど、犯罪者が使えば人を傷つける武器になります。だからその…………強さとかに目がいっちゃうとは思いますが、その人の人柄を知ればその人がどんなことに力を使うかわかると思います」



 サーヤのその言葉に、俺はもう駄目だった。


 ボロボロと泣いていた。

 サーヤが慌てる声が聞こえてくるけど、もう何も反応できなくなってしまった。

 なんか、ラーグが相手しているみたいだけど。


 でもラーグの声音からして、心は許してないけど警戒は解いた感じかな。

 …………セレスもそうだったけど、いい加減ラーグも前に進んでいていいと思う。


 ずっと、警戒して一部のメンバーとしか関わらないって言うのはラーグにとっても良くないし。

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