(69)vs誘拐犯⑧
~ジョゼフ目線~
「ふむ…………怪我人はいないようだね」
捕らえた犯罪者たちの周りを取り囲む騎士たちを見ながら言っていると、動くことのできない犯罪者たちの前に立つセレス君を見つけた。
彼の方に近づけば、普段の彼からは聞こえてこないとても低い声が聞こえてきた。
「おら、とっとと吐け!吐かねぇんなら、てめぇのその汚ねぇ面をもっと見るに堪えねぇ面にするぞ」
そう拘束されている彼らに対して怒鳴るセレス君に、慣れているとはいえ驚いてしまう。
任務に出ている時はだいたいこうなるが、普段の彼からは全く想像もできない。
サーヤ君がこの姿を知ったら、どれほど驚くだろうか。
そう思っていると、ノーヴァ君が近づいてきた。
「…………サーヤ、知ったら驚く」
ポツリと聞こえてきたノーヴァ君の言葉を聞いて、どうやら彼も同じことを考えたことがわかった。
まあ、それもそうだろう。
二週間見て来てわかったが、サーヤ君とセレス君の間には同性の友人のような絆があるようにも見える。
サーヤ君もセレス君に気を許しているし、セレス君も彼女のことを大切にしている。
ただ、彼女がいつも見ているセレス君の優しげな笑顔を今の彼は浮かべてはいない。
苛立ちと怒りが混ざったような凶悪な肉食獣のような笑顔。
…………これが、神人族が使っていた『ギャップ』と言うものなのだろうか?
「…………なに、見てんだよ?」
「…………セレス、絶対にその顔サーヤに見せちゃダメ」
「本当になんなのよ、いきなり!?」
セレス君が不機嫌そうな声音で言ってくるが、ノーヴァ君がサーヤ君の名前を出したせいか元の口調に戻った。
「最近……サーヤって言うと戻る」
「あの子の前でこんな話し方をしろと!?あなた達、アタシがあの子に嫌われてもいいって言うの!?」
ノーヴァ君がボソリと言った言葉に苦笑していると、セレス君が顔を真っ赤にして大きな声で言ってくる。
それにしても、嫌われる…………あの子がセレス君を?
ハーフのこともセレス君の口調のことも気にしなかったし、サーヤ君なら普通に少し驚くぐらいですませてしまいそうだけど。
「…………案外気にしなさそう。ていうか話し方より……顔の方を気にしたほうがいいと思うけど」
ノーヴァ君、もうちょっと言葉を多くしようか。
その言い方は、相手に誤解されると思うよ。
「ああ‟!?てめぇ、俺がブサイクだって言いてぇのか!?」
「……一言も、そんなこと言ってない」
「まあまあ、二人とも」
怒りで真っ赤になっているセレス君。
不思議そうな表情を浮かべるノーヴァ君。
とりあえず君達、少し落ち着こうか。
そう思いながら二人をなだめていると、シヴァ君たちがいる方が騒がしくなっていることに気づく。
何があったのかと思っていると、近くで歩き方が不自然な騎士を見つけた。
あの歩き方は、足を痛めたのだろうか?
二人にシヴァ君たちの方に行くように言って怪我を手当てしていれば、セレス君の驚く声が聞こえてきた。
「ちょっと、団長!どうして、彼女がここにいるのよ!残りがC級とはいえ、彼女がここにいるのは危険よ!」
手当てをしながら集中して聞いてみれば、サーヤ君がセレス君に言われてここに来たようだった。
とはいっても、それはあり得ない。
彼は、先ほどまでここで私やノーヴァ君と話していた。
話す前だって、捕らえた犯罪者たちを尋問していた。
でも、彼女の声音からして彼女は嘘を言っていない。
ならば、彼女があったというセレス君は偽物だろう。
でも、おかしな点もある。
何故、駐屯の騎士たちは意識を失うほど負傷したのだ?
サーヤ君の話からして、本部の中にいたのは未だに行方がわかっていないC級の者だろう。
だが彼らの実力からして、C級にやられるほど弱くはない。
だって、本部に駐屯する者は本部を守れるほどの実力がなければいけない。
そんな彼らが、C級にやられるはずがない。
ということは駐屯の者はC級ではなく、セレス君に扮した『誰か』に襲撃された。
だが、『偽セレス君』の目的がわからない。
なぜ、『偽セレス君』はサーヤ君に危害を加えなかったのだ?
わざわざ、彼女を騎士団に返すような真似までしている。
ということは、他に目的があって無関係な彼女を巻き込まないようにした?
…………とにかく、情報が足りないな。
シヴァ君たちが本部に向かうようだし、この様子ならば今夜は会議だろう。
それにしても、サーヤ君はサーヤ君で無茶をする。
子供を守りながら逃げるなんてな。
それに、アル君の質問の答えの【それが私の役目ですから】と言う言葉はいったいどういう意味なのだろう?
子供を逃がすことが、彼女の役目だった?
まさか、彼女はここに来る前も今回のような状況に巻き込まれたことがあるのだろうか?
そして、その時に誰かからそんなことを言われたのだろうか?
だが、いったい誰が?
彼女は、まだ子供だ。
子供に子供を守らせるなど、あまりにもおかしすぎる。
子供を守るのは、我々大人だ。
大人ではなく、子供が守る。
周りの大人がおかしいのか?
それとも、周りの大人が敵で子供同士で守り合わなければいけなかったのだろうか?
…………とにかく、サーヤ君にはこの件が終わったらしっかりと注意しなければ。
今回は運がよかったが、とても危険なことには変わりはない。
次にこんなことがあれば、彼女が負傷するかもしれないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます