(48)暖かい
~紗彩目線~
「__!…………サーヤ!!」
誰かが呼んでいる。
どこかで聞いたことがあるような。
力強くて、暖かい声。
いったい、誰が?
ここには、私以外は誰もいないのに。
ドアも開かないのに。
寒くて、寂しい空間。
いったい、どこで聞いたのだろう?
そう思っていれば、何かに包まれる感触を感じる。
暖かくて、モフモフとした何か。
なんだか、地元の近所で飼われている大型犬のポチを思い出す。
それぐらい、暖かくて心地よいモフモフだった。
「役立たずなんかじゃない」
「誰?」
「お前は、役立たずなんかじゃない」
誰かが言い聞かせるようにそう言う。
いったい、誰が?
どうして、他人の私にそんなことを言うの?
「お前がいてよかった」
私がいてよかった?
どうして、そう思うの?
仕事も遅い。
仕事を押し付けられても、何も文句も言えない。
ただただ、黙々と仕事をするだけの自分。
別に、私じゃなくてもできること。
なのに、どうしてそんなことが言えるの?
私がいてよかったなんて、そんなこと今まで言われたことがない。
ただ、いれば仕事を押し付けれる都合のいい存在。
別に、私だからできることじゃない。
他の誰でも、私のやっていることはできる。
「セレスは、お前の考えで救われた」
救われた?
セレスさん?
セレスさんって、誰だっけ?
どこかで、そうここ最近で聞いたことがある。
誰?
いったい、どこで?
「自由…………ふふ、サーヤちゃんっていい子なのね」
「いい子よ。…………アタシはね、可愛いものが好きなの。誰かを飾り立てるのが好き。自分が作ったり選んだりしたものをあげて、使ってもらうのも好き」
…………ああ、そうだ。
思い出した。
可愛いものが好きなセレスさん。
川に落ちた時、私を庇って一緒に濡れてくれた優しいセレスさん。
なんで、忘れていたんだろう?
この声の人だって、私のことを助けてくれたシヴァさんなのに。
気付いたら、もう寒さを感じなかった。
周りを見れば、そこは薄暗い社内から青々とした草が生い茂っている原っぱに変わっていた。
子供の頃、よく近所の友達と一緒に遊んでいた秘密の場所。
今まで込めていた体の力を抜いて草の上に寝っ転がれば、感じるのは心地よい感触。
思ったよりチクチクしておらず、どちらかと言えばフワッとした感触だ。
不思議な感じだ。
そのまま空を見上げれば、温かな日差しが木々の間から此方を覗いていた。
とても、不思議な気分。
さっきまで、凍えるような寒さだった。
でも、今では幼い頃に感じた日差しの暖かさを感じている。
まるで、子供の頃に戻った気分だった。
というか、このまま子供の頃に戻りたい。
悪口も言われない。
仕事も押し付けられない。
馬鹿にもされない。
食べて、寝て、遊んで。
幸せだった子供の頃。
…………あの頃に戻れたら、未来も変わるのかな?
日差しの暖かさを感じながら、私は目を閉じた。
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