(47)悪夢
~紗彩目線~
私は、気づいたら会社の自分のデスクの前の椅子に座っていた。
…………眠っていたのだろうか?
誰かと楽しく夕食を食べていた気がする。
…………夢だな。
私は、そう結論付けて目の前にある書類だのUSBだの山を作っているものを見る。
今日も、雪崩を起こしそうなぐらいある。
「佐々木君、これをやっておいてくれ」
「佐々木さ~ん、これもお願~い」
仕事をし始めた私の横で、糞上司と同僚が私の机に書類を置いていく。
はっきり言って、今すぐに眼科の受診を勧めたいぐらいだ。
この仕事の量を見れば、私に仕事を押し付けようなんて思わないだろうに。
…………いや、まともな人間は人に仕事なんて押し付けないか。
そう考えながら、パソコンを起動し書類の作成を始める。
というか、この書類一般のどこにでもいるOLが見ていい物じゃない気がするんだけど。
明らかに世間一般で言う『機密書類』ってやつじゃないの?
「あ、課長~。一緒に帰りましょうよ~」
「そうだね~○△君。送っていくよ~」
おい、糞上司と糞先輩。
会社内でイチャイチャしないでもらえます?
あと糞上司、あんた奥さんいるでしょうが。
お子さんもいるでしょうが。
何、そんな先輩に向かって鼻の下のばしているんです?
あと先輩、あんたも自分の仕事ぐらいしっかりとやってくれませんかね。
サボる奴がいると、まじめにやっているメンバーにしわ寄せが来るんですけど。
「ちょっと、佐々木さん。これもやってちょうだい。どうせ、暇でしょ?」
どこ見て暇だと思っているんです?
今すぐに眼科に行った方がいいですよ。
それか、頭の医者に行け。
いくつかのUSBや書類を私に押し付けて帰り支度をする先輩に、頭の中で文句を言う。
直接?
そんなこと言ったら、面倒なことになるから言わない。
この人の怒った声、頭に響くから嫌いだし。
「おっさき~。あれ~、佐々木さんまだ仕事やってんの~?」
「しょうがないわ。この人、仕事遅いもの」
「かわいそう~。でも、しょうがないよね~」
その仕事が遅い人に仕事を押し付けたのは、あんたでしょうが。
いい加減にしないと、そのバサバサのつけまつげ取りますよ。
キャッキャッと笑いながら部屋から出ていく先輩と先輩の同期の女性。
「ほ~んと、役立たずよね~」
「本当よね。あんな足手まとい、どうして社会に出たのかしら?」
「引きこもりにでもなって、一生引きこもっていればいいのに。あんな役立たずのお荷物」
遠くから聞こえてくる二人の言葉を聞きながら、唇をかんで目の前の仕事に打ち込む。
カタカタと、キーボードを叩く音だけが聞こえてくる。
肩に重みを感じて、首と肩を回せばパキパキという音が聞こえてくる。
「はぁ…………全然終わらない」
あたりを見回せば、周りには社員が一人もいない。
いつも私と同じように仕事を押し付けられている先輩もいない。
「ほ~んと、役立たずよね~」
「本当よね。あんな足手まとい、どうして社会に出たのかしら?」
「引きこもりにでもなって、一生引きこもっていればいいのに。あんな役立たずのお荷物」
「…………役立たず……か」
気にするなと何度も心の中で自分に言い聞かせる。
どうせ、いつも言われていることだ。
仕事もしないあんな奴らの言うことなんて、気にするだけ時間の無駄なんだ。
時間は有限なんだ。
あんな奴らの言葉を思い出さずに、仕事に集中しろ。
そう自分に言い聞かせるけど、鼻の奥がツンとして視界が少しずつにじんでくる。
「…………やっぱりキツイな」
あんなふうに悪口をわざと聞かせられるのは。
別に、影で言われるのも嫌だ。
でも、影で言われた方がまだ精神的に傷つかなくて済む気がする。
目をこすり、視界をクリアにする。
でも、また視界はぼやけてしまう。
いい加減仕事に集中しないと、そろそろ寒くなってきたし…………寒い?
不思議に思って外を見れば、外は真っ暗だった。
普段なら、他のビルの明かりが見えているはずなのに。
でも、今の光景はまるで黒い画用紙を窓に張り付けたように何も見えない。
怖くなり時計を見れば、長針と短針がグルグルと回っている。
その速さは、尋常ではない。
目で追いかけるのが、やっとなぐらいだ。
思わず目を何度もこするけれど、目の前の光景は全く変わっていない。
「…………どうなってるの、これ?」
そう呟くと、目の前に白いモヤッとしたものが辺りに舞った。
何度か手に向かって息を吐けば、白いものが舞う。
それと同時に、さっきと同じとは思えない寒さが襲ってくる。
まるで冷蔵庫の中か、真冬の雪の中に裸でいる気分だ。
そして、やっとこの白いモヤのようなものの正体がわかった。
これは、私が吐いた息だ。
真冬のような寒さの中で、白くなっているんだ。
「どうなっているの?なんで、こんな…………」
あまりにもおかしすぎる。
今の季節からして、こんなに社内が冷えるはずがないのに。
いや、冬でもこんなに冷え込むことはない。
「寒い…………誰か…………」
あまりの寒さにガタガタと体を震わせる。
でも、誰も答えてくれない。
だって、この中には私以外いないから。
とにかく、部屋の中から出よう。
もしかしたら、この中が異常に寒いだけなのかもしれないし。
そう思いドアを開けようとするがびくともしない。
鍵がかかっているわけじゃない。
まるで、ドア自体が壁の一部になってしまったような感じ。
「寒いよ……誰か…………死にたくない」
あまりの寒さに、私は凍死を覚悟してしまった。
もう動けない。
そう思いながら、ドアの目の前で座り込んでしまった。
「__!!」
遠くで、誰かが呼ぶ声が聞こえた?
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