(35)服と本
~紗彩目線~
「それじゃあ、サーヤちゃん!気になったお店は、じゃんじゃん言ってちょうだいね!」
雑炊を食べ終わった後、私はセレスさんにそう言われて騎士団本部の近くにある街に連れてこられた。
煉瓦で作られた道や建物が並び、たくさんの人が歩いている。
とはいっても、頭に動物の耳があったり角が生えたりと、明らかに人間じゃない見た目をしているけど。
しかも、みんな身長が高い。
他の人たちの身長の高さに圧巻されながら周りを見回せば、いろいろな店がある。
肉を売っている店。
服を売っている店。
その隣には、『手作りアクセサリー』の看板を掲げている店もある。
なんというか、学生時代に修学旅行で京都に行った時の気持ちを思い出す。
成人しているけど、すごくワクワクしてくる。
「いろいろなお店があるんですね」
「そうねぇ。ここは、国の中でもかなり中心に近いから他の種族からの観光客も多いのよ。だから、観光客狙いのしっかりとした信頼できるお店も多いの」
「なるほど……」
周りをキョロキョロと見てからそう言えば、セレスさんが笑いながら教えてくれた。
ここの店は観光客を相手にする分、国からしっかりと調査が入って営業しているらしい。
だから悪徳な営業も強引な客引きもしないし、作成者や生産元も信用できる商品を売っている。
それに調査が終わった後も時々相手に言わずに抜き打ち調査をするらしいから、調査した後に違反したとしてもすぐに見つかるらしい。
まあ、近くに騎士団の本部があるから犯罪の抑止力もあって犯罪もここではかなり少ない。
犯罪が少ないっていうのは、すごく安心できるね。
そう思いながらセレスさんと歩いていると、一つのお店が視界に入る。
店頭に並んでいるのは、結構シンプルなデザインの服や動きやすそうな服だ。
「あら、あのお店が気になる?」
「はい……」
「うふふ、それなら入りましょうか」
セレスさんの問いに答えれば、セレスさんとあのお店に入ることになった。
カランッというベルの音と共に開くドアをくぐり、店内に入ればたくさんの服と私と同じくらいの大きさのマネキンが並んでいる。
お客さんはあまりいないけど、雰囲気は結構明るそうな店だ。
店内を歩きながら見ていると、少し奥の方にある服が気になった。
灰色のパーカーだけど、私が着ている服よりも少し大きめの服。
私は、どちらかと言えばあんなふうに自分の体形よりも余裕のある服が好きだ。
体にぴったりとくっつくスーツとかは、逆に動きにくくてあまり好きではない。
「それが気になる?」
「あ、はい」
見ていると、後ろから私の顔を覗き込んだセレスさんに聞かれて思わず答えてしまう。
「それなら、これもっと」
「え!?」
私が見ていた服をとり、セレスさんはたくさんの服が入っている籠の中に入れた。
というか、いつの間にそんなに服を見つけてきたんだろうこの人。
しかも、みんな私の好みの服ばかり。
籠の中には、シンプルで動きやすいものや少々大き目の服が入っていた。
「あら、大丈夫よ。団長から予算はもらっているもの。こんな服とかはどうかしら?」
「好きです。…………ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
団長さん、セレスさん、ありがとうございます。
とりあえず、お金は出世払いでお願いします。
ニッコリと笑うセレスさんを見ながら、私はそう思った。
「さてと、服は当分のところはこれぐらいでいいかしら。今日は本も買いに行くから、また来ましょうね」
店から出た私は、荷物を騎士団本部に魔法で送ったセレスさんのそんな言葉に驚いてしまった。
いや、あの量でも結構な組み合わせができるし、別にもう買わなくても大丈夫な気がするんだけど。
ちなみに私は、あの気になったパーカーと青いズボンを着ている。
今まで会社の制服だったけど、動きにくいから買った後すぐに着替えた。
うん、やっぱりパーカーは楽だわ。
「ある程度組み合わせができるので、これぐらいで大丈夫だと思いますよ」
「あら、もったいないわ。サーヤちゃん、土台がいいのに」
「そう……ですか?」
土台がいいというのは意味が分からないけど、とりあえず褒められたってことでいいんだよね?
「さて、次はここね」
そう思いながらセレスさんと一緒に歩いていると、一番大きいんじゃないかと思うぐらい大きな店の前についた。
店の看板には、「本屋」と書かれていた。
店の中に入ると、紙の独特の匂いと棚の木の匂いを感じる。
目の前には、本がぎっしりと詰まっている十五段ぐらいの大きな棚がたくさん並んでいる。
「とりあえず勉強に必要なものは副団長が用意すると言っていたから、サーヤちゃんが気になるものを教えてちょうだい」
「えっと、物語ってありますか?」
「え~と、それならこの棚ね」
セレスさんに聞かれて答えれば、セレスさんは慣れているのか私を抱き上げてすいすいと店の中にいる客を避けて奥の棚の手前で止まる。
「冒険ものに恋愛もの、友愛ものもあるわ。それ以外にも、ミステリーにホラーとか。ジャンル関係なしに、同じ作者のものだけを集めた作品集もあるわよ」
「それなら、作品集が読んでみたいです」
セレスさんの説明に答えれば、セレスさんは笑いながら頷いた。
この世界にどんな作家がいるのかもわからないし物語であればジャンル問わずに好きだから、とりあえず作品集を読んでみれば好きな作家も見つけれると思う。
「それなら、この作者がおすすめよ。登場人物の目線で、心情が凄く伝わってくるの」
私は、セレスさんのおすすめの本を買った。
作品集だったからかなり分厚かったけど、大きさの方はB5の紙よりも少し小さいぐらいだった。
よかった。
これなら、補助も必要なしで読める。
「きゃああああああ」
セレスさんに下ろしてもらい本を持って一緒に店を出て歩き出すと、後方で女性の悲鳴が響き渡る。
真剣な表情をしたセレスさんが後ろを向くと同時に、大勢の人が逃げるようにこちらに向かってきた。
「!?」
「サーヤちゃん!!」
ヤバいと思った瞬間、私は人に流されセレスさんとつないでいた手を離してしまった。
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