#03 彼に見られちゃったぁ。どうしようっ
「はぁ……俺の貴重な読書の時間を邪魔しやがって。廊下を真っ直ぐ行くと右側にドアがあるから、そこを入って次の扉」
「分かった。ありがと」
唇を
嫌いだけど……『月下には雨。踊る妖狐』で歌うアイツは……好きなんだよな。
不仲説なんて流れなければ、全力で応援するのに。
それに、MVのダンスは超絶カッコよかった。もちろん、ユッキー様もカッコいいんだけど、狐の面を被ったダンスはダントツ、オータマがカッコよかった。
だから、月下妖狐の中のオータマは尊敬する。歌って踊る彼女のことは絶対に悪く言わない。
だけど、プライベートの
「はるたかーーーーーッ!!」
「……」
「はーるーたーかーーーーッ!!」
「……」
「ねえ、ちょっとぉぉぉぉ!!!」
「……」
「はーーーーるーーーくーーーんっ!?」
「ああああああうるせぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
今度はなんだッ!? 俺の邪魔する天才かッ!?
これは嫌がらせか?
廊下をつかつか歩いて、ドアを開いて、浴室のガラス戸の前に立って——。
「ひっ!?」
「なに変な声だして——きゃぁぁぁぁぁッ!!」
磨りガラスとはいえ、肌色のシルエットと身体の線がしっかりと映り込み、出るトコは出ていてキュッと締まったウェストが……。ごくりと
「バカッ!! クソ変態ッ!! 死ねッ!! 早く死ねッ!!」
「す、すまん」
つい謝ってしまったけど、よく考えたら呼んだのは秋乃じゃねえか。俺は呼ばれて仕方なく来ただけなのに変態扱いはどうかと思う。つまり俺は悪くないッ!!
ドアを閉めて、バクバクと側頭部まで響く鼓動をなんとか抑えて、ヘナヘナと床に座り込む。
辛い。もう辛すぎる。
「ねえ、春高〜〜〜〜」
「だ、だからなんだって言うんだよ」
「……シャンプーとかボディソープ入った袋……リビングに忘れちゃった。持ってきて?」
「お、俺はお前の下僕かッ!! ふざけんなよ」
「持ってきてくれたら、覗き見しようとしていたこと黙っていてあげるから」
「は? はぁ〜〜〜〜? 俺が覗き見? お前の裸なんて見たくもねえよ。クソッ」
「じゃあ、充希先生に言ってもいい? 春高くんと二人きりになったら、お風呂に突然現れて——」
「待て。悪意の塊かッ!!」
「お願い……持ってきて?」
くっ!! し、仕方ねえ。リビングに戻ったら床に紙袋が置いてあった。これか。
中身は……見たこともないシャンプーとコンディショナー、それにボディソープが入って……あ。
絶対に見たらダメなヤツだった。
パ、パンツとブ、ブラ……。
あああああああああッ!!
なんでこんなものが入っている? 危険物取扱責任者の資格を持っていてしても自爆してしまいかねない、まさに兵器というべき代物。これは絶対にトラップだ。
これを持っていった瞬間、「見たでしょ変態」と
「ねえ、まだーー? はやくぅぅぅッ!!」
「やっぱり無理」
「あ、充希先生、春高くんが酷いんです」
「ああああああッ!! わ、分かったから、電話するなって」
ドアを開けて……そっと紙袋を磨りガラスの前に置いて、退散ッ!!
「置いたぞ」
「ありがと」
ソファに戻って、再びごろんと寝転んでラノベを……読めない。頭の中で秋乃がグルグルしてやがる。一行読んでまた同じ行を読んだり、読んだ箇所が全く頭に入ってこなかったり、と集中力がお留守に。
ラノベをテーブルに置いて天井を眺めていると秋乃が目に浮かぶ。浮かんでしまう。
下着姿の秋乃が。
ああああああああ。
目が腐る。目が腐る。
秋乃という女は
「上がったよ? 春高は入らないの?」
「秋乃の入った……風呂に?」
あああああああ。
何を口走ってるんだよ。
それは秋乃に言われずとも変態的発想だろう。
「……は? へ、変態?」
「ち、違ッ!! っていうか、お前は無防備すぎ。ちゃんとどこかで線引きしろっつうの」
「入ってきたのはそっちじゃん。扉の前で声かけてくれればいいのに」
「そうじゃなくて、紙袋の中……あ」
あああああああッ!!
また誤爆もいいところだ。
なんで余計なこと言っちまうかな。
秋乃は
「お、俺は、そ、その。見たくて見たんじゃなくて、たまたま中を覗いたら、その」
「……春高さまに見られた。どうしよ」
「ん? なんて言った? とにかく、俺は無実だからな?」
「……どうしよ」
全然俺の声が耳に届いていない様子。小声でブツブツと何かを唱え始めて心ここにあらずといったところか。
頬を赤らめて、乾かしきれていない髪の毛が妙に
やばいやばいやばい。
性的対象として見たくない。けれど秋乃が頭にこびり付いて離れない。
あああああああッ!!
すげえモヤるじゃねえか。
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