第32話 国王からの使者

「ぐー、がー……ぐーがー……ぐー、がー……ぐーがー……ぐー、がー……ぐーがー……」


「すー、すー……すー、すー、すー……すーすー、すー……すーすー、すー……すー」


「むにゃむにゃ……もう、食べられません……こんなに……沢山のごはん……むにゃむにゃ」


 魔王軍との激戦を乗り越えた俺達は、自分達の家に帰り、爆睡をしていた。相当に疲労がたまったのだ。魔王軍との戦いで。その疲労は緊張状態の時は誤魔化せていただが、家に帰るとほっとして、ドッと疲労が押し寄せてきたのだ。


 その為、俺達は家に帰ると同時に、爆睡していたのだ。


 そして朝を迎える事となる。


 コンコンコン。


 玄関の扉をノックする音が聞こえる。


「……ん?」


 半分覚醒状態だった俺はノックの音で目を覚ます。


「ううっ……なんですか?」


「まだ眠いですー」


 リノアとリディアの二人も目を覚ます。


「昨日……橋を外すの忘れて寝てたなぁ……」


「みたいですねぇ……」


 リディアが答える。俺達の家の周囲は外堀となっており、橋をかけて渡れるようにしてある。そしてその橋は外す事ができるのだ。そうする事により、完全に籠城する事ができる。普段は外して眠るのだが、その時は疲れていた為、思わず失念してしまったようだ。


「まさか……モンスターじゃないよなぁ」


「モンスターはノックなんてしないと思うんです」


 そう、リノアは言った。


「それもそうだ……」


 だったら誰なのか。人間かエルフなど、ある程度まともな知性を持ち合わせた相手だろう。魔族の可能性は排除される。もっと強引に襲い掛かってくるに違いない。とはいえ、人間にも色々なタイプがいる。盗賊のような知性のないタイプもいるだろう……。だが、そんな人間がノックするわけもない。


 警戒しつつも、俺は恐る恐る、玄関の扉を開いた。


「は、はい……どちら様でしょうか?」


 そこにいたのは数名程の兵士達であった。間違いない。俺の母国であるアークライトの兵士達である。


「朝から失礼します。私達はアークライト国の国王から派遣された使者であります」


「は、はぁ……国王陛下からの使者ですか」


「魔王軍が戦闘の末に、突如、撤退したと聞きました……私達は国の危機を未然に防いでくれた英雄を探しているのです。この件に関して、何か知っている事はありませんか? ……この北の辺境にいるのはあなた達しかいないようだ。もしかして、あなた達が国の危機から救ってくださったのではないでしょうか?」


「……それはその……」


 俺は答えを渋る。


「そうです! ここにいるグラン様が魔王軍を退けた英雄なんですっ!」


 そう、リノアが胸を張って答える。


「本当ですか!?」


「う、嘘とまでは言い切れませんが……俺の力だけで退けたわけではないです。ここにいるエルフのリノアと、ドワーフのリディアの力があってこそです。三人で力を合わせたから、何とか魔王軍を退ける事ができたんです」


 俺は使者である兵達にそう説明する。


「では、あなた方、三人が我が国の英雄という事ですか?」


 そう、使者の一人が俺達に聞いてきた。


「そうです……私達、三人の力なのです。せいぜい、感謝するがいいのです」


 リディアがえっへんと胸を張って答える。如何せん、身長が低く可愛らしい見た目をしているので、大人が偉ぶっているようで偉そうに見えず、どこか可愛げのある仕草のように見えた。


「国王から命令を受けて私達は動いているのです……我が国を救った英雄に是非、直接会ってお礼がしたいと……」


 使者の一人が俺達にそう伝えてきた。


「お礼ですか!?」


「お礼!!」


「お金貰える! いや、食べ物! それよりも本が欲しいです!」


 リノアとリディアは血相を変えて喜んでいた。本か……娯楽なのか、あるいは知識欲を満たしたいのか……。その両方か。確かに家に居てやる事がないと、手持ち無沙汰で暇だものな。俺も欲しい気持ちは勿論、あった。


「どうか、褒賞を与える為に、ご足労願えないでしょうか?」


 使者が聞いてきた。


「「行きます! 行きます!」」


 リノアとリディアが王国からの使者に食いついていく。遠慮のない二人だった。


「はぁ……」


 俺は溜息を吐く。特段、俺も国王からの呼び出しを断る理由もなかった。金も貰えるかもしれないし……そうでなくとも何かの褒美をくれるかもしれない。それに、アークライトへの出入りを認めてくれるかもしれない。


 国王からの睨みがあればいかにロズベルグ家の次期当主として選ばれているヘイトだとしても、俺に直接危害を加える事はできなくなるだろう。


 いかに名家であるロズベルグ家といえども、流石の国王相手では分が悪いのも当然の事と言えた。


「良いでしょう。伺います」


「ありがとうございます。我々もあなた達の事を英雄として歓迎いたします」


 そう、使者は言った。リノアやリディアはエルフとドワーフ。人間からすれば亜人種である。当然のように亜人種は偏見を受ける、迫害されやすいものだ。だから、入国する際にはリノアがエルフとバレないように顔形を隠して貰ったもんだが……国王からのお墨付きがあれば問題ない事だろう。


 こうして俺達は使者達とアークライトへと向かったのである。

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