第46話 黄泉

 「結乃ちゃんが誘拐されました!」


 結乃の担任がそう言った時、俺の頭は一瞬真っ白になった。


 結乃が誘拐……?

 誰に?なんのために?


 「……ち!」


 いや、まずは結乃を見つけることから……いや、それよりも安全性を優先して、策を練るべきか。


 「……う……ち!翔一!」

 「……はっ!?美織?」

 「落ち着きなさい。できるだけなら私も協力する」

 「ありがとう。とりあえず、結乃の居場所を見つけてくれないか?」

 「当然よ。もうやってるわ」

 「ありがとう……」


 美織は優秀だな。俺が言う前に、やって欲しいことをやってくれる。


 「翔一……大丈夫だよ。結乃ちゃんは無事だよ……」

 「今はな。だが、悠長なことはしてられない。彩乃は犯人に心当たりはないか?」

 「うーん……て言われても、私はそういう人の考えてることはわからないから……」

 「だよなあ」


 彩乃は純粋。それ故に犯人の心理がわからない。だが、彩乃はたまに、俺達の予想を超えることをする。

 それはいいことにも悪いことにもなるのだが、彩乃の第六感は、今は使えなさそうだ。


 「見つけた」

 「はやっ」

 「周辺の防犯カメラの情報データをハッキングで収集。結乃の顔を照合してサーチしたら、一発で見つかったわ」

 「もう、警察になれよ」

 「そんなことを言ってる暇はないわ。今あいつらは、電車で3駅ほどいたところにある廃工場にいるわ。おそらく犯人は、昨日の見合い相手の内藤って奴でしょうね」

 「その心は?」

 「この廃工場。元の持ち主は、内藤商事よ。それに、まだ土地の所有権は内藤家にある。昨日のお見合いと関連性が無いと考えるのは、少々不自然ね」

 「わかった。住所を教えてくれ。すぐに向かう」


 そう言うと、俺はある人物に電話を掛ける。


 電話を掛けると、ワンコールで対象が出る。


 「じいちゃん、結乃が攫われた」

 「だからなんだ?」

 「『だからなんだ?』だと!?結乃が、あんたの孫が攫われたんだぞ!」

 「だからどうして欲しいんだ?」


 俺が電話したのは、俺の武術の師匠でもあるあるじいちゃんだ。

 しかし、じいちゃんの淡々とした態度にイライラさせられる。


 「車を出してくれ。それから、内藤商事に圧力を……」

 「どっちも無理だ」

 「は?どういうことだよ」

 「どうも何も、今家の車は他の者が使っている。それにおいそれと他家に圧力をかけるものではない」

 「だから何だってんだ。結乃が攫われてんだぞ!犯人は昨日の見合い相手かもしんねえんだぞ!」

 「だったら、己の力で救いだせ。お前の持ちうる力をすべて使って!」


 ブツッ ツーツーツー


 「あ、おいっ!……使えねえ!」


 俺は怒りのあまり、携帯を床に叩きつけて踏みつける。ゲームのデータが飛んでしまうだろうが、どうでもいい。3日徹夜すればどうとでもなる。


 「あんのクソジジイ!」

 「し、翔一……落ち着いて……」

 「落ち着けるか!なんだあの態度は!孫が攫われたんだぞ!」

 「翔一、車なら私の家が出す。だから落ち着きなさい」

 「ああ……ありがとう。悪いな、なにからなにまで」

 「いいのよ。私はあなたが好きだからね」


 ははっ、ホント俺甲斐性ねえな。なんでこんなに好意を向けてくれる女の子と結婚できねえんだろうな?

 でも、俺には彩乃がいる。今は彩乃の方が大事だ。


 「ほら、行くわよ翔一。校門で私の家の車に乗るのよ」

 「ああ、彩乃は授業を受けてろ。―――いや、今日は集団下校になるかな?」

 「ううん……気にしなくていいよ。……二人共気を付けてね」


 俺たちは彩乃の言葉を聞くと、急いで走り出す。


 「本当に……お似合いだよ、翔一と美織は……」


 そんな彩乃のつぶやきも聞かずに


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「んーっ!」

 「いいねえ、その反抗的な目。それが恍惚としたものに変わるさまを観察させてもらうよ」


 そう言うと、内藤大翔は猿轡を外す。だが、依然として体は拘束したままだ。


 「あなた本当に最低!だから婚約しなかったのに!」

 「ごめんね、君は武術宗家の人間。強いからね。その拘束を外したら面倒だから、このまま犯させてもらうよ」

 「なに言って……きゃっ!?」


 内藤は結乃の言葉を待たずに、下半身の制服のビリビリに破る。すると、結乃の真っ白な下着が露になる。


 「いいねえ!実に君の家らしい!この飾り気のない下着!興奮するよ!」

 「いやっ!いやっ!助けて!だれかあああ!」

 「無駄だよ。ここに助けはこない。そう、君の兄であってもね。いや、もう僕の義兄さんかな?」

 「助けて……お兄ちゃん……」

 「いただきまーす!」

 「いやああああ!」


 ぐちゃっ


 突如、黒い塊が内藤の傍らに落ちる。


 すると、周囲のボディーガード達から困惑の声が上がる。


 「な、なんだ貴様!」

 「お、おい侵入者だ!」

 「坊ちゃまをお守りしろ!」


 「なんだよ、うるせえな!」


 内藤が声のする方を見ると、ボディーガードたちが、入口に向かっていた。それに、先ほど落ちてきた、というより飛んできた黒い塊に目をやると


 「ひっ、なんだこれ!?」

 「な……にこれ……」


 それは人の死体だった。しかも、頭部が存在しなかった。


 いや、頭部は無くなっているというよりも、強力な負荷がかかったことによって、破裂したかのような傷だった。


 結乃には、この芸当ができる人物に一人だけ心当たりがあった。


 武術宗家、椎名家において、法力の使いかたに新しい道を見出した天才。拳を打ち出し瞬間に、法力にも振動を加えることで、相手の内部を吹き飛ばす芸当を編み出した鬼才。


 唯一無二の椎名家の武術宗士 【黄泉】の椎名翔一


 結乃の考えの通り、ボディーガードたちを押しのけて、翔一がこちらにやってくる。


 「お兄ちゃん!」

 「結乃、助けに来た……」

 「なんだよてめえ!僕の邪魔をするな!おい、鉄斎!」

 「はっ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「鉄斎!」

 「はっ!」


 内藤に鉄斎と言われた男が俺の前に立つ。立ち位置的には、俺と結乃たちの間に入ったというべきだろう。


 ぶっちゃけ無駄な時間を使いたくない。さっさと退場願おうか?


 「消え失せろ。お前じゃ役不足だ」

 「なんて生意気な子供だ!これは教育が必要だ!」

 「お前は、椎名家の平均の水準すら満たしていない。雑魚だよ」

 「それは、私に土を舐めさせてから言うんだな!」


 そう言って向かってくる男。遅すぎて話にならない。


 俺は、男に拳を顔面にぶち込む。


 「ぐべあ!?あが……」

 「ごちゃごちゃうるせえ。消えろと言ったら消えろ」

 「あぎ……あが……」


 俺は、拳を入れられて倒れかけているところをアイアンクローで男の頭を鷲掴みにする。

 そして、そのまま法力の出力を上げていく。


 すると、男の頭が震え始めて―――


 バン!


 後頭部の後ろから穴が開くように破裂した。

 顔面は残っているが、脳みそも何もかもがその穴から流出し、絶命する。


 「言ったろ?雑魚だって」

 「鉄斎いいいい!」

 「次はてめえ……ん?」


 俺は内藤に狙いを定めるが、後ろから気配を感じ視線を向ける。

 すると、そこには銃を構え、一斉に俺を射殺しようとしているボディーガードたちだった。


 射線上には、そいつらが守るべき内藤大翔もいる。混乱しているのだろうか?


 俺は、結乃の安全を優先するために殲滅を考える。

 だが、その必要はなさそうだ。


 ドゴーン!


 俺の読み通り、壁をぶち破って美織の家の車が突っ込んでくる。

 そして、俺とボディーガードたちの間に入り、射線を完全に塞いで、応対する。


 「翔一、そっちは任せたわ。こちらは私たちに任せなさい!ほら、翔一を助けるのよ!」

 「「「はい!」」」


 あちらは任せてよさそうだ。やはり、美織は頼りになる。


 そうして俺は内藤の方に向き直る。


 こいつの評判は聞いている。こいつは、内藤家の中でもかなり出来の悪い奴で、内藤家の恥さらしとも言われているらしい。

 こいつの歪んだ性格はそれが原因かもしれないけどな。だが、同情はしない。こいつはもう罪を犯した。犯罪者にかける情はない。


 「この人殺しっ!クズ!」

 「クズはそっちだろ?誰だよ、人の妹を誘拐したの」

 「それは結乃ちゃんが可愛いのがいけないんだ!」

 「なんだそれ?意味わかんねえよ」


 内藤はそれからも訳の分からない持論を展開し続ける。


 「僕のなにがいけない!僕は、恋を実らせようとしてるだけじゃないか!」

 「お前のやったこと、お前自身、何がいけない事だったのか分かってないだろ?だから、内藤正蔵のバカ息子って言われるんだよ」

 「バカ息子って言うなあ!」


 話にならないので、俺は容赦なくマウントを取って殴るだけ殴る。


 「がっ……げぶ……や、やめ……」

 「おらおら、どうした?さっきまでの威勢はどこ行った!」

 「やめ……て……」


 俺がずっと殴っていると、内藤は力尽きたのか気絶した。


 「はあ、今の俺の家はボンクラしかいないからお前を正当に裁けない。だから。今回はこれで勘弁してやる。だが次、結乃に手を出したら殺す」

 「おにい……ちゃん」

 「さあ帰ろう、結乃」

 「うんお兄ちゃん。助けてくれてありがとう」


 そう言って、結乃は俺に抱き着いてきた。


 さて、美織たちの加勢に行かないと



―――――――――――

新作を投稿しました。まだ1話しか投稿してないので見て行ってくれると嬉しいです!

ローファンタジー色強めの作品です。一応恋愛も視野には入れてます。ただ、ハーレムはしません。

「私立高校の探偵事務所」

https://kakuyomu.jp/works/16817139555788269791 ←URL見て!お願い!

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