第42話 情報統合
「はい、というわけなので学校に連絡を入れておいてください。―――はい、看病は任せてください。自分も学校休みますんで―――じゃあ、お仕事頑張ってください」
俺は、玲羅のお母さんに熱を出した旨を伝え、学校に連絡してもらうようにした。
流石に同棲しているとはいえ、学校的には別の家から欠席連絡が来るのはまずいだろう。
ピピピピ
そうこうしているうちに、玲羅の体温計が計測し終えたことを伝えるアラームが鳴る。
「40.1か……昨日の雨が原因だろうな。悪いな、先に帰らせちゃって」
「ゴホゴホ……翔一のせいじゃないさ。私が自己管理ができていなかったというだけだ」
「いや、俺と一緒に帰ってれば、会長の車に乗せてもらえたんだよ」
「そう……か。だが、雨に濡れて冷えてしまった体を、私の願望のためにさらに冷やしてしまったのが、原因だろう」
玲羅の願望。それはおそらく『彼シャツ』のことだろう。玲羅は、一晩あの格好で寝ていたのだが、昨夜はかなり冷えた。
まだ、春先という事で夜は寒い日がある。
ただでさえダメージを受けていた体にトドメが入ったのだろう。
「熱を出した理由が分かったのなら、今日はもう寝ろ。あんまり無理すると長引くぞ」
「うぅ……だが、それだと翔一と一緒に……」
「それなら大丈夫だ。俺は今日、学校を休んだからな」
「は?」
「だから、甘えたくなったら言ってくれ。可能な限り叶えるから」
「そうか……なら、遠慮なく。頬を撫でてくれ。そして、甘い言葉を囁てくれ」
これまたいつも通りの質問に、新しいオプションを添えてきた。頬を撫でるのはいいが、甘い言葉か……
突然甘いことなと言われても、具体的にどう言えばいいかわからない。俺とて、玲羅と付き合う前までは、恋愛経験など皆無に等しい。
俺は、普段から可愛いや好きといった言葉は、使っている。わざわざ求めるという事は、なにか違うものを望んでいるのだろう。
なら―――
俺は意を決して、玲羅の頬を撫でながら玲羅の耳に近づいて、言葉を囁く
「――――――――」
「――っ!?ふにゃあ……」
「!?」
俺の囁いた言葉によって、玲羅が完全に脱力する。そこまでの破壊力があったのか?
今、目の前で起きたことに、俺が一番驚いていた。
「し、翔一……おやすみ……」
「ああ、おやすみ。そうだ、昼飯は食べるか?」
「ああ、食べると思う……すぅ」
最後は、俺の質問に答えて、玲羅の意識は完全に落ちた。
さて、結乃の部屋を調べるか
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方そのころ、帝聖高校では
「直樹、聞いた?」
「なにがだ?」
「玲羅、今日は休み。熱出たんだって?」
「ふーん、でも玲羅だって熱くらい出るだろ?」
「いや、おかしいのがね、あの時の男と一緒に休んでるの」
「あの時っていうと、椎名のことか?は?一緒に休んでる?」
「そうなの。だからね、気になって玲羅の携帯に連絡してっるんだけど繋がらなくて、家の方にもしてみたんだけど、今は出れないって」
「それはおかしいな」
なにもおかしくない。というより、熱が出ていれば玲羅は寝ているだろうし、携帯だろうが家だろうが、普通は出ない。
ただ、この二人の入試成績は下から数えた方が早い。まあ、それだけ頭が悪いという事だ。
恋愛に脳を犯されたこの二人は、常識というものが致命的に欠如しているのだろう。
「だからさ。今日の放課後、私たちでその椎名って奴の家に向かわない?」
「いいなそれ。あいつの化けの皮をはがすのにもいい機会だ」
「椎名となにがあったの?」
「それはな――」
豊西は、己の知りうるすべてを話した。翔一の噂を、事実を交えた根拠を添えて。
それらを見聞きした八重野は怒り狂う。
「ありえない!純情な玲羅をだまして、体を好き放題するなんて!」
「だろ?だから今日、あいつの化けの皮を剥がすんだ」
だが、二人の見当は外れることになる。なにせ、翔一の玲羅に対する思いは『好き』の一言しか存在しないからだ。
しかし、そんなのお構いなしに豊西達は翔一の家に行く計画を立てる。さすがに手ぶらで行くのは駄目だという事は知っているらしく、お菓子は持っていくようだった。
翔一の家に忍び寄る陰、それは波乱の予感しかない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんだこれ……」
俺は、昼ご飯を食べた後、玲羅を寝かしつけ、自室のパソコンを見て絶句していた。
今、俺が見ているものは、結乃の部屋で見つけたUSBの中にあったフォルダだ。
その中には、数々の写真があり、その一枚一枚に色々な結乃が写っていた。
写真は、外にいる時の写真だけでなく、結乃プライベートな写真までもがあった。
これは完全に盗撮だろう。趣味が悪いったらありゃしない。
結乃が、恐怖に駆られていた原因はこれか。
俺は、目の前にある証拠を見て、ある意味合点がいく。
俺は迅速に、データをコピーして俺のパソコンに移しておく。それから、俺は部屋を漁ったことを悟られないように、慎重に全ての家具を戻す。
USBも、元あったベッド下に戻しておこう。
まってろ結乃。兄ちゃんが必ず助けてやる。
そうするために、まず第一にやることは―――
「犯人の特定だ」
だが、特定のための要素がなさすぎる。ただ、結乃を狙っているという事は、結乃と同じ学校の人間である可能性が高い。
それを中心にしつつ、その他の可能性も考慮して考えよう。
俺は、部屋にあるホワイトボードに今ある全ての情報を統合していく。
―――情報統合中―――
「おかしい……」
そう、おかしいのだ。記憶の一部が抜け落ちているような感覚だ。
俺は、あの後、詳細は省くが、結乃が学校の人間に狙われている可能性が低いという結論に至った。
なら、考えられる可能性の二つ目として、過去の因縁。
だが、ここで問題が起きた。
過去の記憶を漁っている最中、全く思い出すことのできない期間があることに気付いた。
中一の夏休み明けから、だいたい10月までの一か月の記憶が消えているのだ。
その間に、とてつもなく大事なことがあった気がするのだが、思い出せない。
おそらく、その思い出せない情報の中に大事なものがある。そんな気がする。
「そういえば、ジンさんがなんか言ってたな」
ジンさんは、内藤商事のことを言って、憶えていないのか?と聞いてきた。その時は、なんでもないと思っていたのだが、もしかしたら抜け落ちた記憶が関与しているかもしれない。
そうとなれば、聞いてみるのが一番か。
トゥルルルル
『もしもし?なんだ?』
「あ、ジンさん、俺が内藤商事とやり合ったのって、中一の夏休み明けくらいですか?」
『やり合った?確かその時期は、お前が内藤商事の次男を殺しかけた事件があったぞ。まあ、事件資料が隠蔽されて消されてしまったから、詳しいことは思い出せないがな』
殺しかけた。俺が相当のことをしたという事だ。もしかして、それの報復か?
「当時なにがあったか教えてくれませんか」
『細かくは憶えていないんだが、お前の妹が襲われそうになったんじゃなかったか?』
「ビンゴ!」
『うお、びっくりしたな』
「ジンさんあざした。じゃ」
『あ、おい待て!な―――』
最後に何か言っていたが、俺は無視して電話を切る。
内藤商事。
結乃に手を出したこと後悔させてやる。
――――――――――――――――
翔一がなんて囁いたのかは、ご想像にお任せします
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