第28話 探ってみることにしました 1
「綺麗な肌ね! スキンケアはどうしてるの?」
「そうですね。私はいつも―――」
昼休み、教室の輪の中心はアリシアと久遠だった。
眩しい笑顔を浮かべてグイグイと詰め寄るアリシアに久遠は少し戸惑いながらも、人当たりの良い穏やかな笑みで返す。
「天使様とアイドル、いい……」
「お前らはどっち派?」
「わたしはアリシアさんかなあ。あの明るい性格が最高」
「おれは久遠さんだな。あの控えめな笑顔がまたいいんだわ」
そんな彼女たちを見て一部のクラスメイトは久遠とアリシア、どちらが素敵かと論議している。
アリシアはたったの半日の間に久遠と並ぶほどの人気を得ていた。
まあ日本人離れしたルックスとその社交的な性格を考えれば、ある意味当然の結果だ。
明るくハキハキとした性格のアリシアをアイドル、人当たりがよくいつも穏やかな久遠を天使と例えたのは中々にうまいな。
などと考えながら昼飯を食べつつスマホを覗いていると。
「修、お前はどっち派?」
「え?」
「え、じゃねえよ。久遠さんとアリシアさん、どっちが良いと思う?」
突然男友達に話しかけられて変な声が出る。
その時、アリシアと談笑していた久遠の視線が一瞬こちらに向けられたような気がしたが、多分気のせいか何かだろう。
「……皆が違って皆いい、とかじゃダメか?」
「つまんない回答だなあ」
「俺にそういうセンスを求めるな。こういったことは廉太郎にでも聞いてくれ」
「しかしあいつ暫く
友人の1人がその話題を口に出すと、途端に全員が静まり返る。
「悪い、空気読めてなかったな」
「いいや、別に気にしなくていいよ」
「どうせ廉太郎のことだからバカやって怪我して今頃うちでゲームでもしてるんだろうさ」
その友人をフォローするようにそんなことを言うが、相変わらず全員の顔は暗い。
そして俺たちの視線は自然と空になった廉太郎の席へと向けられる。
『……さん、そして朝間廉太郎さんは暫くの間、学校を休学することになりました』
ホームルームの最後、輿水先生は残念そうな表情で俺たちにそう告げた。
クラスメイトの突然の休学。それだけでも衝撃的なのに、それが複数人同時ともなればなおさら困惑してしまう。
他の皆が「アリシアか久遠か」の話に夢中になっているのも、この突然の事態からの現実逃避なのかもしれない。
だけど俺には彼らのように他のことへ関心を向けることができなかった。
何故なら俺は昨夜、あの建物で廉太郎の彼女さんが虚ろな目で「記憶」を吸い出されているところを見てしまったのだ。
あんなものを見せられて何事もなかったかのように日常生活を送れるほど俺のメンタルは頑丈じゃない。
そう考えて、俺は朝から暇な時間があれば昨夜の事件についてネットで調べていた。
しかし出てくる情報は同じようなものばかりで目新しいものは何もない。
となるとやはり地道に調べあげていくしかない、か。
俺は「久遠とアリシアのどちらが良いか」と聞いてきた男友達に声をかける。
「なあ、廉太郎たちが彼女さんとどうやって知り合ったか知ってるか?」
「あー、なんかチャットで知り合ったって言ってたぞ?」
「チャット?」
「なんか『絶対に彼氏彼女が出来る』グループチャットがあるって、あいつに勧められたんだよ。おれは怖くて開かなかったけどさ」
絶対に彼氏彼女ができるグループチャットねぇ。
そういえば今回休学になった生徒は皆、彼女が出来たと自慢していた生徒たちだ。
そしてあのガラス瓶は「幸せな記憶を吸い出す」ためのものとあったし、何より廉太郎の彼女さんは『グループチャット内にかけられていた魔術によって催眠状態にある』とあった。
……もしかして。
「なあ、そのグループチャットのリンクって送ってもらえるか?」
「それはいいけど、まさか本気でその話を信じてるのか?」
「そういうわけじゃない。ただ……」
改めて視線を誰もいない廉太郎の席へ向けると、男友達も意図を察したのかタメ息をつく。
「わかった。ただ絶対に危ないことはするなよ。これでお前まで休学になったら本当に耐えられないからさ」
「ああ、誓って休学になるような真似はしないよ」
少しぼかした言い方をすると、その男友達は俺のメッセージアプリに噂のグループチャットのリンクを送ってきた。
「もう一度言うけど本当に危ないことはするなよ?」
「分かってる。無茶なことはしないさ」
さて、これでこの事件の真相へと至ることができるかどうかは分からないが、やるだけやってみようじゃないか。
そう考えると俺は残りの昼飯を一気に口にかきこむのだった。
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