第6話 3ヶ月が経ちました
「明日までに進路希望のアンケートを提出するように。それじゃあホームルーム、終わるぞ。号令」
「「「ありがとうございましたあ!」」」
パソコンの画面に向かって一礼すると、俺はふぅと安堵の息を吐いてウィンドウを閉じる。
あの事件から3ヶ月後、俺は別のクラスに編入されることになった。
といっても新しいクラスメイトとは一度も顔を合わせてはいないのだが。
知っての通り、校舎は見るも無残なほどに崩壊してしまい通常通りに登校して授業を受けることはできなくなった。
かといって生徒たちを別の学校に編入させるというわけにもいかない。
そこで学校が取ったのはオンラインで授業を再開するというものだった。
おかげで俺は他の生徒から色々と詮索を受けることなく平穏無事に学校生活を送れているし、個人的な研究も順調に進められている。
「『ステータス』」
――――
伊織修 Lv35 人間
HP1400/1400
MP300/300
SP190
STR45
VIT55
DEX35
AGI65
INT55
スキル 鑑定 万能翻訳 水魔法 風魔法 空間転移魔法 氷結魔法 治癒魔法
―――
あれからも俺は毎日こつこつとスキルを使ってレベルを上げ続けた。その甲斐もあって今月、ついに俺のレベルは30の大台に達したのだ。
いやあ、ここまで本当に苦労したなあ。
暑いからと適当に取得した氷結魔法が暴走したり、治癒魔法の検証をしようとして妹に変な勘違いをされたり……。
今となって良い思い出、というより平気で笑い飛ばせる思い出となったのだが。
「……そろそろ新しいスキルを習得した方がいいのかな」
ステータスからも分かるが俺のスキルポイントは余りまくっている。
何せこの3ヶ月の間に新たに習得したスキルは『氷結魔法』と『治癒魔法』の2つだけだ。
しかもこの2つは夏の暑さにバテて半ば暴走状態で習得したもの。もし季節が違ったら1つもスキルを取らずに過ごしていたかもしれない。
俺は基本的にゲームなどをやっている時、アイテムの使用を惜しむことが多かった。
それはこのゲームのようになってしまった現実でも変わらず、スキルポイントの使用を惜しんでしまっている。
こういうのを何とかエリクサー症候群って言うんだっけ。
しかし現在習得しているスキルの中でまだスキルレベルがカンストしていないのは、試す機会が少ない空間転移魔法と治癒魔法くらいだ。
そろそろ気軽に使うことができるスキルを習得した方がいいだろう。
「……だけど、どれがどういう効果を持ってるのかわっかんねえのがなあ」
俺は前回と同じようにSPの欄をタップして表示された膨大な量のスキルを前にまた悩み始める。
その場の気分で貴重なスキルポイントを消費してゴミスキルを習得してしまったらどうしよう。そんな不安が頭から離れないのだ。
『ポン』
そうしてスキル一覧を眺めながら唸っていると、スマホから通知音が鳴る。
『お米とトイレットペーパーがそろそろ無くなりそうだから買いにいって』
それは剣道の道場に通っている妹からのメッセージだった。
ウチは片親なのに加えて、父さんの帰りが遅いので夕飯作りや掃除洗濯などの家事は基本的に俺と妹が1日ごとに交替ですることになっている。まぁ、お互いの都合で順番は色々と変わったりもするのだが。
そして買い出しも家事当番の仕事だ。だから今日の当番である俺が行かないといけないのだが。
「買い出しかぁ……」
3ヶ月前はスキルで家事も簡単にこなせるようになると思っていたのだが、生憎とそう都合よくできていないらしい。
例えば空間転移魔法。あれから色々と検証や試行錯誤をして俺の肉体を別の場所に転移させることも可能にはなったのだが、その分MPの消費も馬鹿にならなくなった。
数メートル範囲での転移ならまだ余裕はあるのだが、最寄りのスーパーまで飛ぼうとするとMPが空になってしまう。
「何かないかなー。家事が楽になるスキル」
スキル一覧を適当にスワイプしていると、あるスキルが目に留まる。
「……『アイテムボックス』?」
『アイテムボックス』はゲームやネット小説なんかで目にすることが多いスキルだ。
もしこれがそういった創作と同じ効果をしているのなら……。
「……よし」
こうして場の空気に流されないといつまで経ってもスキルを増やすことはできない。
ならばと俺は60もSPを使う『アイテムボックス』の欄をタップした。
そして俺はスキル習得後の恒例行事、『鑑定』を行う。
―――
対象:スキル『アイテムボックス』
効果:MPを用いてアイテムボックスを出現させる
状態:スキルレベル1/10
補足:
―――
うーん、やっぱり『鑑定』の情報だけじゃ効果がよく分からないな。
結局実際に使って検証しないと詳しいことは分からないか。
「『アイテムボックス』!」
効果を確認した俺は早速スキル『アイテムボックス』を発動する。
すると目の前に白い箱のようなものが出現した。
「これがそれなのか?」
やや不安げな気持ちでその白い箱を観察していると、左手に持っていた鉛筆がその中に吸い込まれてしまった。
「は、え?」
突然のことに呆気に取られていると、白い箱から『ステータス』と同じような透明な板が現れる。
―――
『アイテムボックス』
収納物一覧
・鉛筆1本
―――
「……『アイテムボックス』解除」
おもむろにスキルの発動を解除すると、今度は白い箱が消えて鉛筆が宙から降ってきた。
そして次に俺は『ステータス』を確認する。
――――
伊織修 Lv35 人間
HP1400/1400
MP260/300
SP130
STR45
VIT55
DEX35
AGI65
INT55
スキル 鑑定 万能翻訳 水魔法 風魔法 空間転移魔法 氷結魔法 治癒魔法 アイテムボックス
―――
……もしかして俺はとんでもないアタリを引いてしまったのでは?
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