ユウレイ
意識が途絶えたのは、ほんの一瞬。そう思えた。
しかし、目を開いた葉月が見たのは、さきほどまでいたロビーでも、メリーゴーランドでもなく、見たことのない花畑だった。
甘い香りが、花から漂ってくる。
「この……花の……?」
葉月の周囲にたくさん咲いているのは、スズランに似た、水色の小さな花だった。
――なんの、花だろう……?
名前も知らない、初めて見た花だと思うが、なぜかとても懐かしい。
体を起こして、立ち上がってみると、花畑の中央に、小さな石碑のようなものがあるのが見えた。
しめ縄がついていて、石碑の前には徳利が供えられている。
「……お墓?」
なぜだろう。葉月が知っている墓とは雰囲気が違ったが、そんな風に見えた。
「あ……かさね……かさね! かさね~!」
ふとかさねのことを思い出して、呼びながら周囲を見渡してみる。
残念ながら返事はなかった。
花畑は、石造りの壁に四方を囲まれていて、天井を見上げると、きれいなステンドグラスでできていた。
愛らしい、少年と少女の天使が、並んで微笑む図を描いたステンドグラスの中央の、円形の透明なガラスから陽の光がさしている。
足元は土だ。もしかしたら、地下なのかもしれない。
「大丈夫?」
「えっ」
不意に後ろから声がした。
振り向くといつの間にか、女の子が立っていた。
秀花の制服のワンピース部分を、真っ白にした、色違いのような服装で、腰よりも長いまっすぐな髪。針のように、まっすぐな。
「あ、ああ……」
動画に映っていた、少女の霊そのものの姿……。
葉月の心臓が、バクバクと痛いくらいに暴れだす。
恐怖で、無自覚に足が、一歩後ずさろうとした。
「動かないで」
鋭く、しかし優しく、その声が言うと、少女はうつむいたまま、こちらへ走ってきた。
逃げたいと、反射的に思ったけれど、さきほどの言葉に呪われたかのごとく、葉月の体は動かなかった。
少女が顔を上げた。
葉月は目を見開いた。
その顔は、嬉しそうに微笑んで、葉月を見つめているその顔は――
「……わたし……?」
葉月は自分にそっくりな少女の霊に、ふわりと抱きしめられて、激しい頭痛に襲われて、また意識を失った。
その直前、ほんの一瞬。嬉しそうなささやき声だけが、耳に残った。
「きてくれた、はづき」
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