第79話 鬼皇のピアス

「まぁまぁね」


 練習開始してもう夜9時ごろ

早乙女の猛練習を経て剣也とレイナはある程度形となりつつある。

とはいえまだ大根ではあるのだが、ちなみに大根役者の由来は大根は食あたりを起こさないかららしい。

昔は売れることをあたると表現したそうで、絶対にあたらない大根とかけて大根役者というらしい。


 じゃあ腐った牛乳役者といえば誉め言葉になるのだろうか。


「はい! ぼーっとしない!」


「ご、ごめん。じゃあ最後に一回通そうか、大和田!」


 あほなことを考えていた剣也を早乙女の声が呼び戻す。

時間も時間なので最後の一回を通すため大和田を呼ぶ。


「み、美鈴様! ど、どうか連絡先を! この下僕に連絡先を頂けませぬか!」

「ははは、オタク先輩必死過ぎ、面白~い」


 なぜか美鈴にかしずき、連絡先を聞こうとしている大和田。

美鈴も持ち上げられて気分がよさそう、こうしてみると女王様にも見えてきたな。

大和田は必死だが、アプローチ方法が違うように見える。

それではただの下僕だぞ、その先に男女の関係があるとは思えない。


「大和田! 一回通すよ!」


「む? すみません、美鈴様。しばし失礼いたします」


 そして大和田が合流し一度通すことにした。

いつの間にか美鈴のことを美鈴様と呼んでいる大和田に若干引きながらも幸せそうなので触れないことにする。



「ふぅ、まぁ少しは形になったかな?」


「まぁ及第点ね」


 早乙女のお眼鏡にかなったようでその日の稽古は終わりとなった。

文化祭まであと3週間しかない、メイド喫茶の準備もしなければならないのにスケジュールがタイトだ。


「じゃあ、我々は帰りますぞ、失礼します。美鈴様」

「じゃあ個人練習すること、頑張ってねレイナ。色々と」


 にやにやした笑顔を浮かべながら早乙女はレイナに目配せする。

その意図を理解したレイナは頷いた。

文化祭まで3週間、その日が運命の日。


「メイド服ってもう買った?」


「今日ドンキいくー」


「メニュー表って誰が作るんだっけ?」


「オムライスうまく巻けなーい」


 世話しなく動く2-1クラス。

剣也とレイナも例外なく文化祭の準備を行う。


「難しいですね…」


 ケチャップで♥を作ろうと苦戦するレイナ。


「レ、レイナさん。ちょっともうお腹が…うっぷ」


 失敗したオムライス達を流し込む男子達。

次々と失敗作が渡されていく。


「も、もう少しだけ練習してもいいですか?」


 無自覚で上目遣いでねだるレイナ。


「よ、喜んでーーー!!」


 ♥を撃ち抜かれた男子達。

蒼い瞳に見つめられ、青い顔で笑顔で答える。


「はは、すごいね。じゃあ僕も台本覚えようかな」

 

 その様子を見て笑う剣也。

文化の祭り、文化祭。

メイド喫茶は、この国の文化といってもいいだろう。

日本の学生にとっての一大イベント。

修学旅行、文化祭、体育祭。


 青春の一ページを輝けるものにしようと若いエネルギーを存分に発揮する。

特にこの学校には後夜祭で告白すると永遠の愛が約束されるという伝説がある。


 まぁどの学校も同じような伝説があるのだが、それはそれ、これはこれ。

信じたい伝説だけを信じる都合のいい解釈で若者たちは盛り上がる。


「剣也殿、美鈴様は当日来られるますか?」


「ん? どうだろ、行きたいとはいってたけど」


「ならば私の天王山はそこですな」


「まさか告白するつもり?」


「男には、負けると分かっていても戦わなければならない時があるのです」


「はは…。が、頑張って」


(複雑だな…)


 美鈴の気持ちを知っている剣也。

応えたい気持ちはあるのだが、レイナと美鈴のどちらを選ぶなんて剣也には考えもつかなかった。

でも本当にどちらかしか選べないなら…。


 予鈴がなり、帰宅時間。


「剣也君今日もダンジョンに行きますか?」


「いや、今日は先にちょっとやりたいことがある、美鈴にしてもらいたいことがあって」


 40階層を攻略してから、剣也は他の階層ボスの装備を手に入れて準備を整えている。

装備の準備ができてから50階層へと挑戦するつもりだ。

そのため日々ダンジョン周回と錬金を繰り返す毎日を送っている。


 今週末には攻略開始できるだろうが、そのためには一つ越えなくてはいけない壁がある。


 そして剣也は自宅に帰り、正座して待つ。

動機が止まらないし、心臓の音が聞こえそうだ。


 今日僕は初めてを経験することになる。

相手は美鈴だ、経験豊富な女性…。

その美鈴が僕の横に座る。


「先輩、力抜いて……」


「ご、ごめん。緊張して…」


 美鈴の息が耳にかかる。

優しくて、綺麗な手が僕に触れる。


「大丈夫、私慣れてますから」


「うん…」


「じゃあ先輩…脱いでください」


「美鈴…」


「……」


「……やっぱり無理!!」


「ちょ、ちょっと!! ピアス開けるんでしょ!」


「怖い、やっぱり穴開けるなんておかしいよ!」


 少しごたごたしていて忘れていたが鬼皇のピアスのために耳に穴をあけなければならない剣也。

そのことを伝えると穴をあけてあげると美鈴が言ってくれたのでお願いしようと思った。


 それでも耳に穴をあけるのが怖い剣也。

ピアッサーを構えて剣也を捕まえる美鈴。


「親にもらった身体を大事にしようと思います」


「往生際が悪い、レイナさん!」


「剣也君、諦めましょう。痛いのは最初だけです」


「痛いの!? やっぱり痛いの!?」


 逃げようとするところをレイナに捕まえれれる。

レイナの力は強く剣也といえど振り払えない。


「ほら、私も開けてますから。大丈夫ですよ」


 レイナもピアス穴ぐらいは開いているし、剣也と同じ鬼皇のピアスを付けている。

剣也が錬金して用意したものだ。


 女性はみんな開けるものなのかわからないが奈々も開けていた。

いつの間にそんな不良にと思ったが女性にとっては普通らしい。


「ほら、先輩脱いで…入れられないでしょう」


 深淵龍の防具を脱がされる剣也。

ピアスとはいえ、攻撃なのか針が通らない。


 観念したように、震える剣也を美鈴は楽しそうに、むしろ恍惚な表情を開けながら見る。


(あはは、なんか新しい扉開いちゃいそう)


 涙目で震える剣也をみて美鈴が涎を垂らしながら耳にピアッサーを当てる。

頭をなでなでしていると、よくわからないが興奮してきた。

そして。


グサッ!


「うぐっ!……そ、それほど痛くないね」


「でしょ? 軟骨とか開けると結構いたいですけどね。私みたいに」


 そして穴をふさぐ専用の道具を通してもらい、回復の指輪を付ける。

すると見る見る傷が塞がってピアスの穴も正常に空いてくれた。


「ふぅ、これで終わりか。つけてみようかな」


 そして剣也は鬼皇のピアスを装着する。

レベルが2上がるこの装備、ピアスなので穴をあけないとつけれなかったがさてどうなるか。


 装着した直後脳内アナウンスが流れてレベルの上昇を知らせる。


『錬金のレベルが2上昇して14のなりました。Sランク装備を錬金することが可能になります』


(よし! 思った通りだ。とはいえSランク装備か…)


 Sランク装備の存在はしっている。

天道さんなどはこの装備らしいが世界でも数える程度した出土していないはずだ。

そもそも剣也は天道さんや、佐々木さんが装備しているところしか見たことがない。


「先輩、ワイルドでかっこいい……」


「そう? ピアスなんか似合わないとおもったけど…レイナ?」


「……え!? あ…良いと思います…すごく」


 レイナはぼーっと剣也を見つめる。


 黒いピアスを付けるだけでいつもの雰囲気から一変する剣也。

それを見て美鈴はかっこいいを連呼するし、レイナに至ってはずっと見つめてくる。

話しかけると目を合わせずにうつむくが、似合うと言ってくれたので剣也も嬉しい。


 恋は盲目。

特段ピアスが似合うわけではないのだろうが、好きな人の雰囲気がいつもと違うだけでよく見えるギャルレイナと同じ理屈である。

とはいえ、剣也としては少し恥ずかしいので非具現化設定にしておく。


(そうだ、Sランク装備が錬金できるようになったし田中さんに連絡をいれておこう)


 するとすぐに返信が返ってくる。


====================

連絡ありがとう。

今週日曜の夜時間を作れないかい?

個人的な頼みがあるんだ。

錬金してほしい装備がある。

装備品はこちらで用意するし、報酬は弾む。

====================


(なんだろう…夜なら了解ですっと)


 田中さんからの依頼を受けて剣也は了承する。

Sランク装備が錬金できるようになったが、とはいえAランクの装備はまだほとんどない。

次の40~50階層の攻略で、ある程度集まるとは思うが。


 なので明日から剣也達は50階層目指して攻略開始することにした。

それにあたって、いったん全員のステータスを整理しておこう。


「レイナ、美鈴ステータスを教えてくれる? 一旦整理しておこうとおもってね」


「了解です、ステータス!」


「はーい、ステータス!」


「じゃあ、僕もステータス!」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:御剣剣也

DP:942300pt

職業:錬金術師

・錬金Lv12+2(アクセサリーにより2上昇):次のレベルまで100万pt

(ランクSの武器を日に10回錬金できる:知力10に付き+1回)

(ランクD以下の武器を無限に錬金できる)

(装備品を錬金の種に変更可能 錬金の種:同ランクの錬金に使用できる種)


・ステータス錬金LvMAX

(現状のステータスを自由に振り分けられる。念じるだけで変更可能)


◆装備品

武器:【鋼涅王剣Lv1】 

頭 :【帝の兜Lv1】 

胴 :【深淵龍の鱗鎧Lv1】

手 :【帝の小手Lv1】

足 :【アラクネの織物靴LvMAX】

アクセサリー:【鬼皇のピアスLvMAX】


◆ステータス

攻撃力:0(+3400)▼0

防御力:0(+6500)▼0

素早さ:0(+3500)▼0

知 力:0(+400)▼0

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 剣也の装備は、頭と小手以外は階層ボスやスライム、エクストラ報酬となっている。

頭と手の装備が欲しいところだが、次の階層で何か得ることができるかとそのままにしている。


 続いてレイナ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:蒼井レイナ

DP:230pt

職業:勇者

・勇なる者Lv3+2(アクセサリーにより2上昇):次のレベルまで10万pt

(Lv*1000能力値上昇)

・生命回帰LvMAX:(未開放)


◆装備品

武器:【名もなき剣Lv1】

頭 :【大精霊の髪飾りLvMAX】

胴 :【騎士の胸当てLv1】

手 :【騎士の小手Lv1】

足 :【騎士の具足Lv1】

アクセサリー:【鬼皇のピアスLvMAX】


◆ステータス

攻撃力:5000(+5500)

防御力:5000(+2510)

素早さ:5000(+2510)

知 力:5000(+4500)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 レイナのレベルは一つ上昇して3、しかも剣也と同じアクセサリーで5となった。

そのおかげで全ステータス+5000となり、大精霊の髪飾りで+2500。

いい感じに化物となった、このステータスなら王や帝シリーズを付けても大して変わらないので騎士のままだ。


 とはいえ、いまだに騎士シリーズもいかがなものなので、次の階層でレイナの装備も整えるつもりだ。

良い装備がなければ階層ボスをまた周回してもいい。


 そして最後は美鈴。

美鈴に関しては、防御力が心配なので銀狼の毛皮鎧は美鈴に上げることにした。

レイナが少しうらやましそうにしていたが、命の方が大事なので素直に了承した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:鈴木美鈴

DP:16230pt

職業:サポーター

・アイテムボックスLv10:次のレベルまで10万pt

レベルに応じて格納量が拡大する空間を生み出す

・マッピングLvMAX:

踏破したことのある階層の場合現在地がわかる



◆装備品

武器:【斬破刀Lv1】

頭 :【帝の兜Lv1】

胴 :【銀狼の毛皮鎧LvMAX】

手 :【帝の小手Lv1】

足 :【帝の具足Lv1】

アクセサリー:【なし】


◆ステータス

攻撃力:0(+1400)

防御力:0(+4000)

素早さ:0(+400)

知 力:0(+400)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 この防御力なら40階層からも問題ないはずだが、美鈴には戦闘には参加しないようにいっている。


 美鈴はアイテムボックスの中に入ることができるようになったので、戦闘開始するたびに入ってもらい終わったら呼ぶようにした。

少しだけ空間を開けて様子ぐらいは見れるので心配はない。

というか上位のサポーター達は戦闘中は普通は避難するそうで、宵の明星の南ノアさんが異常なだけらしい。


「ありがとう、整理できたよ。じゃあ明日いよいよ行こうか、50階層」


 

 そして二日後。


「やぁ、呼び出してごめんね。剣也君」

 

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