第74話 ギャルはいい。ギャルは尊い

「レ、レイナ!?」


「きゅんですか? 剣也君」


 ♥を指で作り、どうですかとレイナが聞いてくる。


「ぶはーっ! 私の心はきゅんきゅんです。ごちそうさまでし…た。アーメン」


 横で大和田が尊死した。

オタクはギャルに弱いようだ。

オタクに優しいギャルがいることを切に願う。


(かわいい…)


 いつものレイナが綺麗だとしたらこのギャルレイナは可愛い。

可愛いは正義、可愛いの前では全面降伏。


 見惚れて呆けている剣也。

作戦は成功したのだが、レイナとしては剣也の可愛いがもらいたかった。


 そこで早乙女に言われた必殺技を繰り出した。


「剣也、どう?」


 剣也の下から上目遣い。

甘えたような声で剣也を見つめる。

そして不意に呼び捨てにする。


「んほぉぉぉぉ! 会心の一撃!!」


 横で大和田が二度目の尊死した。

打ち上げられたマグロのようにぴくぴくしている。

幸せそうなのでほっといておこう。


 不意に呼び捨てにされた剣也は真っ赤になる。

いつも剣也君と呼ぶレイナの不意な呼び捨てといきなりの距離の詰めとギャルの上目遣い。


「可愛い……」


 ならば心から思ったことを発してしまうのも仕方ない。

素直にかわいいし、気を抜いたら大和田のように尊死してしまいそうなほど可愛いと思う。


 その言葉を待っていたのはレイナ、しかし心の準備は足りていなかった。

剣也よりもゆでだこのように真っ赤になって早乙女を連れてダッシュで教室を出ていく。


「なにやってんのよ、作戦成功したのに」


「すみません、ちょっと。あ、熱い。恥ずかしい。無理無理」


 掌で顔を仰ぐようにパタパタと。

レイナ自身も呼び捨てにすることや、慣れない誘惑は難易度が高かったようで緊張で心臓が高鳴る。

ギャルになった弊害か心なしか話し方も砕けている。


「でもいい感じじゃん。たまにその恰好になってドキドキさせるのは効果的ね。たまにってとこがポイントよ」


「け、剣也君、可愛いって言ってくれました。嬉しい…」


「……その顔見せれば一発だったのに」


 剣也の可愛いをもらったレイナはニコニコと口角を上げてだらしなく笑う。

その笑顔は可愛いを具現化したような存在で、女の早乙女ですら尊死しそうになるほどの破壊力。


「目標は文化祭ね。せっかく劇で恋人同士になったんだから実際にくっつくように頑張んなさいよ」


「で、できる限りは…」


バシッ!


 力強くレイナの背中を叩く早乙女。

姉御肌の早乙女は、世話焼きのお母さんのような存在だった。


「他の女に取られてもいいの?」


「み、美鈴なら愛人枠を用意するといってたので…」


「愛人って…あんたらまだ高校生なのに何言ってんだか。女は度胸! はい、復唱!」


「お、女は度胸!」


 両手を胸の前で握り力強く復唱するレイナ。

レイナにとっても女性友達は初めてで、それでも早乙女は有名人のレイナに恐れず臆さず壁を作らず接してくれる。

それが心地よくてレイナは早乙女に懐く。

生粋の世話焼きの早乙女もどこか幼いレイナを可愛がるとてもいい関係が作れていた。


「じゃあまずは文化祭一緒に回る約束を取り付けること!」


「わ、わかりました…頑張ります」


「どの学校にも似たような伝説はあるんだけどね、後夜祭の日愛を誓った二人は一生を共にするらしいわよ」


「一生……愛を誓うですか」


~放課後


 終わりの鐘がいつものようになる。

部活に勤しむもの、放課後を友と遊ぶもの、家に帰って一人を満喫する者達に別れる。


「レイナ今日夜空いてる?」


「空いてます!」


 剣也に誘われたと勘違いしたレイナは食い気味で返事をする。


「よ、よかった。この前宵の明星とご飯に行く約束しただろ? 今日はどうかって。美鈴はいけるらしいけど」


「あ、そっちですか。はい、問題ないです」


 ギャル仕様は終わったようでいつも通りのレイナに戻る。

もっと見たかった剣也としては残念だが、これも早乙女の作戦。

もっと見たいぐらいでやめるのがちょうどいい。


「じゃあ、いけるって返事しておくね。一旦帰ってから行こうか」


「はい」


 そして剣也達は自宅へ帰る。

文化祭の練習や準備は明日から始まるようだ。

台本もほぼ完成しているとのこと。



「奈々もいく?」


「私も行っていいの?」


「ギルドメンバーだし、問題ないと思うよ」


「うーん、じゃあせっかくだし行こうかな」


「チャラい人がいるから気を付けて、奈々。妊娠させられるわ」


(サオさん随分警戒されてるな。まぁあの風貌じゃ仕方ないか)


 奈々、美鈴、レイナ、剣也の4人で約束されたお店に行く。

場所は東京の港区の居酒屋。

ただし大衆居酒屋ではなく、貸し切りの個室の良い居酒屋。


「やぁ剣也君、久しぶりだね」


「あ! 田中さんお久しぶりです! それと…」


 お店についた剣也一向、そこで待つのは田中さんと受付のお姉さん? 

あの時田中さんの会社ウェポンに行ったとき案内してくれたお姉さんがいた。


「お久しぶりです、剣也君。私は受付嬢 兼 宵の明星OG 兼 田中一世の妹。 田中あかねです」


「い、妹さん!? し、失礼ですがすごくお若くみえるんですが」


「ふふ、お世辞ですか? 私はいま27ですよ」


「ええ! もっとお若いかと…でもそれでも若くみえます。それに妹さんって……」


「いくつに見えていたかわからないが、私はまだ30後半だよ?」


「えぇぇ!!」


「これでも苦労しているんだよ、私は…」


 田中さんが少し悲しそうに、目を伏せる。

若々しくエネルギッシュに見えていたが、まだ30代だったようだ。

40半ばぐらいだと思ってた。


 この若さでトップ企業の社長へと成り上がったのだ。

相当な苦労があったのだろう。


「じゃあ、行きましょうか。もう宵の明星のメンバーも来られると思います」


 あかねさんに連れられて僕達はそのまま料亭のような、居酒屋に入っていく。

居酒屋といっても、大衆居酒屋のようなお酒を飲む場所というよりは静かに楽しむ大人の料亭という感じ。


「初めましてだね、どちらが剣也君の妹さんと、メンバーの美鈴君だい?」


「あ、ご挨拶が遅れました。御剣奈々です。ギルド設立の時はご助力いただいてありがとうございました」


 美鈴が田中さんに挨拶をする。

田中さんの会社の人に設立は手伝ってもらったのだが、田中さんと直接会うのは初めてだ。


「こんばんわ、鈴木美鈴です。一応サポーターとしてギルド【御剣一家】に所属してます」


 美鈴もお辞儀をしながら田中に挨拶をする。


「よろしく、奈々君、美鈴君。素晴らしいギルドを見つけたね、きっともっと大きくなるよ。剣也君は」


「「はい!」」


 席に座り、宵の明星を待つ。

するとすぐに大きな声でコンパに来た大学生のような人がきた。

その後ろにいつものメンバーが


「うぃーーす! 一世さん。こんばんわっす! あとレイナちゃん、美鈴ちゃん、剣也君と……」


「あ、御剣奈々です。兄のギルドの経営など雑務を担当してます。よろしくお願いします!」


 奈々が立ち上がり宵の明星へとあいさつをする。


「あぁ、よろ……し…く」


 その時サオに稲妻走る。

顔を上げた奈々と目が合う。


 邂逅、運命、ひとめぼれ。

女性慣れしているはずの竿人、その竿人の心が奪われる。

高鳴る鼓動が抑えられない、情欲のまま行動する。

人にはもろタイプという相手がいる、竿人にとって奈々がそれだった。


 奈々の前に片足を跪いてまるでプロポーズ。

再度情熱的な挨拶をする。


「俺の名前は、日向竿人。宵の明星で盗賊をやっています。世界一の盗賊だと自負しているのですが、間抜けにも君に盗まれてしまったようだ」


「な、なにがですか!?」


 いきなりのよくわからない挨拶に奈々が警戒しながら体を抱きしめる。

本能的に感じたようだ、この人は性的な匂いがする。


「それは私の心…うげっ!」


「さっさと入れ。邪魔だ」


 竿人さんが愛の言葉をささやこうとしたとき、その後ろから天道さんが足蹴にする。


「だ、団長! 今大事なところ」


「はいはい、後にしてねー。こんばんわー」

「こんばんわ、みなさん」

「若い子達との酒の席なんて久しぶりでワクワクするの」


 足蹴になれた竿人の後ろから宵の明星のトップメンバーが現れる。

宵の明星は今や100名からなる巨大ギルドだが、トップパーティはこの5人。


 団長 兼 世界最強 天道龍之介 職業は剣士。

 副団長 兼 古豪で剣豪  佐々木一心 職業は剣士。

 世界一の盗賊 日向竿人 職業は盗賊。

 ダンジョン研究者でありながら、第一線で戦う僧侶 樋口 恋 職業は僧侶。

 世界一の広さのアイテムボックスを持つ大倉庫 南 ノア 職業はサポーター。


 そして、こちらは、いまだ底が知れない職業が二人。

錬金術師 御剣剣也

勇者 蒼井レイナ

サポーター 鈴木美鈴

妹の御剣奈々


 いまだトップを走り続ける最強ギルド。

そして次世代を担う御剣一家との飲み会が始まった。


「とりあえず生で!」

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