第73話 竿の人
まえがき 祝日なのでもう一話
「レイナちゃーーん! ファンなんだ!! 連絡先教えてぇぇぇ!!」
エッチなNTR本の竿役みたいな大学生。
金髪短髪でこんがり焼けた肌に筋肉質な身体。
チャラチャラした言葉遣いに、高そうなネックレス。
男の僕から見ても性的な身体をしているその大学生がレイナに近づく。
「うわ! こっちの女の子もチョーかわいいじゃん。名前教えて?」
さらに美鈴に近づく笑顔の半裸の男。
事案に見えるからやめてほしい。
「鈴木美鈴です……」
美鈴が僕の後ろに隠れながら挨拶をする。
受けは弱い美鈴に、本物のチャラ男は分が悪い。
「美鈴ちゃんっていうのか、あ、ごめんね。俺の名前は日向 竿人(さおひと)」
「よ、よろしくお願いします…」
「あれれ? 怯えてない? 怖くないよ~とって食べたりはしないからね? 食べちゃいたいけど」
「やめなさい、サオ。怖がってるでしょう」
(あだ名サオなんだ……)
「こいつと話しちゃだめだよー妊娠させられるからねー」
恋さんと、ノアさんが美鈴の横で護るようにサオから守る。
「ひでぇよ、ノアさん、恋さん! お近づきになりたいだけなんだって。よろしくレイナちゃん、美鈴ちゃん。あ、あとついでに剣也君」
次々と笑顔で握手していくサオさん。
明らかに剣也の時だけ握手が短かった気がするし適当だった気がする。
気がするだけであることを願う、
「あ! じゃあさ、この階層攻略するんだよね。ノアさん地図だしてあげてよ! それとあのアクセサリーも三つほど! 俺の稼ぎからマイナスでいいからさ」
「地図と海竜のこと?」
「そうそう!」
「地図は良いけど、アクセサリーはちゃんと分け前から減らすからね」
「うぃっす!」
するとノアさんがアイテムボックスの空間を開き入っていく。
しばらくすると7枚の地図と青色の勾玉のイヤリングを3つもってきた。
「はい、これがこの階層のゲートの在りかの全部の地図と、水の中で呼吸できるアクセサリーの装備」
「こ、これもらっていいんですか?」
ノアさんがそれを剣也に手渡す。
「そ! それあげちゃう! 先輩からの優しい選別! この階層は呼吸できないと大変だからね。俺たちなんて最初酸素ボンベで攻略したんだから」
チャラいポーズでチャラ男が笑顔を見せる。
その笑顔は甘く、イケメンで、女性慣れしてそうな大学生。
とはいえゴブリンキングの時もそうだけど、この人はそういう人じゃないと思う。
すごく優しいし、誰にでも笑顔で会話出来るすごくいい人だけどたまに弱いところがあるし勘違いされやすいから私が支えてあげないとダメ。
多分みんな彼のこと誤解してると思うの……。
「ありがとうございます! サオさん!」
サオさんがくれたのは、身に着けると水の中で呼吸ができるようになるBランク装備のアクセサリー。
この階層の海竜と呼ばれる魔物を倒すとよくドロップするらしいが、なんせこの階層は迷宮ではなく海が攻略対象。
海の中ではドロップアイテムを拾うだけで苦労する。
とても便利だし、Bランクアイテムなので普通に1000万近くする。
それをポンと出せるとはさすが最強ギルドのメンバー。
「サオさんって。ま、まぁいいか。じゃあさ今度飲み行こ! 宵の明星と剣也君のギルドでさ! 連絡先教えてよ」
「僕のでもいいですか?」
「ちっ」
「え?」
「いや、何でもないよ。了解了解! 剣也君のでいいからさ」
そして剣也と竿人は連絡先を交換し、その日は後にした。
美鈴を病院に連れて行って手当をしてもらったが、傷は浅く残らないとのことなのでよかった。
その日はそのまま家に帰る3人。
リビングで今日の戦利品を整理しながら談笑する。
「傷残らなくてよかったー」
「ほんとによかったね、美鈴」
「先輩も綺麗な肌の方が好きでしょ?」
「ま、まぁ…」
「先輩塔で行ったこと忘れないでくださいね」
「うん…でも」
「その続きはなし。あと今夜先輩の部屋にいっていいですか? 美鈴怖い目にあって一人じゃ寝られないの」
「そ、それは……うーん」
ぐいぐい来る美鈴に剣也は押され気味。
吹っ切れた美鈴の攻撃力は紙装甲の剣也を突破しそうな勢い。
レイナは何があったのかと不思議な顔で剣也と美鈴を見る。
明らかに美鈴の雰囲気が変わっている。
しかし美鈴が剣也に抱き着くたびに心にズキッと痛みが走る。
(なにこの気持ち)
剣也と美鈴がいちゃいちゃしているのを見るレイナの中で何かが芽生えた。
この気持ちはよくわからないけど心がざわつく。
もやもやした気持ちがレイナの心に広がっていく。
「レイナ?」
「あ、あぁ何でもありません。少しぼーっとしてました」
…
「それは嫉妬だね、レイナちゃん」
翌日、悩んだ顔をしているレイナと仲がいいクラスの女の子がお昼休みに会話する。
彼女は早乙女一花、演劇部の部員で文化祭の新訳ラグナロクの台本も考えている。
「嫉妬…ですか」
「ほかの女の子といちゃついているの見て何とも言えない気持ちになる。それはもう嫉妬だね」
「そうですか、これが…。どうすればなくなりますか?」
「無理でしょ、無くなるなら人類は恋愛で悩んでないし」
「そうですか…」
嫉妬を無くす方法はないかと早乙女に相談するレイナ。
しかしそんな方法はない。あるのなら人類は恋で悩むこともない。
七大罪の一つ、嫉妬。
罪なのだろうが、それを止めることができないのも事実。
「私、嫉妬深いのでしょうか……」
「いや、普通に剣也君が悪いでしょ。ああ見えて垂らしなんだね。あーでもまだ付き合ってないんだっけ。告ってみたら?」
「こ、告る!?」
「そりゃ付き合うなら告るしかないでしょ。それともレイナちゃん告られたい願望?」
早乙女がニヤニヤとレイナにおはしを向ける。
最近は剣也は大和田とばかりご飯を食べるので、レイナも早乙女とご飯を食べることが多い。
「どうなんでしょう……でも自分からは…怖いです」
「勇者ともあろう人がねー。勝算はあるとおもうけど、一体どこがいいのやら」
大和田とふざけ合う剣也を見る早乙女。
顔はまぁまぁかもしれないけど、レイナと比べると早乙女には何がいいのか理解できない。
友達とふざけ合う剣也はどこにでもいる高校生に見える。
「剣也君はすごい人です。私なんかよりもずっと…」
「ふふ。まぁ頑張んなさいよ、応援してるから。作戦でも立てる?」
「作戦ですか?」
「そ、名付けて勇者告白大作戦」
「それだと私が告白するみたいですね」
「細かいことはいいのよ、どう? やる?」
(このまま日々を過ごしていてもこの気持ちが晴れないのなら)
「はい!」
…
「これが作戦なんですか?」
「そ、まずは印象を変えてみよう作戦」
早乙女に部室に連れていかれるレイナ。
早乙女は演劇部だけあってメイクには慣れている。
それにここは演劇部だ、大体の衣装やアクセサリーが置いてある。
「まじかあんたすっぴんなの、これ」
「そうですけど…」
「素材が良すぎるわ、じゃあ、これで、これとこれで。よし! やっぱり可愛い」
てきぱきとレイナにメイクを施す早乙女。
真っすぐストレートの髪もヘアアイロンでイメージチェンジ。
毛先をくるくるにしていく。
「すごいですね。雰囲気が全然違います」
いつものミステリアスの雰囲気のレイナはモデルのように美しい。
しかしどこか近寄りがたい神秘さも併せ持つので明らかに高嶺の花というイメージがぬぐえない。
これでは、相当経験値を積んだ男ですら戦う気力もでないだろう。
目の前にハリウッド女優がいて口説く気になれるかというわけだ、恋する以前の問題になる。
そこで早乙女の作戦は、レイナを今風の女の子にすること。
つまりは…。
…
「そうそう、それでさ、ゴブリンジェネラルを100回倒したらキングになったんだよ」
「ほう、それがあの噂の10階層エクストラボスの真相ですか、これは気を付けなければ。まぁ100回も倒す物好きは剣也氏ぐらいでしょうが。はは!」
「ひどい目にあったんだからね、文字通り死にかけたよ。ほらこのでっかい傷」
教室の隅で、剣也と大和田が談笑する。
ダンジョンの攻略法や、ダンジョンについて語り合っている。
「剣也君」
そこに早乙女に連れられたレイナ。
教室がざわめき、女性からは可愛い過ぎる、男達は尊い、これが尊死などの言葉と共に次々と膝をつく。
「ん? なに?レイ…ナ?」
「きゅ、キュンです♥」
そこには、二つの指で♥を作る流行りのポーズ。
加えてウィンクをして目の横にピースで決めポーズ。
ギャル化したレイナが立っていた。
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