第48話 満面の笑みに奪われて
「よし! 黒龍の羽衣から錬金するか!」
まず錬金するのは、あの虹色の箱から出現した黒龍の羽衣だ。
レベルアップ♪ 黒龍の羽衣Lv2
レベルアップ♪ 黒龍の羽衣Lv3
・
・
レベルアップ♪ 黒龍の羽衣Lv9
そして…。
進化♪ 深淵龍の鱗鎧Lv1
現れたのは、真っ黒の鎧。
吸い込まれそうな、まるでそこだけ世界から抜け落ちてしまったかのような深淵の黒。
本来地味のはずの黒という色が、自然界には存在しないほどの深淵の黒が、世界にもたらす違和感のせいで存在をこれでもかと主張する。
その装備は、軽く羽のよう。
それでいて圧倒的な防御力を誇っていた。
なぜなら目を凝らして剣也が見たその装備の能力は…。
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装備説明
・深淵龍の鎧Lv1(Lvによる上昇なし)
Aランク レア度★★★★
能力
・防御力+5000
・魔法攻撃半減
・物理攻撃25%カット
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「5000!? なんだそれ!?」
1000を超えると銃弾すら聞かなくなるのだが。5000を超えるともう近代兵器ですら効果がないと聞く。
文字通り兵器と化した剣也の防御力は見たことすらない龍種、それも上位龍の力を得ていた。
「すごい鎧ですね…」
それを見れレイナもペタペタと鎧を触る。
Aランクの装備は、普通には購入できない。
武器屋にも並ばずに、ギルドから田中さんの会社や、佐藤の親の会社を経て国へと卸される。
つまりこのレベルの装備は軍事力と言っていい。
いくつAランクの装備を持っているかが、今や軍事力のパラメータともいえる。
なんせ、近代兵器すら効かない人間がどこにだって行けるのだから。
やろうと思えば、一人でホワイトハウスに乗り込んで銃弾を受けながら大統領すら殺せるだろう。
とはいえそのために同レベルの装備を持った軍人が警護しているのだが。
そして装備する剣也。
防御力に関しては、ダメージを受けなければ実感できないがこの能力上昇によって剣也の総ステータスは。
1400(攻撃力)+5000(防御力)+400(素早さ)+500(知力)=7300となった。
つまり730回の錬金が可能ということだ。
これが意味することは一日73個の王シリーズが生産可能ということ、ただし剣也の精神がもてばだが。
「かっこいい鎧だな…」
その深淵の黒は、見ているだけでワクワクするような男の子が大好きな見た目をしていた。
剣也は装備して、非具現化設定とする。
剣也は文字通り軍事力レベルの存在に足を踏み入れる。
「よし次は精霊の冠を錬金するか!」
レベルアップ♪ 精霊の冠Lv2
レベルアップ♪ 精霊の冠Lv3
・
・
レベルアップ♪ 精霊の冠Lv9
そして…。
進化♪ 大精霊の髪飾りLv1
(ほう、大精霊とな。精霊にすらあったことはないのだが、上位の階層には魔法としか思えない攻撃を放ってくる精霊がいるらしいからその派生かな?)
現れたのは、光り輝く金の髪飾り。
花びら?をモチーフにしているのだろうか、とても綺麗で可愛らしい。
髪飾りの周りは、かすかに空間が揺らいでいて存在を主張する。
周りには、何かよくわからないが小さな光が漂っていてまるで精霊がそこにいるかのようだ。
(とはいえ髪飾りか、男の俺がつけるのもなぁ…)
そして剣也は目を凝らし、装備の情報を見る。
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装備説明
・大精霊の髪飾りLv1(Lvによる上昇なし)
Aランク レア度★★
能力
・知力+2000
・職業による能力上昇を1.5倍する。
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(ほう…。知力+2000とな。しかし職業による能力上昇を1.5倍するか…錬金術師では効果がなさそうだ、それに進化はここまでか)
するとレイナがその髪飾りをじっと見つめている。
(レイナならこの装備も効果が最大限発揮できるかな?)
勇者の職業はステータスの向上が著しい。
そのためレイナならより効果を得られると思った剣也はレイナを呼ぶ。
「レイナ、ちょっと来て!」
「?…はい」
首をかしげながらこちらに歩いてくるレイナを近くに呼ぶ。
ちょいちょいと手をこまねいて頭を下げさせる。
「剣也君…なにをしているんですか?」
「ちょっとまってね…うごかないで…はい! できた! うん!」
「これは…?」
レイナが髪飾りを触りながら驚いた顔で剣也に聞く。
剣也はレイナの綺麗な髪に髪飾りを付ける。
「レイナにピッタリだと思って!」
(勇者という職業の能力補正にピッタリな能力だと思う!)
レイナは言葉の意味を理解して(勘違いして)顔を真っ赤にしながらトイレに行ってきますと走っていった。
◇レイナ視点
トイレに向かっていったレイナは、鏡を見る。
自分の髪についた、金色の綺麗な髪飾りを見る。
壊れないように、取れないように、優しくその髪飾りに触る。
「綺麗…こんなに綺麗なのが私にぴったり…」
おしゃれになど気を使ったこともないレイナ。
もちろんモデルの仕事を通して髪の手入れなどはされてきた。
服だってそうだ、用意されているものを着るだけ。
そんなおしゃれに無頓着だったレイナの髪についた髪飾り。
剣也につけてもらった美しい髪飾り。
いままでいろんなアクセサリーを付けられてきたのに、この髪飾りだけは特別な感じがした。
それがなぜなのかはよくわからない。
レイナは、鏡の前でモデルで培ったポーズをとる。
どの角度が一番綺麗に見えるんだろうと、ポーズを取りながら髪飾りを見る。
どの角度が一番剣也に綺麗と言ってもらえるんだろうと考えながら。
その気持ちが意味することも知らずに。
それと同時に、一つの決心をする。
「私から剣也君に何もしてあげられてない…」
ゴブリンキングの時も迷惑をかけた、守ってくれた。
住むところも提供してくれた。
優しくしてくれたし、温かい気持ちにしてくれた。
なのに私は、まだ壁を作っている、自分の気持ちに素直に慣れていない。
過去を隠しているという後ろめたい気持ちで…。
だから話そう。
彼には話さなければならないと思うから。
彼なら受け止めてくれる気がするから。
私は向き合わないといけないから、じゃないと前に進めない…。
だから今夜。
◇
「あぁ、レイナおかえ…り? どうしたの?」
「どうですか?」
戻って来るや否や、トップモデルとしてまるでステージを歩いているがごとくの剣也に近づく。
そして目の前まで来て、ポーズを決める。
その美しい髪飾りをこれでもかと主張しながら、剣也へ意見を求める。
時には上目遣いで、時にはグラビアのように、時にはパリコレのように。
「す、すごく綺麗だと思うよ」
「!?」
自分で聞いといて綺麗と言われたレイナは赤面する。
ポージングをやめうつむくが、相変わらず耳まで真っ赤だ。
「と、とりあえず一旦返してくれる?」
剣也が錬金のために知力を上げるから一旦返してくれと手を差し出す。
「嫌です…」
「はい、ありが…え? 嫌?」
すぐに掌に乗るものだと思っていた髪飾りは、返却を拒否された。
「外したくありません…」
剣也が驚き、レイナを見る。
くるりと一回転し、綺麗な髪をなびかせて、綺麗な髪飾りを輝かせてレイナは満面の笑みでこういった。
「綺麗ですか?」
今まで無表情だったレイナの満面の笑み。
剣也は面食らって、何も言えなくなった。
満面の笑みに奪われたのは、装備品? それとも…。
憧れは、恋へ。
剣也も彼女を本当の意味で意識しだしたのは、この笑顔を見てからかもしれない。
そして髪飾りはレイナのものとなった。
「ま、まぁいいか。もともとあげようと思ってたし…」
あんな笑顔で言われたら返せとはもう言えないしな。
とりあえず代替え品として帝の兜を装備することにする。
Bランク装備を作るだけなら100回錬金するだけなので、まぁすぐといえばすぐだ。
そして今日は、帝の兜を作って錬金を終えることにした。
(よし、できた! ふぁー今日はもう寝よう、明日からまた王シリーズの量産か…鬱になりそう)
いつの間にか時刻は真夜中。
錬金に夢中になって時間がたつのを忘れてしまう。
「今日はもう休もっか、レイナ」
「…はい」
疲労がピークを迎えた剣也は、睡眠につこうと布団にもぐる。
既に時刻は深夜。
また明日のことは、明日の自分よ、頑張りたまえとぶん投げる。
するとレイナも布団に入る。
この5日間一応隣で寝ていたのだが、特に何もなかった。
まぁ何かを期待していなかったかと聞かれれば期待していたと応える。
だってこんな綺麗な子が横で寝ているんだよ? 期待だってするさ。
まぁ、一切何もなかったんですがね? 僕から行け? そりゃ何もしてませんよ。
彼女できたことないですし、童貞ですし?
「剣也君」
「はぁい!?」
そんな想像をするとレイナに話しかけられる。
寝てるときぐらい髪飾りを外せばいいのにつけたままだ。
急に話しかけられて剣也は声が裏返る。
「なに? レイナ」
「そっちに行っていいですか?」
「え!? ど、どうして!? い、いきなりどうしたの!?」
「……だめですか?」
そのレイナの表情は、真剣な顔だった。
何があったのかわからないが、何かを決心したかのように。
真っすぐとこちらを見ている。
「……いいよ」
脳内で邪な考えをしていたさっきまでの自分をぶん殴る。二度と出てくるなゲスが。
多分レイナは何か大事な話をしようとしているんだと、剣也は理解した。
だからいいよと答える。
僕も布団から起き上がり座り込む、そしてレイナが同じ布団に座り込み、僕の隣に座る。
沈黙が二人を包む。
しかしいい雰囲気などではない、ロマンチックな雰囲気でも。
暗くそして重い空気が流れる。
「まず謝らせてください。ゴブリンキングとの闘いで、私は動けなくなりみんなを危険に晒しました」
レイナが口を開いたかと思うとあの時の戦いで動けなくなったことを謝罪する。
「大丈夫だよ」
剣也は、答える。
できるだけ優しく。
「剣也君に…話します。私の過去を。向き合うためにも」
レイナは言いづらそうに、話しづらそうに声を絞る。
徐々に動悸が激しくなり、息も荒くなる。
思い出したくない過去を、思い出そうとして、しかし懸命に頑張る姿に剣也は止めることはできなかった。
「わかった、聞くよ」
しばらく静寂が二人を包む。
そしてレイナが息を荒げながら話し出す。
思い出しなくない記憶を懸命に思い出そうとして、頭を抱える。
「はぁはぁ……私は…はぁ………私は」
噛み締めるように、声を震わせ絞り出す。
その目には涙が溜まっていた。
「両親を……殺したんです」
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