アンドレ―の記憶

意識が覚醒してカケルが感じたのは違和感だった。まるで大気に意識が溶け込んだかのように、遥か上空から地上を見下ろしているのだ。それもその地上波見覚えのあるものだ。空の上では小型の飛行機が縦横無尽に走り回り、眼下にはビルが立ち並んでいる。これは紛れもなく地球だとカケルは確信する。すわ帰ってきたのかとカケルは興奮するが、意識だけあって自分の体がないことに気付く。カケルはすぐに自分が意識を手放す前のシステムメッセージを思い出す。


(アンドレ―の記憶?ここはアンドレ―の過去なのか?)


何でそんなものを見ているのだという疑問が、カケルの心の中に浮かぶ。アンドレ―というのはカケル達が撃破した地喰いのカードを、地球で所有していた男だ。多大な犠牲を払って地喰いを倒したのだ。アンドレ―の記憶などどうでもいいから散っていった者に追悼位させてくれとカケルは願う。だがカケルの心情など知ったことかというように、眼下の景色は変化していく。


「アンドレ―君。残念ながら君は不治の病にかかっている。今の医療技術をもってしても、申し訳ないが救うことは出来ない。だが多少の延命なら出来る。何かしたいことはあるかい?」

「したいこと、ですか・・・。今はまだないですけど、見つけていきたいですね」


医者が残酷なことをアンドレ―に告げる。アンドレ―はアメリカ人だが父母は黒人。人類の技術が進化したとはいえ、いまだ差別意識が残っているアメリカでアンドレ―の父母は黒人でありながら一財産を築いた。それゆえアンドレ―家族は、黒人のくせに一丁前に稼ぎやがってと周りからよく思われておらず、当のアンドレ―本人も不治の病を患っており、このまま孤独に死んでいくのかと諦観している。医者はアンドレ―の気弱な返事に顔を顰めるが、かといって残り少ない命なのだからやりたいことを本気で見つけろときつく言う訳にもいかず、何とも言えない表情で病室を後にするアンドレ―の後姿を見送る。季節は夏、テキサスの日差しがアンドレ―の病弱な体を焼き焦がす。だがアンドレ―は電気自動車に乗ることはせず、まるで太陽の温かさをその身に刻むかのように、徒歩で帰路に就く。


「暑いな・・・」


そう言いながらアンドレ―が歩いていると、ふと立ち止まる。視線の先には巨大モニターに映っているとあるゲーム。画面の中では召喚されたモンスターたちがVR技術によりあたかもその場にいるかのように立体的に映し出され、戦っている。その臨場感満載の映像を見て、アンドレ―は人知れず興奮したのだ。そしてアンドレ―はその短い人生で初めてのゲームという物を体験する。元々現実世界では持病と肌の色のせいで蔑まれていた。アンドレ―にとってはゲームの世界だけが心休まる場所だったのかもしれない。それにディープワールド・カードゲームはアンドレ―にとっては妙にあっていた。アンドレ―は手始めにチュートリアルをプレイする。その時に地喰いという圧倒的に格上の相手に対して、トゥグリという進化モンスターを使って逆転するプレイをしてから、アンドレ―は進化モンスターの虜になっていった。最初は弱い進化モンスターを自分と重ね合わせて、いつか羽ばたく日を夢見たのかもしれない。そして月日は経って行った。


「さぁ世界王者に挑むのはこの男ぉ!なんと世界大会参加は今回が初めて!無名の新人でありながら期待のルーキー、アンドレ―!」


やけにでかい司会の声と、それに続く観客の声援。月日は経ち、アンドレ―は世界大会で、前回の世界王者と決勝戦でぶつかることになる。前回の世界王者であるグレゴリは低コストのモンスターを大量に展開して速攻を仕掛けるデッキを得意としている。対するアンドレ―は進化モンスター主体のデッキ。速攻で押し切られたらアンドレ―に勝ち目はない。試合前のオッズもグレゴリの方が高い。だがそれでもアンドレ―の目には闘志が宿っている。


「あまり熱くなるな、アンドレ―君。精神が乱れると体調不良になるかもしれない。大会というのは毎年開かれるのだろう?無理はする必要はないんだよ」


試合前にアンドレ―の主治医がアンドレ―を気遣いそんな言葉を投げかける。だが主治医も分かっているのだろう、その声には張りがない。そう、アンドレ―に次という物があるのか、それが問題なのだ。アンドレーは今までにない表情を浮かべている。勝てば一生忘れられない思い出、負ければ一生忘れられるはずもない悔し涙と、後悔の末の死。その狭間でアンドレ―はこれ以上ないほどに生に焦がれているのだ。


「熱くなるな、なんて無理ですよ先生。僕は勝ちたいんです」


その興奮した目は何をみているのか。空からこの記憶を眺めているだけの僕には到底理解できない。いやそもそも、他人が真に考えていることを読める人間などいないだろう。兎に角アンドレ―の勝利への渇望もあり試合は白熱した。長引く試合にグレゴリの手札も次第に減っていき、手詰まりになっていく。だがターンが回ってグレゴリがカードを引くと、彼はニヤリと笑う。


「さぁ、俺のターンだ。まずはドローを・・・来たぜ、俺の最強カードが。メインフェイズで兵隊蟻と女王蟻を陣地・暮れない丘に進軍。既に暮れない丘にいる働き蟻はプレイヤーにアタック、と行きたいが残念ながらプレイヤーの陣地にモンスターがいる場合は例外としてモンスターから攻撃しなくちゃいけねぇ。仕方ないから働き蟻で氷結のドラグーンに攻撃。女王蟻の効果で攻撃力が1上がってるから2ダメージだ。そしてメインフェイズが終わって召喚フェイズだ!俺は陣地・赤の時計台に「魂殺し」を召喚!クックック、災厄モンスターを見るのは初めてか?これで蹂躙してやるぜ」

「おおっとぉ!打つ手なしと思われたグレゴリ選手、大会の優勝商品である「魂殺し」を召喚だぁ!災厄モンスターはそのどれもが強力な能力を持っています。これはアンドレ―選手、厳しいか!?」


〇女王蟻[モンスター] コスト4 4/4 スペル赤 ☆4

効果・全ての蟻カードは永久的に攻撃力+1、最大HP+1

―女王蟻はクイーン―


〇暮れない丘[陣地] 体力8 ☆3

効果・プレイ時、カードを2枚引く

―永遠に空を見続けるために―


〇氷結のドラグーン[モンスター] コスト4 5/4 ☆2

効果・このモンスターが場にいる状態でスペルを2枚以上プレイした場合、

このモンスターはHPを全回復して最大HP+3

―氷の様に眠れる龍、目覚めの時―


〇赤の時計台[陣地] 体力12 ☆4

効果・赤のスペルカードを捨てることでカードを1枚引く

―赤は加速―


〇魂殺し[モンスター] コスト7 9/12 ☆6

効果・【守護】このモンスターが倒したモンスターを自陣の本陣に召喚する。ステータスは撃破前に基づく

―生に駆られ生を駆ける―


したり顔のグレゴリにテンションの高い実況。☆5カードはデッキに5枚制限、さらに☆6カードはデッキに1枚制限とはいえ、そのどれもが絶大な力を有している。グレゴリが召喚した魂殺しがVR技術により会場に現れる。その身は骸骨、頭の上には太陽の輪っかがついているその風貌は、この世ならざる者を彷彿とさせる。体からは瘴気が漏れ出ており、手に持った槍は黒くくすんでいる。さらにその魂殺しの強みは何といっても【守護】だろう。【守護】持ちがいる限り、その陣地を攻撃することは出来ないのだ。会場のムードも災厄モンスターを召喚したグレゴリに向いている。今この会場はグレゴリの独壇場、試合の勝敗さえも誰もが薄々感じ取ったその時に、空から見下ろす僕だけはアンドレ―の表情に気付く。追い詰められたアンドレ―はこの状況で、冷や汗を垂らしながら笑っている。


「いい、流石大会だ。僕の手札が減ったタイミングで災厄モンスターが来るなんて。今の手札じゃ対処しきれない。でもこれこそ僕の望んだ世界だ」


奇しくも災厄モンスター対進化モンスターという構造はチュートリアルと同じである。アンドレ―はチュートリアルで進化モンスターに惹かれた。その時から進化モンスターで災厄モンスターを倒すビジョンを夢想していたのだ。今夢の世界が現実となる。逆境の中でアンドレ―は脳をフル回転させ、この災厄モンスターを倒すためにはどうすればいいかを必死に考える。


「僕のターン。カードを1枚ドロー。陣地・どこまでも続く道から常勝のヴァルキュリアを僕の本陣へ移動。さらに陣地・赤の地をプレイ。僕の本陣にいる氷結のドラグーンで新地・暮れない丘にいる女王蟻を攻撃。そのまま対抗カードがないから撃破するよ。さらにスペル緑を消費して自然の治癒をプレイ。これで氷結のドラグーンは全回復だ。召喚フェイズで陣地・赤の地に不動のガーゴイルを召喚。エンドだよ」


〇どこまでも続く道[陣地] 体力8 ☆4

効果・毎ターン1回だけ、隣接した味方モンスター1体をこの陣地に移動させることが出来る

―この道は果てしなく遠い、気が遠くなるほどに―


〇常勝のヴァルキュリア[モンスター] コスト3 0/5 スペル緑 ☆2

効果・このモンスターは毎ターン攻撃力+1

―負け知らずの恐れ知らず―


〇不動のガーゴイル[モンスター] コスト1 1/1 ☆1

効果・死亡時、プレイヤーの最大HPー1することで不動のガーゴイルを本陣に召喚する

―何かの守り人―


「はっ、守りを固める作戦か?確かに本陣には氷結のドラグーンと常勝のヴァルキュリアがいて固いな。だが「魂殺し」の敵じゃねぇ。俺のターン、ドローはさっさと済ませるぜ。メインフェイズだ。まずは陣地・暮れない丘にいるモンスター共で氷結のドラグーンに攻撃。氷結のドラグーンのHPも減ってきたな?そして俺は暮れない丘の左に陣地・死の祭壇をプレイ。「魂殺し」を死の祭壇に進軍させる。召喚フェイズでダメ押しだ!本陣に女王蟻と兵隊蟻を召喚。はっは、折角女王蟻を撃破したのに残念だったなぁ!お前は次のターンで女王蟻と「魂殺し」、この2体を最低でも倒さないと不味いことになるぜ?」


〇死の祭壇[陣地] 体力8 ☆3

効果・この陣地にいるモンスターが相手モンスターを倒すたびに、カードを1枚引く

―死は次の命の糧となる―


勝ち誇るグレゴリ。事実この盤面はほぼほぼグレゴリの勝ちが決まっている。女王蟻が持つ効果は永遠に蟻モンスターを強化し続ける。そして「魂殺し」は倒したモンスターを自分の駒として使うことが出来る。どちらも倒さないとこのままではジリ貧となってアンドレ―は負けるだろう。グレゴリも優勝経験者であるから、プレイも上手い。敢えて氷結のドラグーンのHPを少し残したのは氷結のドラグーンの効果をわざと発動させるためだろう。進化モンスターの真骨頂は戦闘が長引けば長引くほど有利になるという物。つまりそれは、魂殺しに倒された時のデメリットもでかいという訳だ。グレゴリはあえてアンドレ―の進化モンスターを育たせようとしているのだ。魂殺しのステータスが高く、倒されないと高をくくっていることも影響しているのだろう。グレゴリの戦略は常に高ステータスのモンスターを召喚して、陣地によって手札を回す作戦だ。単純だが、故に強い。


(俺のメインプランは魂殺しで進化モンスターを倒すこと。だが最悪魂殺しがやられちまっても本陣には女王蟻がいる。こいつがいる限り殴り合いで負けることはねぇ。さっきわざと死んだ女王蟻も全てはこのための布石だ。絶望しろ、ルーキーが)


当のグレゴリ本人も勝ちを確信している。グレゴリは性格は悪いが、世界大会の決勝まで歩を進めているほどの腕前の持ち主だ。ディープワールドカードゲームは☆が高いカードが強いわけではない。全てのカードには意味や目的がある。それらを正しく理解して、3×3の盤上を支配したものが勝つゲームだ。だからこそグレゴリの敗因は一瞬の油断だったのだろう。


「グレゴリさん、警戒すべきは盤上のモンスターだけじゃないですよ?僕のターン、1枚ドローして常勝のヴァルキュリアの攻撃力が1上がります。陣地・どこまでも続く道の効果で不動のガーゴイルを、行動権を消費せずに陣地・どこまでも続く道に移動させます。そして陣地・青の地をプレイし、常勝のヴァルキュリアを進軍させます。これで青、緑、赤すべてが揃ったので、スペル白が使えるようになりました。僕はスペル・薄明をプレイ」

「おっと?アンドレ―選手がスペルを使ったぁ。と言っても、これは・・・?☆1のスペルだ、発動条件も妙に厳しい。こんなマイナーカードを世界大会で使うとは、何たる豪気だ。そして肝心の効果ですが、実況の私も忘れているので、この際一緒に勉強しますか!」


実況が笑いを取る。そしてその薄明の効果を読み上げて、実況は言葉をなくす。


〇薄明[スペル] コスト白 ☆1

効果・貴方のモンスターが3体以上いて貴方の陣地が3枚以上ある時、貴方は今回のターンが終わった後に追加の1ターンを獲得する

―夜が明ける、その瞬間を切り抜き自分だけのものにする―


「なんと、追加ターンだぁ!さらにアンドレ―選手、アイテム・無骨な直剣をプレイして不動のガーゴイルの攻撃力を上げたぁ。迷わず不動のガーゴイルでグレゴリ選手の本陣にいる女王蟻を攻撃、さらに氷結のドラグーンで魂殺しを攻撃。驚きました、☆1のカードも使いこなせば相手の意表を突くことが出来るんですねぇ。いやはやこれで次のターンで攻撃力があがった常勝のヴァルキュリアと、効果により全回復した氷結のドラグーンの攻撃で魂殺しは落とされ、更に無骨な直剣を持った不動のガーゴイルの攻撃で女王蟻も落とされるでしょう。スペルとアイテムの使い方がうまい、初出場とは思えぬプレイヤースキルだ!」


試合はそのままアンドレ―が勝利し、実況は興奮する。それもそのはず、この日アンドレ―はディープワールドカードの歴史を塗り替えたのだ。相手の本陣に迫るには陣地を並べてモンスターを進軍させなければならない。するとドローを多くして手札の回転率を上げ、絶えずモンスターを送り込む戦法か、それとも1枚1枚のスタッツが高いモンスターを少しずつ召喚するか、この2つが主流となっていた。だがアンドレ―は進化モンスターでアグロデッキを打ち破ったのだ。スペルもアイテムもどちらも使いどころさえ間違えなければその効果は強大だ。観客の歓声をその小さな体で受け止めながら、アンドレ―は大きく手を上げる。アンドレ―が短い冒険の末に手にしたものは災厄と呼ばれる☆6カード1枚のみ、だがそれは何よりも重く、アンドレ―は大事にそのカードを使い続けた。そう、この世界に飛ばされてからもひたすら大事に。


アンドレ―は様々なモンスターを召喚した。その中には地喰いもいた。だが人とモンスターの時間の流れは同じではないのだ。程無くしてアンドレ―は冷たくなる。それと同時に今までアンドレ―とモンスターを繋いでいた見えない糸までもが切れたように、モンスター達は野生に帰っていく。そんな中、地喰いだけは最後までアンドレ―に寄り添っていた。命の石、それはユタの村付近で沢山採れる特産品の石だ。モンスターには自我という物がある。地喰いはその昔、ケガをしたアンドレ―が命の石を使って傷を癒していたことを見ていたのだ。もう冷たくなったアンドレ―のために、地喰いが愚直に命の石をかき集める。命の石を集めるためなら、険しい顔で王都に駆ける人間だって襲った。だが地喰いがいくら愚直に命の石を集めたところで、アンドレ―が再び目覚めることは無かった。愛すべきアンドレ―の下に行くことになった地喰いは、清々しい顔で深い眠りについたのだった。


「これを俺に見せて何がしたいんだ」


ふとカケルが虚空に向けて尋ねる。気付けば場面は切り替わり、カケルの周囲を闇が覆う。その闇の中に薄白く浮かび上がる歪な紋様。それはカケルをこの世界に呼び寄せた元凶。カケルは鋭い目つきで質問を投げかけるが、自らを神と名乗るその奇妙な紋様はおどけて語る。


『一つの命が歩んできた物語を見せただけだ。自分が奪った命の過去を知るって、大切なことだろ』


そして一呼吸おいてから神はトーンを少し落として、ゆったりと喋り始める。


『私がお前をこの世界に呼んだ時、お前の代わりはいくらでもいるといったな?あれはこういう事だ。アンドレ―は不治の病にかかっていて、地球での生活に絶望していたのだ。夢だった世界大会での優勝を経験してしまったアイツを、最早現に引き留めておく理由はなかったのだからな。お前はどうだ?よもや私の魔王を倒せという指令を忘れてはいないだろうな?』

「俺は別に地球での生活から逃げ出したいなんて願っていない!アンドレ―も不治の病だったが、地球でのアイツは幸せそうだった」

『願ってなどいない、か。それは嘘だな。確かにお前は願ったのだ。お前からしてみればただつまらない日常への、くだらない反撃のつもりだったのだろう。だが過去の出来事を取り消すことなど出来はしない。アンドレ―の記憶を見て、これからどう生きるかはお前が選べ』


その言葉にカケルが何かを反論する前にカケルは目を覚ます。目覚めるとそこはユタの村にある長老の家の中の1部屋だった。カケルは思わず自分の状況を確認する。至る所に包帯がまかれており、所々縫った後もある。ふとカケルが視線を横に移すと、いびきをかきながら眠っているトゥグリがそこにはいる。カケルは少し笑った後、真剣な表情をする。


(俺が願ってこの世界に来たのか。一体地球にいたころの俺は何で、安寧から逃げようと考えたのか。くそっ、地球にいたころの記憶がほとんどない。だが今考えるべきは今後どうするか、それだけだ)


カケルは投影装置を起動してそこに表示されたフィールドを確認する。地喰いとの激戦を経て生き残ったモンスターはウッドゴーレムのナイト、1体だけ。赤の地は守るべきモンスターが1匹もおらず、ガランとしている。手札は増え過ぎたが、使い辛いものばかりだが、放っておいたら今9枚ある手札はバーストして、2枚捨てなければいけない。カケルは覚悟を決めて、手札を使う。


〇星を紡ぐ者[モンスター] コスト2 4/4 スペル赤 ☆5

効果・プレイ時、全ての陣地に4ダメージ

―星の輝きのように、命とは儚いのです―


〇兵隊蟻[モンスター] コスト2 2/2 ☆1

効果・死亡時相手プレイヤーに2ダメージ

―兵隊蟻はルーク―


本当はカケルとしては老兵ガルガンを召喚したかったのだが、エラー表示が出て召喚できないので、仕方なく星を紡ぐ者と兵隊蟻を本陣に召喚する。兵隊蟻も今までのカケルならば魔王の影に怯えて召喚など出来なかったのだが、今は躊躇なく召喚する。地喰いと壮絶な戦いを繰り広げて、その癖魔王を倒せと無理難題を吹っ掛けられたばかりのカケルは、カケルなりに何か覚悟を決めたのかもしれない。星を継ぐ者は20代ぐらいの女性である。頭部には目隠しをつけており、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。


「初めまして。貴方とは最後まで共にいれるといいですね。星の輝きのように、命とは儚いものですから」


カケルが星を継ぐ者を召喚した同時刻、ユタの村近くの洞窟に星が落ちた。その星にユタの村の人々が手を合わせ祈りを捧げたことは、言うまでもないだろう。ユタの村に新しい風が吹く。焦土に散っていった人間たちの名残を、時代の風が吹き飛ばす。日の出だ、長い一日が終わり、また長い一日が始まろうとしている。白骨死体が眠る洞窟を太陽が照らし出し、命の石が日の光を浴びて乱反射している。守るものがいなくなった洞窟はやがて風化していくのだろう、それが時代の流れという物だ。

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