第024話 ゴールドハンター


 リルとの実技試験を終えると、俺とラピスは彼女に連れられてまた受付に戻ってきた。そして彼女は受付にいた女性に声をかけると、何かカードのような物を受け取ってこちらに歩いてきた。


「はい、これがハンター証明書ね。」


 彼女はこちらに金色に輝くカードを差し出してきた。


「金色なんですね。」


 意外と派手なんだな……と思っていると、その理由を彼女が教えてくれた。


「あぁ、キミ達のは特別さ。本来証明書の色はブロンズから始まるんだけど、キミ達の強さを称してゴールドにしたんだよ。」


「そうなんですか……ありがとうございます。」


「ちなみにゴールドの上もちゃんとあるから頑張ってね。」


「金の上があるのか!?」


 何故か食いぎみにラピスがリルに問いかける。


「ハンターランクは、下から順に……ブロンズ、シルバー、プラチナ、ゴールド、そして最高峰にダイヤモンドって感じに分けられてるんだ。」


「ちなみにダイヤモンドとやらになったらこいつはどうなるのだ?」


「んっふっふ~、知りたい?」


「もちろんだ!!」


「しょうがないなぁ~ちょっと待っててね。」


 パタパタとリルは先ほど案内してくれた執務室へと戻ると、キラキラと宝石のような輝きを放つ一枚のカードを手にして戻ってきた。


「じゃ~ん、コレがダイヤモンドの証だよ。もちろん私のだけどね~。」


「おぉぉっ!!」


 ピカピカと輝きを放つそれを目にしたラピスは無垢な子供のように目を輝かせた。


「これはどうやったらもらえるのだ?我もほしいぞ!!」


「残念だけど、今すぐには無理かな~。でも何回もいろんな依頼をこなしてればもらえるよ。」


「では今すぐ依頼を受けるのだ!!」


「そうこなくっちゃ!!え~っとね~ちょうどいい依頼は~……。」


「ちょっと待って下さい。」


 上機嫌で分厚いファイルのようなものを捲り始めたリルに俺は待ったをかけた。


「あぇっ?どうしたの?」


「今日は登録だけしに来たので……依頼はまた今度受けに来ます。」


「な、なぜだカオルっ!!あのキラキラが欲しくはないのか!?」


「それよりも俺には大事な仕事があるからな。」


 ガシッとラピスの服を掴むと、俺はギルドの外へと引きずっていく。


「それじゃあまた来ます。」


「あ、う、うん。」


「カオル~、離すのだぁ~!!我はあのキラキラが欲しいのだ~っ!!」


 駄々をこねるラピスを引きずって、俺は魔王城へと戻る。


 俺にとって依頼よりも大事な仕事……それは言わずもがなアルマ様の食事を用意すること。あくまでも本業はそっちであり、ギルドでの依頼を受けるというのは二の次だ。








 城へともどりアルマ様の夕食まで作り終えた俺は、外へと出掛ける準備を始めた。コックコートを脱ぎ、私服に着替えて部屋の外にでると、部屋の前で両腕を組み仁王立ちしているラピスが俺のことを待ち構えていた。


「カオル、こんな時間にどこへいくのだ?」


「昼間受けられなかった依頼を受けに行くんだよ。この時間からは自由時間だからな。」


「むっふっふ、そんなことだろうと思ったのだ。我を置いてきぼりにはさせぬぞ。」


「はいはい。わかってるよ。」


 そしてラピスと共に夜中に再びギルドへ向かう。その道中……突然辺りの時間が止まった。


「ん!?」


 今まで街の中で危険予知が発動したことなんてなかった。というのも、街の中で命を狙われるような事がなかったからだ。


 時間が止まった世界でキョロキョロと辺りを見渡していると、人混みの中に見たことのある顔があった。


「アイツは……確か昼間の。」


 俺の背後をついてくるようにして人混みに紛れていたのは、昼間ぶっ飛ばしたあの男だった。


「アイツがいるなら……回りにもいるはず。」


 注意深く見渡してみると、やはりお仲間の三人も人混みに紛れ込んでいた。そしてそいつらの手にはキラリと光るものが握られている。


「昼間の報復ってわけか。」


 まったく面倒なのに目をつけられたな。コイツらの持っているナイフを避けることは、今の状況なら雑作もない。だが、避ければ周りの人達に当たってしまう可能性だってある。


 さて、どうしたものかな。


 どう対処すべきか悩んでいると、ふとあることを思い付いた。


「そういえば、この止まった時間の中で物を動かしたりとか……したことなかったな。」


 ふと思い付いた俺はあの男の子分らしき男に近付くと体を両手で押してみた。すると、何の抵抗もなく押せてしまったのだ。


「なるほど、これは便利だ。」


 これでうまいことやれば周りの人に怪我をさせることもなく、俺自身も危害を加えられることはない。


 さて、そうとわかれば……だ。


 俺はせっせとナイフを持っている子分達の体を動かして、ナイフの直線上にヤツの尻が来るように配置した。

 これで時間が動き出せば……尻の穴が三つばかし増えているかもな。


 思わず笑いそうになりながら、俺はラピスのもとへと戻った。すると、時間がゆっくりともとに戻っていく。


(さぁて、どうなるかな?)


 そして完全に時間がもとに戻ったその時……。


「ギャアァァァァァァァァッ!!!!」


 後ろの方であの男の大きな悲鳴が上がったのだ。


「ぷっ……くくく。」


 何が起こったのかを想像して思わず笑いがこぼれると、ラピスがこちらを向いて首をかしげた。


「カオル?何を笑っておるのだ?」


「少し面白いことがあってな。なに、気にすることはない先に行こう。」


 ざわざわと騒がしくなりつつある人混みを抜けてギルドへとたどり着くと、酒場に一人酒を謳歌しているリルの姿があった。


「あ!!キミ達ぃ~、こんな夜中にどうしたんだ~い?……ヒック。」


 彼女はこちらに気がつくと、ふらふらと千鳥足で近寄ってきた。どうやら相当酔っぱらっているらしい。顔も赤いし、何より酒臭いっ!!


「あ、えっ……と昼間受けられなかった依頼を受けに……。」


「あ~……あぁ~っ!!依頼ね依頼~……ヒック!!ちょっと待っててねぇ~。」


 覚束ない足取りで彼女は受け付けに向かうと、昼間開いていたファイルを取り出してきた。


「ん~、夜でもイケる依頼……依頼……………………。」


 パラパラとページを捲っていた彼女だったが、突然俯いたまま動かなくなってしまった。


 まさかと思って下から顔を覗き込んでみると……。


「すぴ~……すぴ~……Zzz―――――――。」


 予想は的中し、彼女は鼻から提灯を膨らませながらぐっすりと眠りについていた。


 どうしたものかと頭を悩ませていると、昼間受付を担当してくれた女性が急ぎ足でこちらにやって来てくれた。


「あぁ~、リルさんまたこんなとこで眠っても~っ!!すみません、ちょっと待っててくださいね。」


「あ、はい。」


 彼女は軽々とリルのことを抱えあげると2階へと走っていってしまった。そして少しすると、息を切らしながら彼女が俺達のもとに戻ってくる。


「え~、リルさんがあれですので……代わって私が案内させていただきますね。今の時間から受けられるものがよろしいですか?」


「そうですね、なるべく早く終わるやつでお願いします。」


「それでしたらこちらがよろしいかと。」


 そう言って彼女が見せてきた紙にはスケイルフィッシュ駆除と書かれていた。フィッシュと書かれているぐらいだから恐らく魚の魔物なんだろうな。


「この魔物は?」


「こちらは近くの湖に生息している肉食の魚の魔物です。近頃異常繁殖が確認されていて、駆除の依頼が来ていました。」


「なるほど。何匹ぐらい倒してくればいいんですか?」


「倒した数に応じてこちらで報酬金を準備させていただきますので、倒せる限りお願いします。」


「わかりました。じゃあそれやります。」


「ありがとうございます。では少々お待ちください。」


 さらさらと紙になにかを記入すると、彼女は受付の奥へと行ってしまう。戻ってくるときには、大きな釣竿のような物を携えてきた。


「スケイルフィッシュはこの釣り竿で陸地に釣りあげていただければ簡単に倒せると思います。どうぞお使いください。」


「ありがとうございます。」


 さてと……いっちょ夜釣りと洒落こもうか。


 借りた釣竿を携え、俺とラピスは街の近くにある湖へと向かうのだった。

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