第018話 駆け込みラピス
「とまぁ……そんなことがあったんです。」
「ホッホッホ、なるほどなるほど。」
ラピスのことをジャックに説明していると……。
「おい、おぬしがカオルの主人か?」
ジャックにラピスが突然詰め寄ったのだ。
「お、おいラピス!!」
とっさに止めようとしたが、ジャックは俺の前に手を出し、アイコンタクトで「構わない。」と伝えてきた。
「ホッホッホ、ラピス様あいにくですが私めはカオル様の主人などではありません。私はただの一介の執事でございます。」
「むっ?では誰が主人なのだ?」
「私とカオル様の主人であれば、あなたのすぐ横にいらっしゃいますよ?」
「なんだと!?」
勢いよくラピスが振り向いた先にはアルマ様の姿が……。
「こ、この
「む~っ!?」
ラピスが発した言葉に、アルマ様は頬を大きく膨らませて怒りを露にした。
「アルマ
アルマ様の指摘は的確なもので、人間の姿のラピスとアルマ様の身長はほぼ同じだったのだ。遠目で見れば若干……アルマ様の方が背が高い気がしないでもない。
「むき~ッ!!言うではないか、ちびすけめ!!」
「
ラピスとアルマ様によって繰り広げられる低レベルな口喧嘩。それをジャックは何も言わず微笑みながら眺めていた。
「……なんかすみません。」
「ホッホッホ、何を謝ることがあるのですかな?アルマ様もあんなに楽しそうではないですか。」
「な、ならいいんですけど……。」
「それよりもカオル様はラピス様のことを如何するおつもりですかな?」
「あ゛……。」
(すっっっっかり忘れてたぁ~っ!!)
根本的な問題が全く解決していなかった。今一番問題なのはラピスをどうするかだ。
ここまで執念深く着いてきたということは、帰れと言って帰るヤツではないのは一目瞭然だし。
ほとほと困り果てていると、ジャックがある提案を投げ掛けてきた。
「良ければこの城に住んでもらってはどうでしょう?」
「えぇっ!?」
「その方が手早く解決すると思ったのですが。」
「それはそうかもしれないですけど、でも……いいんですか?」
「ホッホッホ、構いません。ただし、家賃はカオル様のお給料から引き落とさせていただきますが……。それでも賭場で儲けたお金で暫くは事足りるとは思いますよ?」
「う~ん、それもそうですね。」
ちょうど使い道にも困ってたところだ。少しぐらいならラピスに使ってもいいか。
だが、
「ジャックさん、ラピスの教育は俺が担当しても?」
そう問いかけるとジャックはにこりと笑った。
「構いません。」
「それと、ラピスがもしこの城に貢献できるようになったら……個別に給料をお願いしたいんですけど。」
「もちろんでございます。その際はしっかりと……。」
よし、ならその方向でいこう。
そして俺はアルマ様達の方へと歩み寄った。すると、アルマ様が涙目でラピスを指差して言った。
「カオル!!このラピスって子、アルマにずっとちびって言うの!!」
「アルマ様、お気になさらないでください。ラピスの方がいろいろと
「なな……何を言うかカオル!!」
「事実だろ?」
「ぐぐぐぐっ、ふん!!見ておれ!!」
不貞腐れたラピスはアルマ様の横に並ぶと、爪先で立って背伸びして見せた。そして一時的に背の高さに打ち勝って喜んでいたラピスだったが、アルマ様も同じく背伸びをすると、ラピスの顔を見てクスリと笑った。
「ムキーっ!!おぬしまで背伸びするでないわっ!!」
プンスカとムキになるラピスの頭を片手で掴むと、俺はアルマ様に告げた。
「アルマ様申し訳ありません。少々ラピスと話がございますので、一旦失礼させていただきます。黄金林檎は後程お部屋に運びますので……。」
「あ、お部屋じゃなくてい~よ?アルマ、カオルの料理してるとこで食べる!!」
「わかりました。では、早急に……。」
「いだだだだだっ!?カオルっ、乱暴は良くないぞ!?どこに連れていくのだ~っ!!」
そして俺は二人の前からラピスを連れて自室へと戻るのだった。しっかりと
ラピスを部屋まで連れてくると、俺は頭から手を離す。
「うぐぐぐ……カオルおぬしだいぶ人間離れな腕力だの。」
「ふぅ、まぁそこに座ってくれ。話はそれからだ。」
「うむ。」
ラピスをソファーに腰かけさせると、俺は彼女の前に座る。
「で?ラピス、お前はこれから俺にどうしてほしいんだ?」
「我に毎日飯をくれ!!」
俺の問いかけにラピスはド直球にそう答えた。むしろ潔い。
「お前の要求を飲むことはできる。ただし、この契約書にサインをくれたら……の話だ。」
「なんだ、それだけで我に毎日飯をくれるのか?」
「あぁ、ただし……しっかりとこの契約書に書いてあることを守るならな。まずはしっかりと目を通してくれ。」
「相も変わらず、人間の文字は細かくて読みづらい。まぁ仕方あるまい、どれ……なになに?」
そしてラピスは俺の差し出した契約書をじっくりと読み始めた。
「ほぅほぅ、なるほど……長ったらしくダラダラと書いてあるが、要はお主が毎日我に飯をくれるその代わりに我もお主に貢献しろということで間違いないな?」
「要約するとそういうことだな。」
「タダ飯は食わせられんということか。」
「当たり前だろ?」
「まぁ仕方あるまい。毎日飯にありつけるのだ。これぐらい飲んでやるわ。」
すると、何の迷いもなくラピスは契約書にサインをしてしまった。
「ほれ、これで良いのだろう?」
「あぁ、契約成立だ。」
ラピスと俺の名が刻まれた契約書を丁寧に丸めると、机の引き出しの中へとしまう。
「それはそうと、お主らの主人と言っていたあのちびすけ……あれは何者なのだ?」
「あの方は魔王様だぞ?」
「なるほど、通りでちっこいのに強い力を感じると思った。」
「ホントに知らなかったんだな。」
「当たり前だろう?我は龍なり。人や魔族の俗世なんぞには興味ないわ。」
俗世には興味がない……か。これはいろいろと苦労しそうな予感がするな。俗世に興味がないということは、常識というものも全く違うということだ。
上機嫌なラピスとは対照的に、不安を抱えることになってしまった俺だった。
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