第016話 黄金林檎を護るモノ


 ひょんなことからスカイブルードラゴンのラピスと共に黄金林檎を探すことになった俺。最初は如何なものかと不安だったが、ラピスがとなりにいることであることが回避できていた。


 それは魔物とのエンカウント。


 ラピスとももにキノコの森のなかを歩いていると、たとえ魔物がこちらに気がついたとしても尻尾を巻いて逃げていくのだ。

 こればかりはラピスがいないと出来なかったことだろうから、ここは素直にドラゴンの威厳に感謝しておこう。


 そうしてしばらく森の中を進んでいると、ラピスが問いかけてきた。


「おい、カオル。その黄金林檎とやらの場所はわかっているのか?」


「正確な場所はわからない。ただ、この森のどこかにあるということと、ドラゴンの巣の近くにあるってことしか知らないんだ。」


「ドラゴンの巣……とな?」


「あぁ。」


「この森でドラゴンの巣と言えばマシュルドラゴンの巣しかなかろう?」


 どうやらラピスはこの森に住んでいるドラゴンのことを知っているらしい。


「マシュルドラゴン?」


「なんだ、カオルは知らんのか。マシュルドラゴンは背中に大きなキノコを背負ったドラゴンだ。」


「背中に大きなキノコ?」


「うむ、マジックマッシュルームと言ってな。生物に寄生するキノコなのだが、それと共生関係を築いている。」


「ほぉ……。」


 そのマジックマッシュルームは食えたりしないのか?確か図鑑には載っていなかったが……。


「マジックマッシュルームを食おうと思っておるのなら止めておいた方が良いぞ?」


「何でだ?」


「あれは猛毒だからな。我ら上位の龍種は食ったとて腹を下す程度ですむが、カオルのようなただの人間であれば……死ぬぞ?」


「おぉぅ。」


 なら食わないでおこう。興味はあるが、死ぬのは勘弁だ。


「さて、マシュルドラゴンが守っているとなれば話は早い。早速ヤツのもとへ行くとしよう。」


「え、わかるのか?」


「我を誰だと思っている。低級の龍の場所なんぞ気配でわかるわ。さぁ着いてこい。」


 自信たっぷりに俺の前を歩き出したラピス。俺はその後ろをただ着いていく。


 そして少し歩くと、急に開けた場所へとたどり着いた。


「ほぅ?あれが黄金林檎か。なかなかどうして美味そうななりをしている。」


 ポツリとそう呟いたラピスの目の前には大きな木がそびえ立っていて、金色に輝く果実がいくつも実っていた。


「あれが……黄金林檎。」


 ラピスの協力もあったおかげで、こうも簡単に見つけることができた。


 目的のものを見つけたことに安堵していると、黄金林檎の木の前に黒い影が降りた。


「お出ましか。」


 そうラピスが呟いた次の瞬間、ズン……という大きな地鳴りとともに黄金林檎の木の前に何かか降り立った。

 舞い上がった土埃が薄れていくと、徐々にその姿が明らかとなっていく。


 ラピスほどではないが、見たものに恐怖を与える厳ついドラゴンの顔に、緑色のまるで苔の生えたような鱗……そして極めつけは背中に堂々と生えた大きなキノコ。


 間違いない。コイツが黄金林檎を護るマシュルドラゴンだ。

 

 そう確信したのもつかの間、ラピスはそんな事お構い無しにマシュルドラゴンへと歩みを進める。


「我らはお前の生を脅かしに来たのではない。そこに実る林檎が欲しいだけだ。」


「グルルルル……。」


 そう説得するラピスだったが、どうにもマシュルドラゴンの様子がおかしい。口元からはダラダラとヨダレを垂らし、息は荒く、そして目が血走っている。


 それにはラピスも気がついたようで、明らかに異常な様子のマシュルドラゴンを心配して声をかけていた。


「……??お前、何か様子がおかしいぞ?大丈夫――――。」


「グォォォォッ!!」


「っ!!」


 ラピスが話しかけている最中に、ラピスの足元に巨大な魔法陣が現れたかと思えば、そこから土で作られた鋭く尖った槍が幾つも飛び出してきた。


 それを回避するために空へと飛び上がったラピスは、高いところからマシュルドラゴンに言った。


「何をするっ!!貴様、我が誰かわかっての狼藉かっ!!」


「グガァッ!!」


 そんなことお構いなしとばかりに再び咆哮を上げると、今度はラピスのことを覆うように魔法陣が展開される。


「ちぃっ……。」


 ラピスは舌打ちしながらも、全方位に展開された魔法陣の中を一瞬でくぐり抜けると、マシュルドラゴンの目の前へと急接近する。

 そして拳を大きく振り上げた。


「少しは落ち着けこの馬鹿者がっ!!」


「グゥァッ……。」


 衝撃の強さでマシュルドラゴンの頭が地面にめり込む。しかし、気絶させるまでには至らず……マシュルドラゴンに生えている大きなキノコが不気味に輝くと、自分を中心とした範囲内に多数の魔法陣が現れ、そこから大きな火球が放たれる。


「少し手加減しすぎたか。」


 そして火球が直撃したように見えたラピスだったが、黒煙の中から無傷で飛び出してくると俺の横に降り立った。


「カオル、少し手を貸せ。」


「え?」


「どうしてかわからんが、ヤツは今理性を失っている。上位種族である我のことすらわからんほどにな。」


「で、俺は何をすればいいんだ?」


「ヤツの弱点はあの背中に生えているキノコだ。あれを破壊すればしばらくは動けなくなるだろう。我が注意を引く、その間にお前はキノコを破壊しろ。」


「なるほど、了解した。」


 ラピスの言葉に頷いていると、地面にめり込んだ頭をゆっくりと持ち上げたマシュルドラゴンがこちらをギロリと睨み付けてきた。


「くるぞっ!!」


 またしてもマシュルドラゴンの背中に生えているキノコが怪しく光輝くと、俺とラピスの周りに多数の魔法陣が現れた。


 その瞬間、俺の周りの時間が止まった。危険予知が発動したのだ。


「これを食らったら死ぬってことか。」


 流石はドラゴンの名を冠するだけあるな。食らえば一撃死は免れないらしい。


 危険予知によって時間が止まっている最中にいち早くそこから離れると時間が動き始めた。


 そして俺とラピスがもといた場所に多数の火球が放たれる。

 この時一番驚きだったのは、時間が止まる前……すでにラピスの姿が遥か上空にあったことだ。


 ラピスだけがマシュルドラゴンから見える位置に居たことで、作戦通りヘイトが一気にラピスに集まった。


 ヘイトが傾いている間に俺はマシュルドラゴンの背後に回りこむと、背中に生えている大きなキノコにしがみつき力を込めた。


「ぐぐぐっ…………おぉっ!!ラァッ!!」


 全力を込めてキノコを引っ張ると、スポン!!と快音を立ててキノコが引き抜かれ、マシュルドラゴンは意識を失って地に伏した。


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