第015話 腹ペコドラゴン
ノーリスクで黄金林檎を手に入れるため、急遽腹をすかせたドラゴンに料理を振る舞うことになってしまった。俺の持ってきた携帯食料を食べさせた方が手っ取り早いんだが、あっちの要望でキノコを使えと言われたからな。
先ほど見つけたミミックマッシュルームの他にも食べられるいろいろなキノコを辺りからかき集めていく。なにせあの大きさだ、並みの量ではおそらく足りないだろうから集めるだけでも一苦労。
それに加えて一つ一つしっかりと図鑑と照らし合わせ確認しなければならないからな。間違えて毒キノコを採って食べさせてしまったら大変だ。
そして辺りをうろうろとしながらキノコを集めること数十分……。あらかじめ空にしてきたリュックの中が食べられるキノコでいっぱいになっていた。
「ふぅ、これだけあれば足りるかな。」
主となる材料は十分に確保した。後は調味料とかが問題だな……でもまぁ持ってきた調味料があればなんとかなるだろう。俺の分は無くなるかもしれないがな。
だが、たとえ俺の食料や調味料がなくなったとしても安全かつ迅速に黄金林檎を入手出来ればそれでいい。
「よし戻ろう。」
ぎっちりとキノコが詰まったリュックを背負い、俺は再びあのドラゴンのいる場所へと戻るため歩みを進めた。そうしてあのドラゴンのもとへと足を運ぶと……。
「ガツガツ……ムシャムシャ……。」
「…………。」
いつ起きたのか、ドラゴンはすでに目を覚ましていて、俺の携帯食料に貪りついていた。
「けぷっ!!…………ハッ!?」
満足そうに大きなため息を吐き出したドラゴンと俺はばっちり目が合った。すると、ドラゴンは慌てふためき、今の現状を何とかごまかそうとし始めた。
「い、いや、こ、これは違う!!な、何と言えば良いのか……えっと~そのだな……。」
明らかに言葉に詰まるドラゴン。慌てふためくその姿に威厳はもうどこにもなかった。
なんとか弁明しようと言葉を探すドラゴンに俺はあることを問いかけた。
「美味しかったか?」
「むっ!?」
「美味しかったか?って聞いてる。」
改めてそう問いかけると、ドラゴンは目をキョロキョロと泳がせながら、申し訳なさそうにコクリと頷いた。
「う、うむ……美味かった。」
「そうか、ならいい。」
てっきり何か言われると思っていたのか、ドラゴンはキョトンとした表情を浮かべる。そして目の前でキノコの下処理をテキパキと進めていると、ドラゴンが問いかけてきた。
「お、怒らないのか?」
「逆にどこに怒る必要があった?」
「いや……あれはおぬしの飯ではなかったのか?」
「確かに俺が作ってきた飯だが、別に……それを食べられたぐらいでは怒らないぞ?それに、1ついい収穫もあったしな。」
「……??」
訳がわからず、ドラゴンは首を左右に傾けている。
「俺が作って持ってきたのは、一般的に好まれる味付けの料理だ。それを食べて美味しいって感じるってことは、ドラゴンの舌も普通の人と変わらないって証拠だろ?」
「……………。」
俺の言葉に呆気にとられているドラゴンを尻目に、下処理を終えたキノコを次々に料理へと昇華させていく。
すると、呆気にとられていたドラゴンの表情がまた緩み始めた。
「お、おぉ……良い匂いだ。」
「そんなに近くで匂いを嗅いでると火傷するぞ?」
ヒクヒクと鼻をひくつかせ、火にかけているフライパンにこれでもかと顔を近付けるドラゴンにそう言うと……。
「ふっ、我を誰だと思っている!!」
「腹ペコのドラゴンじゃないのか?」
「違うわ、たわけっ!!」
冗談混じりにそう答えると、ドラゴンはムキになって言った。
「我は
格好つけて、大きく胸を張ってそう言い放ったドラゴンだったが……先程までの振る舞いを見ていると、とてもそんな凄そうなドラゴンには見えない。
「ほ~ん?さっきまで地に這ってたみたいだが?」
「ギクッ!?そ、それは……ちと毒キノコのせいでだな。」
チクリと刺すようにそう告げると、ドラゴンは痛いところを突かれたようで、途端に大人しくなった。
「そ、それよりも人間っ!!我の飯はまだかっ!?」
「俺は人間って名前じゃない。カオルって名前がちゃんとある。」
「に、人間は人間だろう!?」
「ドラゴンにも名前があるように、人間にも名前があるんだ。ちゃんと名前を呼んでくれるまでは、これはお預けだ。」
「な、なんとなっ!?我の飯がぁ~っ!!」
敢えて見せつけるように目の前に置いた山盛りのキノコ料理を、俺はドラゴンの前からスッとこちらがわに引き寄せた。
すると、本当に絶望したような表情をドラゴンは浮かべる。
「ぐぐぐ……な、ならばカオルとやらっ!!おぬしも我のことをドラゴンではなく名で呼べっ!!それで対等というものだろう?」
「ふむ、確かにな。じゃあ……スカイブルードラゴン?」
「馬鹿者っそれは種族名だ!!我の真名は
「……じゃあラピスで。」
「まったく……これで満足か?
「あぁ、満足だ。ラピス、意地悪して悪かったな。」
「ここまで相手にとって相性が悪い人間は初めてだったぞ。」
そして俺は自分の方に引き寄せていたキノコ料理をラピスの方へと差し出した。すると、表情が一気に明るくなった。
「おぉ!!やっと……やっと……。散々焦らしおって、ではいただくぞ!!」
「あっ!?おいっ!!」
皿を前足で器用に持ち上げたラピスはまるでスープを流し込むように、皿に乗っていた料理を全て口の中に詰め込んでしまう。
「ん~っ♪美味い!!美味いぞ!!」
皿を1つ平らげたかと思えば、あっという間に目の前から料理が次々と消えていく。
そしてものの数分でラピスは俺の作ったらキノコ料理を全て完食してしまった。
「けぷっ、ん~っ……満足だ。この森に来てからやっと美味いもので腹が満たせた。感謝するぞカオル。」
飯を食べてすっかり元気になった様子のラピス。
「それは良かった。……それで、約束の褒美は?」
「むっ、カオル……おぬしもなかなかがめついヤツだの~。ちと待っておれ。」
ラピスは長い尻尾を鞭のようにしならせると、俺の目の前に大きな瑠璃色の鱗が三枚突き刺さった。
「……これが褒美?」
「むっふっふ、我の鱗だ。武器にしてもよし、売ってもよし、好きにするが良い。」
「黄金林檎じゃないのか?」
「黄金林檎?なんだそれは?」
黄金林檎というワードにラピスは首をかしげた。その瞬間、俺は頭を抱え崩れ落ちた。
(黄金林檎を知らないってことは……ラピスが黄金林檎を守ってるドラゴンじゃないってことだ。)
そういえばさっき「
つまり……俺の目的は一ミリも進んでいないっ!!
ガックリと項垂れていると、上機嫌なラピスの声が聞こえてきた。
「おっ?そんなに我の鱗が嬉しいか?むっふっふっ、鱗の手入れは毎日欠かしていないからな。我の自慢の鱗だぞ?時に宝石と間違われるのだ、むはははっ!!」
高らかに笑うラピスの前で片付けを黙々と進めていると、にやにやと笑いながらラピスが顔を近づけてきた。
「なんだなんだカオルよ、もう片付けを始めて……。」
「あいにく俺はこの森でまだやることがあるんだ。」
「ほぅ?それはさっき言っていた黄金林檎とやらのことか?」
「そうだ。」
「時にカオルよ、その黄金林檎は美味いのか?」
ふと気になったのかラピスは問いかけてきた。
「さぁな、俺も食べたことはない。何せ幻の食材らしいからな。」
「ほぉ~ぅ?」
俺の言葉ですっかり興味を惹かれたのか、ラピスはニヤリと笑みを浮かべた。
「ちょうど我も食後の甘味を欲していた。その黄金林檎とやら、探すのを手伝ってやろう。」
思わぬ出会いのせいで超強力(?)な助っ人が黄金林檎を探すのを手伝ってくれることになった。
こいつは食べ始めたらいくつ食うのかわからない。兎に角アルマ様に必ず1つは持ち帰らないと……。
俺のとなりでまだ見ぬ黄金林檎を思い、舌舐めずりするラピスを見て思わずため息がこぼれてしまうのだった。
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