第014話 キノコの森
アダマスまでの道のりは片道で三時間ほどと聞いていたので、揺れる馬車の壁に背を預け俺はしばらく眠りについた。
案外馬車で眠るのは苦しくはない。ゴトゴト揺れる振動がいい感じに眠りを誘ってくれる。
そして次に目を覚ました時、馬車のカーテンからほのかに朝日が射し込んでいた。
「……そろそろか。」
カーテンを開けて外の景色を眺めてみると、馬車の前方にはそこそこ大きな街が……。そして真横にはとんでもなく大きなキノコが並んで生えているのが見えた。
どうやらあれが目的の場所のようだ。
「あれが、キノコの森……。」
あの森のどこかに黄金林檎があるのか。そしてドラゴンも。
「にしても、こんなに街に近い場所にあったら誰でも採りに入れそうだけどな。」
だが、黄金林檎は市場には滅多に出回らないという。それだけドラゴンのガードが硬いということなのだろうか。
そんなことを疑問に思っていると、馬車が街の中に入り止まった。
運転手に運賃を払うと、俺はアダマスの街に足をつけた。夜が明けて間もないこともあってか、まだ人通りは少ない。
本当はゆっくり観光でも楽しみたいところだが、あいにくそういうわけにもいかない。明日の午前中までに黄金林檎を探しださなければならないのだ。
「さて、それじゃ……行くか。」
食料などがぎっちりと詰まったリュックを背負い、俺はアダマスの街の外へと向かって歩きだす。
そして黄金林檎のあるという広大なキノコの森の目の前までやって来た。
「近くに来ると、このバカデカいキノコがさらに大きく見えるな。」
本で読んだ知識だが、このキノコはやはり食べられないらしい。毒はないらしいのだが、なにぶん木の幹のように硬くとてもではないが食用にはならないようだ。
「……よし、行くぞ。」
決意を新たにすると、俺はキノコの森の中へと足を踏み入れた。
キノコの森の中は、薄暗く少しジメッとしている。キノコが生える場所には適してると言えるだろう。
その証拠に、大きなキノコの根本だけでなくそこかしこから、様々なキノコが顔を覗かせていた。
黄金林檎を探すのも大事だが、できれば楽しく探したい。そのために俺はリュックの中から、昨日買ったばかりのキノコ図鑑を取り出した。
「さてさて、食べられるキノコはあるかな?」
そこかしこに生えているキノコを、図鑑と良く照らし合わせ食べられるキノコなのか、それとも毒キノコなのかを判別していく。
残念ながら足元にたくさん群生している、この小さなキノコは毒キノコらしい。
「ふむ、これもダメ……か。」
意外と食べられるキノコはすぐには見つからない。キノコの森と言われるほどだから入ってすぐにあってもおかしくないと思っていたんだが……。
食べられるキノコを探しながら奥へ奥へと進んでいると、やっと食べられるキノコが生えている場所へとたどり着いた。
「お?これは……確か図鑑にあったな。」
紫色の傘に細く真っ白な柄の部分。一見毒々しく見えるこのキノコだが、実はちゃんと食用にできるキノコだ。
「名前は……ミミックマッシュルームか。」
その名の通り見た目で騙すタイプのキノコだ。知識がない人が見たらまず見た目で毒キノコと判別しそうだな。
「味についてはこの図鑑にはあんまり書かれてないんだな。」
周囲を見渡すと、これと同じミミックマッシュルームはまだ何本か生えている。一本ぐらい味見しても良いかもしれない。
そう思い立った俺はリュックの中からカセットコンロを取り出し、金網をのせて火をつけた。
このカセットコンロはあっちの世界で俺の住んでいた部屋から、ジャックの収納によって持ち込まれたものだ。もともと使う予定はなかったものだが、この森で夜を明かすことになったら必要だろうと持ち込んでいたのだ。
良く熱された金網の上にミミックマッシュルームを乗せる。
すると、キノコの焼ける香ばしい香りが辺りに漂い始めた。そしてミミックマッシュルームにも変化が現れ始めた。
「お?色が紫から赤色に変わってきたな。」
火が入り始めた傘の部分の色が毒々しい紫色から、光沢のある赤い色に変わり始めたのだ。
「なるほど、いざ火を通すと見た目の印象もガラッと変わるってことか。これは面白いな。」
予め火を通したものなら毒々しさはないし、赤という色合いもあっていろんな料理に組み合わせられそうだ。
あと問題なのは……。
「さて、味はどうかな?」
軽く焼き色のついたミミックマッシュルームを箸で摘まみ、軽く醤油を垂らすと俺はそのまま口の中へと放り込んだ。
「んっ!!美味い!!」
口にいれた瞬間に広がる香ばしい焼きキノコの香りと、噛めば噛むほどじわじわと染み出してくる濃厚な甘味……。
とくにクセもないし、シンプルに美味しいキノコだ。
「これならアルマ様でも食べられるな。……よし、何本か貰っていこう。」
試食を終えた俺は、辺りに生えているマジックマッシュルームを何本か採取し、革袋のなかへと放り込んだ。
「こんなもんでいいかな。無くなったらまた採りに来ればいいし……。」
再びカセットコンロ等をリュックにしまっていると、背後からじっ……と見られているような視線を感じた。
後ろを振り返ってみるが、そこには誰もいない。
「気のせいか。」
そして視線を元に戻したその時だった。
「おい。」
「……!!??」
突然俺の視界に飛び込んできたのは、トカゲをとんでもなく厳つくしたような顔。
思わず驚いて後ろに飛び退くと、その全貌が明らかになった。
俺の目の前に現れたのは、輝く瑠璃色の鱗で全身を覆ったドラゴンだった。顔だけでも相当なデカさがあったが、全身で見ると約20m程あると見える。
とんでもないデカさだ……。コイツが黄金林檎を守っているというドラゴンなのか?
てか、こいつしゃべるぞ!?
言葉を話すドラゴンに警戒心を高めていると、そのドラゴンはぐで~っとだらしなく体を地に着け、首を重々しくもたげながらこちらに問いかけてきた。
「我の姿を見て逃げないとは、ずいぶん肝が据わっているな人間……ところで、お前はどのキノコが食えるのかわかるのか?」
藪から棒になんなんだ?いや、そもそもこのドラゴンは……敵なのか!?
「そんなに警戒するな人間。我はお前をとって喰おう等とは考えておらん。」
「ほ、本当なのか?」
「我がその気であればすぐにでも噛みついていると思うが?」
「それは……確かに。」
確かに俺のことを食うつもりなら既に襲ってきてもおかしくない。それに俺のスキルの危険予知も発動していないし……本当に敵意はないのかもしれない。
「それで、そろそろ我の質問に答えてはくれないか?人間よ。」
「……どのキノコが食べれるかわかるのかだったな?」
「うむ。」
「一応はわかる……。」
「やはりそうかっ!!」
厳つい表情をぱぁっと明るくさせるドラゴン。そして今度は質問ではなく……あるお願いをしてきた。
「人間、我は腹が減って腹が減ってもう動けん。その辺の食えるキノコで何か作ってはくれまいか?」
「何か作れって言われても……な。」
戸惑っているとドラゴンは更に告げた。
「我が満足するものを作れたら、もちろん褒美をやるぞ?」
「……!!」
褒美って……まさか黄金林檎か!?ドラゴンと戦わずして黄金林檎を手に入れられるなら、この上なく楽で手っ取り早い。
リスクを負わずに済むのならそれが一番だ。
そう考えた俺はドラゴンのお願いに一つ大きく頷いた。
「わかった。だけど少し時間をくれ、キノコを集めるのに時間がかかる。」
「良かろう。ではその間我はここで少し休んでいるとしよう。できたら起こしてくれ。」
すると、ドラゴンは目を閉じてあろうことか寝息を立て始めたのだ。
「…………無防備だな。」
これも強者の余裕というやつなのだろうか。今なら安全に倒せる気もしないでもないが、機嫌を損なったらめんどくさそうだからやめておこう。
そして俺は食べられるキノコを集めるために周囲の散策へと向かうのだった。
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