第013話 レベル20


 自分の趣味を探しながら、ドラゴンに対抗するためレベリングに励んでいる日々を送っていたが、ついにその時が訪れた。


『レベルが1上昇しました。レベルが20になったのでステータスにボーナスを加算します。』


「おっ?」


 やっとレベルが20になったと声が響いたのだ。声に耳を傾けていると、ジャックがこちらに近づいてくる。


「どうやらレベルが20に上がったようですな。」


「はい、やっと上がりました。」


 彼が示していたドラゴンと対等に戦えるようになるレベル20。アルマ様と彼のおかげでここまで来ることができた。


「では近いうちに黄金林檎をとりに向かうのですかな?」


「えぇ、あんまりアルマ様を待たせるわけにはいかないですから。」


「ホッホッホ、ではしっかりと準備していくと良いでしょう。日帰りで帰ってこれるほど楽な道のりではございませんぞ?」


「……日帰りで帰ってこれないってなると、アルマ様のご飯を作り置きしておかないといけないですね。」


 俺がしばらくの間留守にするとなると、アルマ様に料理を作る人がいなくなってしまう。


 そんな心配をしていると、俺はあることが気になった。


「そういえば……俺がここに来るまでは誰がアルマ様に料理を?」


「……!!」


 そう問いかけると、ジャックは一瞬黙りこんだ。しかしすぐに口を開く。


「カオル様がここに来る前は、外で食事をなさっておりました。」


「そうなんですか。」


 ジャックはそう答えたが、その答えを出すまでに一瞬黙りこむ必要があっただろうか?少し彼の様子を疑問に思ったが、あまり深く聞くのは野暮というものだ。


 そう割りきっていると、彼がまた口を開いた。


「おっと、黄金林檎のある場所を教えるのを忘れておりました。」


 そう言って彼はまたしてもどこからか地図を取り出すと、俺の前で広げてみせた。


「黄金林檎はこの街……アダマスの近くにある巨大キノコの森の中に生えております。」


「巨大キノコの森?」


「その名の通り、巨大なキノコが覆い尽くしている場所でございます。」


「へぇ……。」


 なんともメルヘンチックな場所だな。マ○オの世界にありそうだ。


「胞子とか大丈夫なんですか?」


「ホッホッホ、心配ありません。人体に害のある胞子は舞っておりませんので。」


「なら安心ですね。」


「ですが、もちろん様々なキノコが生えておりますので……毒キノコには要注意でございます。食べたら死ぬキノコもございますよ?」


 毒キノコか、それはあっちの世界もこっちの世界も変わらないんだな。


「でも逆に食べられるキノコもあるってことですよね?」


「はい、もちろんでございます。」


 なら、行く前にキノコ図鑑でも買っていこうか。アルマ様の料理に使えるキノコもあるかもしれない。


 そんなことを考えていると、ジャックがにこりと笑う。


「ホッホッホ、カオル様……食材のこととなると楽しそうな表情を浮かべますな。」


「ははは、余計あっちの世界には無いものがあるので。」


 見たこともない新しい食材となれば心が踊るのは、料理人の性だろう。


「それじゃあ、早速……準備を進めてきます。料理は温めて食べられるものを用意しておくので。」


「はい、よろしくお願いします。」


 そして俺は、数日分のアルマ様の料理を作り始めるのだった。






 その次の日、俺は城下町の本屋へと足を運んでいた。目的はキノコの本だ。


「えっと……これか。」


 本棚にぎっちりと敷き詰められた本の中から、一冊の本を手に取った。タイトルには「キノコ図鑑」とある。


 パラパラとページを捲ると、巨大キノコの森のページがあった。どうやらこの世界では、ある程度知名度のある場所のようだ。


「どれどれ、確か食べたら死ぬキノコもあるって言ってたよな。」


 始めのページの方に載っているのはキノコの森で食べられるキノコだったが、後ろの方になるにつれ風向きが変わっていた。


「うわぁ……~~~モドキってつくやつは全滅だな。」


 食べられるキノコに似た、~~~モドキと名称のつくキノコは殆ど毒キノコとして図鑑に載っている。


 もちろん毒キノコを食べてしまえば、その毒に苛まれることになる。軽いものなら腹痛で済むが、ジャックの言っていた通り……食べれば死に至るような危険なキノコも何種類かあるようだ。


 だが……危険なキノコとともに、高級で味の良いキノコも多数生えているようだ。


「これがあれば大丈夫そうだな。」


 俺はそのキノコ図鑑を購入すると、魔王城へと戻り黄金林檎を採るための準備を進めた。


 そしてその日の夜……。俺は大きなリュックを背負ってジャックとともに城を出た。


「ホッホッホ、ついにこの日がやって参りましたな。」


「いいんですか?アルマ様は……。」


「アルマ様ならつい先程眠りにつきましたので、問題はありません。」


 そして彼とともにアダマス行きの馬車のでる場所へと向かう。すると、既に大きな馬車がそこにはあった。


「カオル様、こちらの馬車がアダマス行きの馬車でございます。」


 アルマ様に作り置きした料理は1日と半日分。つまり明後日までには帰らないといけない。


「ふぅ、それじゃあ行ってきます。」


「行く前にカオル様、こちらをお持ちください。」


 すると彼は煌めくナイフのようなものを手渡してきた。


「これは?」


「こちらは黄金林檎を切り離すためのナイフでございます。」


「普通のナイフじゃだめなんですか?」


「普通のナイフでは刃が立ちません。ですので、このオリハルコンでできたナイフを使うのです。」


「そうなんですか。」


 彼からそのナイフを受けとると、手にずっしりと重さが伝わってくる。


「それでは私は、魔王様と共にカオル様の無事をお祈りしております。」


「ありがとうございます。」


 彼から受け取ったナイフをリュックに入れると、俺は馬車に飛び乗った。深夜ということもあって俺以外に客はいなく、出発の時間になっても人は現れなかった。


 そして出発の時間になったとき、ピシャリと馬に鞭打つ音が聞こえてくる。それと共にガラガラと馬車が進み始めた。


「それではどうか御武運を……。」


 ペコリと頭を下げたジャックに見送られ、俺はいよいよアダマスへと向かうのだった。


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