第16話 ランキング戦7


 その後、卯月や如月たちの質問攻めを何とか誤魔化し、俺はCクラスの教室へ休憩に向かっていた。

 ランキング戦期間のみ各教室にモニターが設置され、教室でも観戦することが出来るようになっている。しかし実際は生で見る人や応援しに行く人が多く、教室は休憩所としか使われていない。


「やあ時崎くん。君も休憩かい?」


 教室へ入ると、既に休憩中の小野寺に出くわした。チームメイトの楠木と一ノ瀬もいるようだ。


「まあそんなとこだ。そっちはチームで休憩か?」

「うん。ここで見てたよ時崎くんの試合」

「……そうか」


 勘弁してくれ。質問攻めから逃げるようにここに来たのに。


「最後観戦カメラの位置が悪くてよく見えなかったんだけど、何があったの?」

「それアタシも気になったー」


 隣にいた楠木がいきなり賛同する。陽キャは詰め方が早いな。

 しかし見えてなかったのか、なら都合がいい。


「俺もよく分からなかったが、卯月が何とかしてくれたみたいだ」

「え?卯月さんがやったの?」

「そうらしい」

「凄いな卯月さん」


 素直で助かる小野寺。そしてすまん卯月。勝手に卯月に擦り付けてしまった。後で何でも言う事聞くから。


「えーアタシはてっきり時崎くんがやったと思ったんだけどなぁ」


 楠木が口に指を当てながらそんなことを言った。陽キャは変なとこで勘がいい。


「僕もそうだと思ったんだけど……」

「いや、俺にもよく分かっていないんだ。後から私がやったと卯月から聞いただけだ」

「ふーん」


 慌てて誤魔化すが流石に無理やりすぎたか。

 楠木はまだ疑いの目を俺に向ける。


「まあいいか!とりあえず勝ったことを祝わないとねっ」

「そうだね。おめでとう時崎くん」


 どうやらどうにかなったようだ。俺は一先ず安堵の息をこぼす。


「ああ。そっちもおめでとう」

「ありがとう。といっても、一ノ瀬さんの功績がほとんどだけどね」


 そう言って一ノ瀬の方を向きながら賞賛する小野寺だが、当人の一ノ瀬は顔1つ変えず、まるで機械のように自分の席にただ座っているだけだった。


「一ノ瀬さんはいつもあんな感じ。表情変わんないし、何考えてるのか分かんないんだよねー」

「そうか」

「でも実力は文句なし。Aクラス相手に圧倒だったよ」


 一ノ瀬の異能は確か『怪力』だったか。シンプルだが強力な能力だ。


「それはすごいな」

「本当に、Cクラスにいるのが不思議なくらいさ」


 ふと一ノ瀬の方を見るが、やはり表情は一切変わらず、今はモニターに映し出されている試合に見入っているようだ。

 思えば、一ノ瀬が誰かと話している姿は見たことがなかった。単に人見知りなのか、喋りたくないのか、もしくは喋る必要が無いのか。

 俺は勇気を出して一ノ瀬に話しかけることにした。


「1試合目大活躍だったらしいな。同じクラスメイトとして誇りに思う」

「……」


 ……無視かよ。

 こちらに見向きもせずモニターに釘付けだった。少しは反応してくれると助かるのだが、一ノ瀬は微動だにしなかった。


「ごめんね時崎くん。一ノ瀬さん、普段はあまり喋らないんだ。試合中なら多少は指示してくれたりするんだけど……」

「問題ない。初対面で俺が少し馴れ馴れしすぎただけだ。俺はもう行くことにするよ」

「休憩しなくて大丈夫?」

「暇つぶしで来てたからな。大丈夫だ」

「そっか。お互い頑張ろうっ」

「ああ」






 その後、ランキング戦は円滑に進んでいった。

 卯月からは小野寺たちのことで説教をくらい、俺たちのチームは2回戦目のSクラスに敗れてしまった。

 如月と小野寺のチームは準々決勝目前まで奮闘したが、やはり最期はSクラスに敗れてしまった。

 決勝はSクラス同士の戦いとなり、例年通り上位大半はSクラスのチームが占めてランキング戦は終了となった。

 今頃は、学園内で独自に個人個人点数がつけられている頃だろう。

 入学最初の学校行事が幕を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る