第15話 ランキング戦6


 試合の結果に、小さな歓声が上がる。

 いや、歓声とは違うか。詳しく言うなら、動揺や猜疑心がその口を開かせているのだろう。

 どうやって勝ったんだ、なんなんだアレは。そんな心の声が聞こえてくるようだ。

 少し雑にはなってしまったが勝ち方は至ってシンプルだ。


 ────運がよかった。


 それだけだ。


「やったね時崎くんっ!」


 仮装空間装置トリガーから出ると、俺のことを待っていたのか椿がそう言いながら嬉しそうに近づいてきた。


「そうだな。椿のおかげだ」

「い、いやそんな事ないよっ!私はただ……祈ってただけで」

「だがそれのお陰でこうして勝てたんだ。誇っていいし、礼を言う」

「ううん。私の方こそ、ありがとう時崎くんっ」

「卯月は大丈夫か?」


 周りを見渡すが卯月の姿がない。試合が終わる前もかなり疲弊していた様子だった。


「うん。なんか、能力を使いすぎたとかで先に医務室に行ったよ」

「そうか。後で向かおう」

「うんっ」


 俺たちは退場口へ向かい、その後医務室に行こうとしていたところ、


「お疲れ2人とも。いやー負けちゃったかー」


 後ろから来た柏木に声をかけられた。


「ねぇ時崎くん、最後のあれは何?」


 やはり聞いてきたか。おそらく後で卯月からも質問攻めに遭うだろうから、予行練習とは言わないが話しておこう。


「あの作戦は確実に相打ちを狙ったもの、でも結果は私たちの負けになっていた。一体何をしたの?」

「簡単だ。異能を使った、それだけだ」

「異能?」


「────そう、『幸運』の異能だ」


「幸運?」


 そう、俺が行ったのはただの運任せ。いや、椿任せか。

 結果は俺たちの勝ちとなったが、相打ちという未来も無かったわけではない。


「あのビルは酷く廃れていたが、中は支柱が数多くあり、少しのことで崩れるような様子はなかった。柏木もそれは分かっていただろ?」

「うん。外見は廃墟って感じで今にも崩れそうな雰囲気があったけど、中は意外としっかりしてた」

「そうだ。しかし、だとしてもあれは年季ものだ。支えの中枢となっている核が崩れ始めれば、たちまち全体が崩れてしまう」


 俺はあの廃墟ビルで椿と卯月が休んでいる間、ビルの中の徘徊を行っていた。ビルの核となる部分を探すためだ。基本は卯月の指示で動くが、いざという時のため、予め最終手段を用意していた。


「なるほどねー。だからあの時、時崎君が柱を壊した途端ビルが崩れ始めたんだー。……でも、時崎くんの能力は索敵系の能力じゃないの?それとも、柱を壊すほどの馬鹿力を持ってるの?」

「いいや、そもそも俺はサポート型ではない」

「えー!?そうなの!?」

「さっきも言っただろ。勝った要因は『幸運』の異能だと。それが椿のことで、こいつがサポート型だ」

「そうなんだー。……あれ?だとすると、私はとんでもない勘違いを?」

「その通りだ」


 椿の異能のお陰もあるが、俺たちは情報戦の中のアドバンテージを上手く使えたことも勝利に繋がっている。


「えー、私の能力を見破るくらいだからてっきりサポート型だと思ってたのにー。能力じゃないとしたら、時崎くん相当凄いポテンシャルを持ってるね!」

「まあ……たまたま人の気配に敏感だっただけだ」

「おかしいなー私の能力気配すら断ち切るんだけどなー」

「……」


 探るような鋭い目を柏木が向けてくる。


「まあいいかっ。てことは、卯月さんが遠距離型で、時崎くんが近距離型?」

「そうだ」

「あーまじかー。やっぱり情報は重要だねー。時崎くんは『怪力』の異能ってこと?」

「ううん。時崎くんは『加速』だよ」


 椿が俺の代わりに答えた。


「加速!?そんな能力であの柱ぶっ壊したの!?」

「それは私も気になってた……」

「いや……細かい加速を付けただけだ。腕の振りだったり、肩の力だったり」

「そんなんで変わるの?腕とか折れない?」

「人間はそう柔くないからな」

「へぇ……」


 まだ疑いの目を向ける柏木。

 とりあえずは誤魔化せたが、友達のためとはいえ少しやりすぎたか。後から卯月や如月にも聞かれるだろうな。


「つまり、その能力でビルを壊して『幸運』で瓦礫を避けきった、てことね?いやー大胆な作戦考えるねー」


 避けたというより、たまたま瓦礫が来ない場所にいた、というのが正しいだろう。俺たちは運が良かっただけなのだから。


「私が君たちの能力を勘違いしていた時点でもう勝負は決まってたのかな。いやー完敗だよ、時崎くん」

「なぜ俺だけ」

「次も頑張ってねっ」


 そう言い残して、柏木は退場口の方へ消えていった。

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