第14話 ランキング戦5
村田さんと服部くんも合流し、相手チームと向かい合う形となる。
試合が始まってもう10分は過ぎただろう。
おそらくここで決着がつく。
先に動いたのは相手チームだった。
左に長髪の女(卯月)、右に眼鏡女(椿)と男(時崎)、と二手に分かれ始めた。
当然私は右を追った。私の能力なら左に行った卯月さんを楽に倒せるかもしれないが、相手の能力が分からない以上深追いはできない。それに最初の様子から考えるに、服部くんの能力は卯月さんにかなり効果があるみたいだし。ここは1人の方を服部くんと村田さんの2人がかりで何とかしてもらい、私はこっちの2人を相手することが最善だ。
私はいつものように姿を消して2人に近づく。
その合間にふと村田さんたちの様子を見ると、卯月さんが服部くんの『音波』を柱で上手く避けながら地面に落ちていた小石を浮かして攻撃していた。
物体を動かす能力か。しかし、そこまで速度はなく、服部くんたちも柱を上手く使って避けていた。
勝負は互角かこちらに分配が上がりそうだ。だったらこっちも頑張らないと……。
やはり狙うは椿さんだ。今のところ彼女の能力だけ把握出来ていない。ヒットアンドアウェイに長けている私が上手くその情報を引き出さないと。
隙をついて背後を攻撃するが、やはり時崎くんに防がれる。その瞬間、反対に隙をつかれた私に椿さんは片手をかざしてきた。マズいと一瞬で判断した私はすぐさま能力を使って姿を消した。
危なかった。やはりキーマンは椿さんなのだろうか。
最初の戦闘から何となく察していた。時崎くんは明らかに椿さんを執拗に護衛していた。大人しそうに見えてあの女には何か強力な能力がある。きっとそれはこの戦いを大きく左右するものに違いない。
攻撃を喰らわず、先に倒す。ハイリスクハイリターンだがやるしかない、勝つためには。
その後も戦闘は続き、5分は経過しただろうか。
お互い疲労の色が見え始める。服部くんも卯月さんも限界のようで息を切らし始めていた。
私ももちろんあれから攻撃を続けていたが、時崎くんのガードを一向に崩せずにいた。彼は息も一つ切らしていない。
さて、どうしようか。
「……やはりあれしかないか」
時崎くんがふと、そんなことを呟いた。それが一体どういう意味なのか、考える間もなく事態は変化していく。
時崎くんは真横にあった支柱に手を宛て、何かを確認するようになぞっていく。
「卯月、椿、こっち来いっ」
そして、味方の2人に集まるよう促した。
3人が集まったのを見て、私たちも対抗に合流する。
すると時崎くんは右手で拳をつくり、それを振り下ろすような構えをする。
『何か来る……!構えて!』
村田さんの能力を使ってそう言い、3人で臨戦態勢をとる。
しかし、そんな心配とは裏腹に振り上げられた拳は目に見えない速度で横の支柱に振り下ろされた。
ドゴンッ、という衝撃音が建物内に響き渡る。
「な、なにっ……!?」
それと同時にビルが悲鳴を上げたように揺れ始めた。
元々廃墟だったこのビルは1つの支えを無くすだけで簡単に壊れてしまうほど廃れていたようだ。
突然地震のような感覚に襲われ私たちは思わず膝をつく。
崩れる……!まさか……相打ち!?
「椿っ」
「う、うん!」
膝をつく私たちに対して、相手はお互いに支えながら立ち続けていた。
そして────椿さんはなぜか両手を握りしめて祈るようなポーズをとっていた。
あれは一体……。
「まずいっ……!このままじゃ……」
服部くんがそう叫んだ。
天井や地面は今にも全壊しそうな勢いで、このままでは四方からの瓦礫に押しつぶされてしまう。
ビルは現在進行形で崩壊し続け、天井が崩れ始める。
「あ、相打ちなんて……卑怯だよっ!」
私は声を振り絞ってそう言った。
こんな……こんな結果……、あんまりだ。
ランキング戦というただの学校行事でしかないけれど、私はこれに真剣に取り組んできた。作戦を練って、相手の情報も手に入れて……一番になるために……!
「────相打ちではない」
「……え」
相手チームの顔を見ると、何故か皆決意に満ちた目をしていた。まだ諦めていない、仲間を信じきっているような、そんな目をしていた。
その目を最後に、私の意識は途切れた。
試合終了。
『相手チームが全員戦闘不能となったため、あなたたちの勝利となります』
耳元でそうアナウンスが流れ、俺は目を開けて身体を起こした。
勝ったか……。
嬉しい感情が込み上げてくるのに、やはり笑顔は作れなかった。
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