第13話 ランキング戦4


 いよいよ入場の時間となり、3人揃って観衆の前に登場した。

 といっても観衆が大勢いる訳でもなく、その数は少数といっていい。


「ふぅ……」


 観客が少数で安心したのか、椿は安堵の息を吐く。

 これなら大丈夫そうだ。プレッシャーに酷く弱い椿にとって大勢の観客は仇となるからな。

 仮想空間装置トリガーに順番に入り、それぞれ準備を始める。

 仮想空間装置の中は、カプセルホテルの様な人1人分のスペースと近未来な機械音が漂っていた。

 頭部を覆うヘルメットのような装置を付けられ、『戦闘開始』という合図と共に俺は仮想空間へと転送された。

 マップはランダムで『市街地』、天候は『晴れ』。ビルなどの高低差が激しいマップだ。それをどう活かせるか、それが鍵となる。


「あ、時崎くん」


 先に転送されていた椿と合流。

 数分後卯月とも合流し、後は試合開始のカウントダウンを待つだけとなる。

 一度拳を握ったり離したりしてみる。ここが本当に仮想空間なのかと疑ってしまうほど感覚がリアルだ。国が運営している学園なだけあって最新式の練習場が備わっている。異能も問題なく使えそうだ。

 ここで対戦相手の情報を整理しよう。

 対戦相手はBクラスのチーム。1人は透明の能力を持っている『柏木』という女子生徒だ。他は『服部』と『村田』という2人のチームメイトだが、性別以外の情報はなく注意しなければいけない。異能の型は柏木がおそらく近距離型だ。サポート型という線もあるが、それならそれでそこまで脅威とはならない。あの能力を最大限まで活かすとなると戦闘の方がメリットが大きい。


 ────5、4、3、2、1……


 などと考えていると、突如カウントダウンが始まった。

 そうか、もう時間か。

 あらゆる状況下でも冷静な判断、迅速な対応、個々の戦闘力、仲間との協調性、それらの評価が判断されるこのランキング戦、プロのソルジャーも何人か観ていると言っていたためあまり目立つことはしたくないが、友達のためならやってやる。

 色々なことを知るために、この学園に入ったのだから。


 ──────ゼロ。


 試合開始だ。

 俺たちが今いる所はビルが多く並ぶ市街地のど真ん中。車は走っていないが、道路が幾つも交差してまるで迷路のようだ。

 まずは陣形を組んで相手を待つことにした。

 前に卯月と椿、そして後ろに俺を配置する。この並びは、近距離型の俺を敢えて後ろに配置することで、相手からはあたかも俺がサポート型だと勘違いさせるためのものだ。

 俺は周囲に意識を向ける。

 ……まだ来てないか。

 しかし、相手は必ず情報を取りに先に動いてくる。気を抜いてはいけない。

 そう思っていた矢先、前方100メートル程離れた距離に人影が2つ現れた。

 柏木の姿はない。やはり能力を使って隠れているか。

 だが、まだ周囲にそれらしき気配はない。どんな策でくるのかひとまず様子見といこう。

 2つの人影が走ってこちらに向かって来ている。そしてそのうちの1人が両手を俺らにかざし始めた。

 その瞬間、俺は臨戦態勢に入る。あの独特な動作は能力を使う可能性が高いからだ。


「……!」

「な、何これ……!」

「耳が……!」


 予想していた通り相手の攻撃が真っ先にこちらにきた。

 相手が手をかざした途端耳鳴りのようなものに襲われた。それに俺は一瞬戸惑うが、すぐさま立て直し周囲に意識を向ける。


(────後ろか)


 椿の背後にいきなり現れた柏木、それと同時に繰り出された蹴りを俺は腕でカードした。

 なかなかいい蹴りだ。

 攻撃が防御されるや否や、柏木はすぐさま姿を消した。ヒットアンドアウェイか。

 その後、柏木から何度も現れては攻撃、現れては攻撃を繰り返されたが、俺はそれを全て防御した。攻撃は全て卯月と椿を狙ったものだったが、何とか1発も喰らわず防ぐことができた。

 2人はまだ耳鳴りに意識を削がれ立つのもままならないでいた。どうにかしてこの耳鳴りを引き起こしている奴にいきたいが、そしたら椿たちを守れなくなる。

 このままじゃ不味い、無理矢理でも移動が必要だ。


「悪いが2人とも走れるか?」

「……ええ、何とか」

「……う、うん」


 卯月はいけそうだが、椿は少し難しそうだな。

 …………しょうがない。


「椿、失礼するぞっ」

「────き、きゃあ!?」


 俺は無理やり椿を抱きかかえ走り出す。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。椿には申し訳ないが今はこうするしかない。

 俺は入り組んだ迷路のような地形を利用し相手を撒きながら近くの廃墟ビルに逃げ込んだ。

 柏木の気配もない。何とか撒けたようだ。


「大丈夫か2人とも?」

「ええ……。ごめんなさい、足でまといで」

「問題ない。……椿は大丈夫じゃなさそうだな」

「……っ、ん〜//」


 椿は床で丸まりながら転がっていた。


「……その、いきなり抱きかかえてしまって悪かった」

「だ……大丈夫〜」


 ……もうしばらくはかかりそうだな。









「……どこ行った?」


 ビルの合間を彷徨いながら、私────柏木かしわぎ 明里あかりはそう口に漏らした。

 あの陣形からして、確実に時崎時雨あの男はサポート型のはず。それなのに私の攻撃に全て反応し、防御に徹していた。恐るべき身体能力だった……。私の能力が破られた上、鍛え上げてきた渾身の蹴りを何度もガードされた。なんなんだあの男は。


『柏木ちゃん、どう?見つかった?』


 脳内で会話が流れる。

 これはチームのサポート型、村田さんの能力『共有』だ。最大3人まで対象の人物と離れていても会話をすることができる。アドリブや連携が試されるこのランキング戦においては強力な能力だ。


『ごめん、まだ見つかってない。そっちもまだ?』

『うん、まったく痕跡がない』


 痕跡すら残さないその徹底ぶりも何者なんだ。


『分かった、引き続きよろしく』

『うん。気を付けてね』


 村田さんとの通信が途切れる。

 マップの広さは無限じゃない。それに、そこまで遠くには行っていないはず。このビルの多さからして、おそらくどこかのビルの中にいる。だとしたら、中で待ち伏せている可能性が高い。

 2人が中に入る前に透明の能力を持った私が先に入らないと。奇襲を受けたりしたら大変だ。


(────!?)


 その時、真横のビルから気配を感じた。

 あそこにいる。確実に。

 2階の窓からあの男の姿を見つけた。

 何かを物色しているようだった。

 能力を使い、私はビルの中に入り込む。いずれあの男にはバレるだろうが、その前に他の2人を倒せれば上々だ。迅速かつ冷静にやらなければ。

 階段を上がったところで見晴らしのいい駐車場の様な場所に行き着いた。支柱が多くあるが、廃墟なだけに今すぐにでも崩れそうな雰囲気だった。

 そこで、私は1度足を止める。

 村田さんと服部君にもすぐさま連絡し、急いできてもらうよう促す。

 なぜなら、相手チームが先程の陣形で待ち構えていたからだ。

 おそらく私が既に中にいることもバレているだろう。ならば味方を待つしかない。


 真っ向勝負といこうか。

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