第12話 ランキング戦3
※時崎視点に戻ります
「やったー!!如月君たちすごい!!」
「ふぅ……」
如月たちの勝利に椿は歓喜の声を上げ、卯月は安堵の息を吐いた。
内心俺もどうなるかと冷や冷やしたが、終わりよければ全て良し。如月たちの勝利を素直に喜ぼう。
「今度は私たちの番ね」
しかし、そう喜びに浸っている時間はない。
俺たちの試合はすぐそこまで迫っている。
「準備するか」
「そうね」
気を引き締め、如月たちに続けるように俺たちは試合会場に向かった。
「おい見ろよこれ!この通り怪我が一瞬で治ったぜ!」
試合会場に着くと既に如月たちが待っていた。
3人とも先程の試合で負った怪我が嘘のように消えていた。
「どんな治療をされたんだ?」
「何か分かんねぇけどよ、医務室の先生が身体撫でただけで傷が治ったんだよっ」
「私も!異能使いすぎてヘトヘトだったのに、先生が頭マッサージしてくれたら一瞬で治った!」
凄い能力だな。そんな使い手の人が存在していたのか。初耳だ。
「俺たちは勝ったぜ。次はお前たちの番だ、頑張れよ!」
「ああ」
「勝てる見込みはあるの?」
「相手チームが分からないから何とも言えんが……卯月が何とかしてくれる」
「ちょ、ちょっと!?」
「卯月がリーダーか。これは貰ったな」
「ま、まあ、当然よ」
卯月が俺を睨むが知らんぷり。
この間のお返しだ。
「そろそろ時間だよ」
「う、う〜緊張するなぁ」
「言っただろ、適度な緊張はあった方がいい」
「大丈夫だよ椿さんっ。僕も緊張したけど何とかなったし」
「う、うん!頑張るっ」
「その意気だ!行ってこい!」
如月たちと一旦別れ俺たちは控え室に足を運ぶ。
如月たちは勝ち進んだ。だからこそ俺たちも続かなければいけない。
目を見張るような勝負をしてくれた如月たち。俺たちも出来るのだろうかと不安がよぎるが、未来のことを考えても仕方がない。
今目の前にある試合に集中だ。
控え室の通路を3人で歩いて行くが、俺はふと立ち止まり後方に視線を向ける。
「おい、そこのお前」
そして、そう口にした。
卯月と椿は何なのか分かっていないようで頭にはてなマークを浮かばせている。
当然だ。二人からしたら俺は誰もいない空間に話しかけていることになるからな。
「ど、どうしたの?もしかして……時崎くんって霊感とかあるの?」
不思議に思った椿がそんな疑問を俺に向けてくるが、その疑問はすぐに晴れることとなる。
「あちゃーバレてたかー。すごい敏感だね、君」
誰もいないはずの所からいきなり見知らぬ女子生徒が現れた。
おそらく異能で姿を消していたのだろう。その上でこちらが情報を開示するのを待っていた、てところか。会話や動作から奪える情報は数知れず存在するからな。
「6人で話し合っている時から付けてたな?」
「お、当たりー。やっぱりすごいね」
「だ、誰?」
椿はまだ状況を理解出来ていない様子だったが、勘も頭も良い卯月はすぐに状況を理解したようだった。
「おそらく、今から戦う対戦チームの1人だな」
「またまた当たりー」
「なるほど、情報が欲しくて私たちを付けていたのね……。しかし残念だったわね。私たちは情報を露出せず、逆に貴方の能力がこっちに分かってしまった。これは大きなアドバンテージだわ」
その通りだ卯月。そしてお前はそのアドバンテージを考慮した上で作戦を立てる必要がある。
「まあ、バレちゃたもんは仕方ないしねー。そこは割り切るよ。でも、そこの君が周囲に異常なほど敏感だって情報は掴んだ。これだけでも十分収穫はあったよ」
君とはもちろん俺の事だろう。
「そんなのそちらのアドバンテージにもならないわ。逆に注意すべき点が増えたんじゃない?」
「それはこっち次第だよ。どう料理するか、楽しみにしててねー」
そう言い終わると、女子生徒は姿を消した。
「どう思う、時崎君?」
「……分からない。しかし、アドバンテージは確実にこちらの方が大きい。慎重に戦えば勝てるはずだ」
「……そうよね。それにしても、よく彼女の場所が分かったわね?」
「……偶然だ」
俺は人見知りだから人の気配に敏感、ということにしよう。
午前9時半前。
いよいよ俺たちの試合が始まる。
椿の緊張具合は相変わらずで、先程から何度も深呼吸をしている。卯月も隠そうとしているが、明らかに表情がいつもより固い。
「えらく緊張しているな。さっきの出来事が気になるのか?」
「え?……い、いや……違うわ」
「もしそうだとしたら気にする事はない。さっきも言ったが、アドバンテージは確実にこちらが上だ。それを活かせば負けることはない」
「そうね……彼女の能力はおそらく『透明』とか『隠密』とかの姿を隠す系。でも、いくら能力を分かっているとしても時崎君にしかその気配を察知できない。彼女の能力をふんだんに活かされるとなると、私たちは完全にお荷物になってしまう」
「まあ、相手はもちろんその手を使うだろうな」
「……っ」
「しかし、相手側になって考えてみると……もしかしたら誤情報が回っているかもしれない」
「誤情報?」
「あの女子生徒の能力。おそらく存在を100パーセントに近い状態まで薄くできる能力だ。能力を使われた状態で気配を察知できることはほぼ不可能。しかし、もし相手に気配を察知されたとしたら、あいつはどう思うだろうか?」
「どう……思う?」
「簡単なことだ。相手も能力を使ったのでは、と疑問を抱くはずだ」
「?」
まだいまいちピンときてないようだ。
「……つまりだな。あいつは俺の能力を索敵か何かと勘違いしている可能性があるということだ」
「……!」
その言葉で、卯月は全てを理解した模様。
「な、なるほど……。凄いわね、時崎君。そこまで考えが行きつくなんて」
「あらゆる可能性を考えただけだ」
「要するに……その誤情報を有効活用できればいいわけね?」
「そういう事だ」
「……」
卯月は深く考える仕草をする。
しまった。緊張を解こうと話を振ったが、より一層考えることを増やしてしまった。余計なことを言ってしまったのかもしれない。
「ありがとう、時崎君」
「?」
「私の緊張を解こうと話を振ってくれたんでしょ?でも、返って負担を増やしてしまったと思っている」
「あ、ああ……」
「私ならもう大丈夫よ、心配も無用。それに、言ったわよね?いざとなったらあなたが指示するのよ」
「それはほぼ強制的だったろ……」
「ふふっ、頼りにしてるわ」
きっと、こんな風な理不尽が今後も続くのだろう。
でも、自然と悪い気はしない。
なぜなら、それは頼られているという証拠だからだ。
友人から頼られる。こんなに嬉しく、誇らしいことはない。
卯月の期待に応えられるかどうかは分からないが、友人のためにできることをしよう。
演出は得意だ。
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