潜降75m 琉球の残り香

「う~、もうちょっとゆっくりしようよ」

「ダメですよ。集団行動です。これでも計画より遅くなってしまってるんですから! 」


「すっかり萌恵ちゃんの尻に敷かれてますね」

「ふふふ。そうね。あの2人、ますます面白くなりそうね」


3日目は13:30那覇出発までに北谷の美浜アメリカンビレッジへ観光を兼ね、お土産を買いに行く予定だ。


思った通り慣れない泡盛でダウン気味の峰岸さん。


「初心者だけど私が運転でいいですか?」


異議なしのうなずき。


・・・・・・

・・


「なんかアメリカンビレッジって底なしに楽しそうですよね。もう少し余裕があればオルゴール堂でハンドメイド体験できたのに.. 」


「うん。でも飛行機の時間考えたら仕方がないよ」


「よかった。俺はオルゴール作りの体験なんかやりたくないもん」

「え~、何でですかぁ.. 楽しそうじゃないですか」


「それよりもお土産何を買うか的を絞っておいた方がいいと思うよ。桃ちゃんは目星ついている?」

「私は今回、Tシャツとか「かりゆし」とか、あとできればオルゴール堂にも寄りたいです」


「OK。じゃデポアイランド中心に見て、最後にオルゴール堂へ行きましょう」


明里さんは旅に慣れているのだろうか? 手際よく巡るコースを決めてくれた。

私たちはヒルトンホテル周りをぐるりと回り、ヤシ並木とそのカラフルで特徴的な建物を見て楽しむ。

そしてステーキハウス88横の共同駐車場に車を止めた。


アメリカンビレッジの街並みはインスタ映えする写真がたくさん撮れそうだ。

萌恵ちゃんはどさくさに紛れて峰岸さんとのツーショを山のように撮っていた。

ポーズをとる可愛らしい萌恵ちゃんに対して、峰岸さんは、死んだ魚のような目をしていたけど..


私は七海にベティ・ブープのロンT、シューファには蛍石のブレスレット、お父さんにマンタから赤色と黄色のハイビスカスが咲き乱れるド派手なかりゆし、相良さんと太刀さんにはオリオンビールのTシャツを購入した。


そして、自分には桃色の島サンダルと琉球かんざしをチョイス。


「私、ひと足先にオルゴール堂に行っていいですか? 」

「あ、私も付いて行きます 」


「うん。私はもう少しここで買い物するから.. じゃあ、あとでサンセットビーチで落ち合いましょう」


この時、私は明里さんがこの辺の地理に詳しい人なのだと気が付いた。


・・

・・・・・・


「あ、この曲聞いたことあります。私..この沖縄の曲のオルゴールにしようかなぁ。オルゴールってなんかロマンティックですよね。ずっと音と共に思い出も残っていきそう」


「うん。自分でいろいろ飾りつけもしたかったね.. あっ、私はこれにしようかな」


白い砂にヤシの木とヤシガニが飾られた楽しそうなオルゴール。

聞こえてくる曲は「島唄」


これは哲夫さんに。


・・・・・・

・・


サンセットビーチ。

あの時はこのビーチの名前すら知らなかった。


ほんの11カ月前に訪れた場所。


あの時と何も変わらない。


ただ今はフェスティバルの音は聞こえない。


私は前に座った階段から砂浜に降りてみた。


そしてそのまま波打ち際まで歩いた。


しばらく水色のビーチを見つめていると自然に言葉があふれ出た。


「私は沖縄の海を潜ったよ。

   私は自分で、自分の意志で沖縄の海を見たんだ!!」




「私も潜ったよーっ!!!」


知らぬ間に近づいた萌恵ちゃんが、私よりも大きな声で叫んだ。


顔を見合わせると、笑いが止まらなかった。


「あ、ほらっ!峰岸さんたちですよ! こっち、こっち 峰岸さん! 明里さん! 」


萌恵ちゃんが2人を呼ぶと同時にポツポツと雨が降り始めた。


・・・・・・

・・


—13:30

手を振る空港スタッフ。


旅立つ飛行機から見える沖縄は次第に小さくなっていった。




私が柿沢自動車整備会社に着いた頃には時間は19:30を回っていた。


(ふぅ.. やっと到着だ。太郎丸は明日、七海に届けてもらおう。それと.. きっと、もう帰っちゃったよね.... )


手いっぱいの荷物を抱えて、階段を数段登ると、ドアが開く音が聞こえた。



「おかえりなさい」  

「 ..ただいま 」



「旅は、楽しかったですか? 」


「はい! とっても!! 」



私は髪を大きくかきあげる。

そこから流れる琉球の残り香は、きっと、あなたに届いたはず....




【ももは今日も潜伏中!~ダイビング女子の決意編~ 完】

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