潜降64m 貝殻のメッセージ②

先日、優佳ちゃんから電話がかかってきた。


「お姉ちゃんに相談があるんだ」


私は休日に優佳ちゃんと待ち合わせした。

「どうしたの? 」

「うん。実は、もうすぐ優佳の誕生日なの」


「そうなんだ。おめでとう。お祝いしないとね」

「そのことで、きっとパパやママは優佳の誕生日をお祝いしてくれるんだ」


「うん。よかったじゃない」

「優佳、不安なの.. 」


優佳ちゃんの不安とは、やっと仲直りしたパパとママが誕生日をお祝いしてくれるのがとてもうれしい反面、もし再び2人が別れてしまったら.. という『幸せ』からの不安。『ずっとこのまま3人幸せでいたいという願望』からの不安のようだった。


「う~ん。じゃあさ、お姉ちゃんに考えがある。今回のお祝いをね.... 」



****



『Happy Birthday to You ,Happy Birthday to You ,Happy Birthday Dear 優佳 Happy Birthday to You』


「誕生日おめでとう! 優佳! 」


バースデイケーキに立てられたロウソクの火が優しく笑顔を灯す。


「さ、火を消して! 」


涼子さんの声と共に優佳ちゃんがほっぺを膨らませて一気に息を吹きかける。


[ プゥー! ]


暗くなった部屋に拍手が鳴り響く。


「パパ、ママありがとう」


私は、優佳ちゃんの言葉を合図に、もうひとつのケーキを運んできた。


「なんだ? かきさわ? お前もケーキ用意してくれたのか? 」

「違いますよ。これは優佳ちゃんがお小遣いで買った、宮野さん夫婦へのケーキです」


涼子さんは両手で顔を覆った。


「このケーキには優佳ちゃんの思いが込められてます。2人で火を消してください」


ロウソクに火が灯されると、涙あふれる涼子さんと鼻を鳴らす宮野さんは一緒に火を消した。


そして....


「さ、優佳ちゃん..」


優佳ちゃんはテーブル下のバッグから取り出したものを宮野さんに差し出した。

震える手で受け取った宮野さんは、そこに書かれた文字を声にだして読んだ。


「パパ、ママありがとう。いつまでも一緒にいてね」


それは優佳ちゃんが作った『貝殻で飾られたメッセージボード』だった。


そしてポケットから貝殻のネックレスを取り出すと宮野さんと涼子さんの首にかけた。


『パパ、ママ、優佳を生んでくれてありがとう』


優佳ちゃんが言葉を贈ると宮野さんは優佳ちゃんを抱きしめた。


「パパとママは優佳のパパとママでとっても幸せだよ」

「優佳もパパとママ大好き! 」


そんな抱き合う姿をみて私は鼻から涙がこぼれた。

ああ、ティッシュ持っててよかった。



「かきさわ、いろいろありがとうな。おまえ、俺たち泣かせて、なに企んでるんだ」

「あはは。こんど叙々苑にでも連れて行ってくださいね。 今回、私のダイビング仲間2人にも手伝ってもらったんです」


「よし、わかった! その人たち連れて来い! 3人ご招待してやるぞ。でも、牛繁くらいで勘弁してくれるかな」


「えーっ!」


楽しそうに笑う宮野さんの胸元の貝殻も小刻みに揺れていた。

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