潜降63m 貝殻のメッセージ①

「——というわけで、今日はダイビング中にそれらを見つけてもらえませんか。なるべく可愛いの」

「了解!! 」

「まかせてください! 」


「それじゃ、よろしくお願いします 」


ダイビングチーム『カノン』で酷い目にあい、その代わりといってはなんだけど、今日は峰岸さんと萌恵ちゃんに付き合ってもらっての富戸ダイビングをしています!


季節は4月とはいえ、海の水温は17度から18度程度。

まだまだドライスーツは手放せない!


今回は、『富戸セルフダイビングをさらにステップアップする』をテーマにしてみた。

前と同様『無理せず』『大丈夫だろうの禁止』『余裕を持つ』を私たちのセルフダイビングの3原則にした。


1本目は右側コース、イソギンチャク畑を抜けゴロタ沿いの中層から18m付近の砂地にいってみた。

この前よりも少しだけ先だ。

春先ということもあり魚影は若干少なめ。

少し水深をあげて岩場を周って見る。

峰岸さんが何かを発見。

なんだろう....

ウネウネとカラフルなこのでかい奴は。

おそらくはウミウシ?

『ニシキウミウシ』

峰岸さんがスレートに書いてくれた。

(私は..ウミウシはちょっと苦手かも)


お魚が好きな私は黄色くて可愛いコガネスズメダイやキンギョハナダイが好き。

岩場の影から白い糸みたいのがヒョコヒョコ動いている。

『何だろう?』と覗いてみるとなんか綺麗な大きめのエビが穴の中に2匹いる。

これはオトヒメエビというエビだ。

岩の上側に逆さについて生物たちの身体に付いている寄生虫などを掃除しているのだ。

謂わば、お魚さんのクリーニング店だ。


とそのとなりに何か今まで見たことない黄色い生物がモソモソ動き始めた。

『なになに? 今度はなに?』

私は少し興奮気味に峰岸さんと萌恵ちゃんを手招きする。


萌恵ちゃんはどれだかよくわかっていなくて、峰岸さんがライトを照らし指示棒で示して初めて気づいた。

『これ、カエルアンコウ! すごい』とスレートに書いていた。

そういう誉め言葉はどんどん書いてもらって構わない。

カエルアンコウは足みたいな胸鰭をヨチヨチしたかと思うと大きな口をめいっぱい開けて、それはまるであくびをしているようだった。


そのあと水深10mくらいの砂地を散策していると沖側から大きな魚が横切っていく。

(ヒラメ? いやもっと尻尾が長くて.. あれは大きなエイだ! )

水中を飛ぶように優雅に泳いで行ってしまった。


私たちは、課せられたミッションを実行する。

砂地に舞い降りると、そこにはいっぱい散乱していた。

さっそく、それを巾着袋に回収した。


****


2本目、私たちはテトラポッド側に行くことにした。

今回は水深をなるべく8mくらいにキープし3つ岩を通り越し、奥のテトラポッドまでいってみようということになった。


左側のコースの進路を進めていくと貝殻の山積場所があった。

きっと何かの生物がそこに捨てていくのかもしれない。


その近くでダテハゼが私たちを警戒しながら顔をだしている。


岩場ではブダイが岩を齧っていたり、北川で出会ったのっぺり顔のイラも悠々泳いでいた。


3つ岩の横を通過すると、その岩の上に大きな魚が体を休めていた。

『オオモンハタ』と峰岸さんがスレートに書きこむ。

(大きい!ここまで大きいとダイバーにも動じないのだろうか)


そして目的のテトラポッドにたどり着く。

テトラのすきまから尻尾の両端が黒い魚がいっぱい泳いできた。(*タカサゴの群れ)

それとイシダイみたいな魚が5匹くらいで勢いよく峰岸さんに向かって泳いでくる。

あまりの勢いに峰岸さんと衝突するのではと思うくらい元気だ。(*イシガキダイ)


まるで霞のように細かいのは、よくみると魚の稚魚たちだ。

なんか春の海の生命力を感じてしまう一瞬だった。


私は空気残圧が気になり始めたので峰岸さんに知らせるとすぐに帰路にきりかえた。


そして帰りがけに、さっき見つけた貝の山積場で可愛い貝柄を回収する。


そう、私たちのミッションは可愛い貝柄を回収することなのだ。


・・・・・・

・・


「これとかどうかな?」

「あ、これいいですよ。小さくてかわいい」

「これは少し大きいかな?」

大きさも柄もいろいろな貝殻を集めることに成功だ。


ミッションコンプリート!と言っていいだろう。


****


翌日、これらの可愛い貝柄を私は優佳ちゃんに届けた。

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