第130話 理事長からの話
祝いの宴会の翌日、ダイニングで朝食後に3人でお茶を飲んでマッタリしていると、婆さんが急に真面目な顔をして、俺と有希に話があると言い出した。
あの話かな…昨日の宴会の席で言い出さなかったのは流石だ。
「有希…以前真之に、理事長と何故知り合いなのかと聞かれて、ワシは忘れたと答えたんじゃが…
実はな、お前の母…桃子と小鳥遊理事長は、大学の時の友人同士なんじゃ。
当時爺さんは神奈川県警に勤めていての、ワシらは神奈川県内にある公務員住宅に住んでいたんじゃが、理事長は時々家にも遊びに来てな、爺さんとも仲良くなっておったわ。
それから時が過ぎ、桃子はあの男と結婚し、有希が生まれ…ワシは桃子らが3人で上手くやっているとばかり思っていた…。
ある日、桃子が有希を置いて酒乱の夫から逃げて来たと言った時、ワシは桃子が許せず、我が家から追い出した。
その後、桃子の面倒を見たのが理事長じゃ。
理事長は時々ワシに桃子の近況を伝えて来てな…
桃子は真面目なサラリーマンと再婚して、今では子供が2人いるそうじゃ。」
「…そう…なんだ……子供も……。」
有希は顔面蒼白になり、俯いて聞いている。
「この間、学園祭に行った時に理事長から聞いたんじゃが…
桃子が、有希にどうしても会いたいと言っているそうじゃ。
それを聞いた時に、ワシもどうしたモンかと悩んでしまってな、有希に会わずに帰ってしまったんじゃ…。
済まなかったの、有希…。」
婆さんは複雑そうな表情をして、有希の顔色を伺っている。
「…ううん、お婆ちゃんが悩むのも仕方ないよ…
私もどうしていいか判らないもん…。」
「ワシは桃子を追い出した身…
今更会うつもりは無いが、有希は別じゃ。
もう子供と言える年齢では無い、母に言いたい事もあるじゃろう…
どうする?有希…。」
「……ちょっと考えさせて…。」
有希はゆっくりと席を立ち、思い詰めた表情で自分の部屋に行ってしまった。
有希は独りで考えたいのだろう、暫く放っておいてあげよう。
俺はテーブルの上にある使用済みの食器を片付け始める。
「おぉ…済まんのう、置いておいてくれればワシがやるぞ。」
「あぁ、これくらい、いいからいいから。
…俺は婆さんの、桃子さんを追い出した気持ちも解るし、桃子さんが有希に会いたい気持ちも解るし、有希の複雑な気持ちも解る。
…ひとつだけ解らないのは、有希を置いて出て行ってしまった理由だが…。
もし有希が独りでは会いたくないと言ったら、俺が婚約者として付き添いで行って来るよ。」
「…お主にばかり頼りきりで…本当に済まんのう…。」
婆さんは申し訳なさそうな顔をして、俺に頭を下げる。
「婆さんは俺の事も孫だと言ってくれただろう?
俺ももう本当の婆さんだと思ってるから、俺に出来る事はさせてもらうよ。
付き添いくらい、任せておけ。
まぁ、有希が会いに行くって言ったらの話だけどな…。」
「そうじゃのう…どうするのかのう…。」
いつもの婆さんは年齢より若々しく見えるのだが、今は歳相応に老けて見えた。
肩でも揉んでやるか。
その後、俺は有希の部屋に様子を見に来た。
ノックをして中に入る。
室内は落ち着いた感じで整頓されており、物は少なく、年頃の女の子の部屋という感じはあまりしない。
勉強机の上には写真立てがあり、その中にはニヘラッとした俺と有希が富士山をバックにツーショットで写っている写真が入っている。
有希はベッドに腰掛けて俯いていた。
俺は有希の隣に座ると、有希は俺の左肩にもたれ掛かって来た。
「お兄ちゃん…どうしよう…。
お母さんに会ってみたい私と会いたくない私がいる…。
なんで私を置いて行ったのか…あれからどうしていたのか…
聞いてみたいけど、私を捨てて幸せな家庭を築いた人に今更会いたいとも思えない…。」
「有希…悩んでいるのが答えなんじゃないかな。
会いたくないなら、会いたくないとハッキリ断言出来ると思うんだ。
お母さんに一度会ってみて、もうイヤだと思ったら、それから会わなければいい。
今まで思っていた事を、全てぶつけてやれ。」
「……うん、そうだね…。
………一緒に行ってくれる…?」
「あぁ、勿論行くよ。」
会うと決めてからは連絡を取るのも時間と場所を決めるのも
早かった。
俺と有希の都合のいい日を婆さんに伝えて、後は婆さんと理事長が連絡を取り合い時間と場所を決めた。
有希が桃子さんと連絡先の遣り取りをするのが怖いと言うので理事長には俺の連絡先を教えておいたが、理事長と桃子さんが友人関係なら、俺が有希の親戚じゃ無いって事は前からバレてたのかな…
まぁ理事長からツッコミが入るまでは親戚で押し通そう。
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