Song.33 リザルト


「さて。みなさん。動画を公開してから、早くも一週間が経ちました。覚悟はよろしいでしょうか?」


 ライブ動画公開から一週間。物理室に集まった俺らの前で、先生がsそれぞれの顔を見渡して言う。その隣には神谷がニヤニヤしながらこっちを見ている。

 動画の再生回数やらなにやらは、一切確認していない。俺以外のメンツもみんな確認していないと。

 校内で話題にはなっていたし、ネットでも話題になった。トータルの再生回数はそれなりにまわっているはず。

 神谷のせいで、かなり不本意だけど。


「再生回数、評価数で見ていきましょうか。随時再生回数は増えてしまうと思うので、画面を写真撮って……あれ? こうじゃなかったかな? あれ?」


 教壇で持参したパソコンをカチカチしている先生。不慣れなのがよくわかる。見かねた神谷が横から手を出して代わりに操作しているし、俺たちは何を見させられているんだ……。


「はい! お待たせしました。画面を写真にしました」

「スクショな。それを読めばいいんじゃね」

「そうそう、それです。えっと、まずはNoKのカバー曲……」


 どういうわけか、神谷さんが突っ込みを入れながらチョークをとった。

 そして、「√2」、「Walker」とそれぞれ書いた下に、数字を書いていく。


『√2  684,510回 高評価1万』

『Walker  1,427,207回 高評価3.2万』


 書かれた途端、大輝の手が俺へ伸びてくる。


「わ! キョウちゃん! めっちゃ再生されてる! ねえねえねえねえ!」

「あがががが」


 言いながらブンブンと肩を揺さぶられて脳みそシャッフル開始。


「それ以上やると、野崎が吐くぞ」

「ごめん! キョウちゃん!」


 鋼太郎が大輝をはがしてくれたおかげで、脳が回復できた。まだ少しフラフラするけど我慢。そして改めて黒板を見る。

 ひとまず一曲目は余裕で一年たちよりも再生回数、評価数とも勝ってるな。


「さすが先輩っス! 原曲の再現率すごかったです!」


 小早川が立ち上がってそう言ってくる。

 そりゃそうだよな、あの曲作ったのは俺だし。再現というか本人だからな。自分で自分の曲を演奏しているからな。


「君、顔が気持ち悪い」

「ひでぇ言い方すんな。フクザツな気持ちなんだよ」

「君にそんな気持ちがあったなんて予想外だよ」


 悠真に言われながらも前を向く。今日の悠真も正常運転でなによりだ。


「はい。二曲目はこちらです」

「うい。また、俺が書くのね。はいはい」


 神谷がまじまじとパソコンを見てから黒板に書いていくのは、二曲目、テーマに沿ったオリジナル曲の結果について。

 いつものハードなロックじゃなくてポップで明るい曲を作ったわけだが、俺的にはかなり満足できるものになっている。何より弾いてるこっちが楽しいし。


『√2  19,741回 高評価千』

『Walker  1,999,011回 高評価1万』


「三戦勝負とするなら、ここで勝敗決定になるな。再生数でも評価でも三曲中、二曲で上回ったWalkerの勝ちで」

「やたー! うえぇーい! ハイターッチ!」

「うえーい」

「わーい」

「おう」

「はいはい」


 大輝が俺を筆頭に次々ハイタッチを求めるから、全員順々と手を鳴らす。バンフェスよりもテンションが低いのは、隣の一年たちがいるからというのもあるし、勝って当たり前というような気持ちが内心あったから。

 たかが数か月前に、全国の高校生バンドで頂点に立ったのに、新入りに負けるなんていうざまは見せられない。


 NoKで上げた動画と比較すれば、幾分か低いけれどもたかが高校生のオリジナル曲としてはいいだろ。俺たちも、一年たちも。


「こんなに見られたのかと思うと、僕、ちょっと怖くなってきたよ……」

「今更怖気づくなって。ステージから降りると弱くなるよなー、みっちゃん」

「だってー……」


 またしても怯え始めた瑞樹を横に大輝が騒がしい。基本的にハートが強い大輝のおかげで俺たちは支えられてる、と思う。


「お前ら先生と神谷さんにものすごく見られてるぞ」

「あはははは」

「は、恥ずかしい……」


 鋼太郎に言われて慌てて二人は前を向く。

 余りにもにぎやかだからか、悠真が頭を抱えていたのを見なかったことにした。


「ほい。んじゃ最後はーっと……お、すげぇな」


 神谷が驚きながら最後の結果を書いていく。

 カツカツと白い文字をじっと見ていたが、それに思わず目を見開く。


『√2 3,087,592回 高評価3.4万』

『Walker 2,157,293回 高評価2万』


「嘘でしょ……」

「っ……! ユーヤ!」


 藤堂の声に乗る小早川の声。さらに久瀬の双子がおんなじ顔で黒板を見つめる。

 ……俺ら、最後の曲だけ負けたのか。

 確かに、あいつらの曲は刺さるやつには刺さる。好き嫌いはっきりするものだが、こんなになるとは……。


「最後だけ負けちゃったの残念だね」

「あ、ああ。納得はいくけどな」

「納得?」

「納得」


 全くわかっていないと首をかしげる大輝。説明をしようとしたら、先に先生が軽く手を叩いて全員の注目を集めた。


「このような結果になりましたが……勝敗をつけるなら、Walkerの勝利になります。まずはおめでとうございます」


 パチパチと手を叩く。一年からも同じように拍手された。


「次のバンフェスもWalkerが出る方向で考えていこうかなとは思っています。√2の皆さんも、別のコンテストがあったりもしますので、一緒に探してみましょうか」


 ニコニコと言えば、一年はそれぞれ頷き返す。


「私から総評をするより、やっぱり企画を考えた神谷さんから行っていただいた方がいいかなと思うので、神谷さん。お願いします」

「あ、俺? マジか。あー、うーん。そうだなぁ……」


 まさか自分に振られると思っていなかったかのように、神谷は少しの間を置いてすべてをまとめ上げる言葉を伝える。

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