Song.31 小休止
「みなさーん、お疲れ様でしたー」
舞台袖からパタパタ足音を立てながらやってきた先生。満面の笑みだ。その手には家庭用のカメラが握られている。
「一年生たちもこちらへ集まってください」
幕の下りたステージ上で、全員が集まる。
気まずそうな小早川と俺の間に藤堂が立ち、ちらちらと顔色を窺っている。俺は別に手も口も出さねぇっての。
「全員集まりましたね。まずは、お疲れ様でした。ゲリラライブになったわけですが、続々と体育館には人が集まってにぎやかになっていましたね! とても素晴らしかったです。神谷さんは人を避けるために先にお帰りになられましたが、絶賛していましたよ」
手を叩いて先生は言う。それを聞く俺らはしれっとした顔しかできない。
「みなさんの映像は撮影させていただきましたので、編集をして動画を公開したいと思います。もちろん、個人の顔まではっきり映っているわけではないですし、軽音楽部の活動の一環として学校名・バンド名までは記載しようかと思うのですが、よろしいでしょうか?」
断る人はいなかった。
そもそもネットで公開するという話になっていた。念のための確認だろう。
「少し編集に時間がかかると思うので、日付は決まっていませんが同時刻に公開。一週間後に、再生数や評価数を見ましょう」
全員が揃いはしなかったが「はい」と返した。
となれば、しばらく時間が空くか。ダラダラ過ごしていては時間がもったいないか。ライブの予定はなくても、新しい曲作ったり練習したりするのが無難だな。
NoKの曲でも作ろうか。新曲を出したばっかりだけど。今度はどんな曲にしてみようか。コピーができないぐらいの難しさにするのもありだな。やすやすと弾いてみたをやられないようにしたい。
「ほら、野崎。片づけしろよ。帰るの遅くなんぞ」
「ああ」
考えていたら、鋼太郎に背中を叩かれた。周りを見ればみんな、撤収作業に取り掛かっている。
俺もそこに加わり作業を開始する。
俺ら五人じゃあ、結構時間がかかっていたけれど、一年もいる今、人手が多い。だからそこまでの時間はかけずに終わらせられた。
☆
ライブから一週間。
体育館でのゲリラライブで、部活の邪魔になった……と怒る人も少しいたが、圧倒的に「楽しかった」という感想の方が多かったらしい。
なんで「らしい」と言っているかというと、俺に直接言ってくる人がいないから。人づてに――ほぼほぼ大輝から――聞いた。広い交友関係を持っている大輝は、あちこちで反応を確認してきたんだと。
「なあなあ、キョウちゃん。iTubeで動画出てたよ」
「まじか」
「まじまじ。ほら見るー?」
休み時間にスマホを見せようと大輝がやってきた。
「いや、見なくていいや」
「なんでー?」
「見たところで変わんねぇし。どうせ批判も山ほどだし。それでへこむのも嫌だし」
NoKの動画も、たまに再生回数を見ることはあるが基本的にコメントまで追っていない。動画を透過したら、あとは放置が俺のスタイルだ。
それを言ったら、大輝がぽかんと口を開けていた。
「んだよ」
「だって、キョウちゃんでも批判でへこむんだなって……」
「俺を何だと思ってんだ、ロボットか?」
「へへへー」
笑う大輝。本当に俺をロボットだと思ってたのか?
呆れと一緒にため息が出た。
「でもさ、キョウちゃん」
「あ?」
コロコロと表情を変えるのが大輝。さっきまでの笑顔を消し、困惑の表情を浮かべている。
「ネット、ちょっと見た方がいいかも」
「はあ?」
意味がわからない。何言っているんだと言うと、大輝はさらにスマホを操作して画面を見せてきた。
そこに表示されているのはiTubeではなく、SNSだった。俺もそこでNoKのアカウントを持っている。新曲公開の宣伝ぐらいしかしていないし、ほとんど使っていないのだが。
それのトレンドワードランキングが表示されている。
上位ワードはどうやら政治や芸能関係のようだ。だが、その中に見知ったワードが入り込んでいる。
「俺……?」
ランキング八位。そこにある名前は『NoK』。俺のネット上での名義だった。
しまいこんだままの俺のスマホをバッグから出す。すでにスマホは熱を持っている。通知が山ほどきているのか。
熱いスマホを机に置きながら、恐る恐るNoKのアカウントを見てみる。すると。
『テレビで使われてましたよ!』
そんなコメントやダイレクトメッセージが山ほどきていた。
「なんかね、ダンス大会で使われたみたいだよ」
「ダンス?」
「そ。好きな曲で好きに踊るやつ。毎年やってるやつ。俺は見てないけど、やってるの知らない?」
「知らねぇ」
どうやらNoKの曲が使われたがために、俺のアカウントへのメッセージが送られ続けているようだ。加えて、iTubeの動画にもコメントの嵐だ。その通知がどんどん来ていて止まることを知らない。
「……」
「んだよ、キョウちゃん。その顔」
こんなにメッセージが送られてくるのは初めてだ。信じられないし、眉間に皺が寄る。
どんどんスマホが熱くなるし、充電が減っていく。通知を切っておくべきか。
「えいっ」
「うぐっ、やめろ。お前!」
大輝の指が俺の眉間を押して、皺を無理やり伸ばすように動かしてきた。
「キョウちゃん、ユーマみたいに皺が深くなるよー。毎日しかめっ面になっちゃう」
「わかーった、わかーったから。やめろって」
「へへへー」
へらへら笑いながら手を離した大輝の後ろに、眉間に皺を寄せた悠真がいたことは黙っておいた。
この後、大輝は悠真にしこたま怒られていた。変なところで名前を出すな、騒ぐなって。
「で? 悠真は何をしに俺らのところまで来たんだ?」
「とんでもないことをしている人を教えに来た」
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