第9話
「ああ、よく似合っているじゃないか」
あのマジックミラーの部屋からでて応接室に案内された。
正直、恥ずかしかった。
もちろん、私はもう全裸ではない。
ものすごく仕立てのよく、でも華美じゃないドレスが優しく私を包んでくれている。
でも、火照ってしかたがないのだ。もちろん、体ではなく、顔が。
だって、見られているって思ったんだもん。
だって、最近の私有り得ないくらい不幸だったんだもん。
だって、私って前世の世界の知識があるんだもん。
だって、女の子だもん。
はい……勘違いした自分が恥ずかしいです。
私は誰も見ていない場所に向かって全裸で不敵な笑みや勝ち誇った微笑みを浮かべていたのだから。
まぬけもいいところだろう。唯一の救いは誰も見ていなかったこと。いやいやいや、でも誰かが見ていたなら私の気丈な振る舞いは滑稽じゃなかったことになるんじゃ……でも同時にそしたら、私はそのまま妖しげな貴族の闇オークションにかけられることになる。うーん、見られない方が幸せだろう。
あっ、でも待って。一人だけ見ていた人がいる。そうあのメイドさん。……余計に恥ずかしい。
見られたくないけれど、見られていないと恥ずかしい。
ああ、乙女って複雑怪奇。
というか、前世の知識なんてあるからいけないのだ。マジックミラーといったら、この世界の人にとっては『魔法の鏡』かもしれないけれど、前世の記憶のマジックミラーは中の人にとっては鏡にみえるけれど、外側から覗く人間には硝子に見えるという代物のことだったんだもん。
私の前世の知識って裏目に出すぎ……前世の知識で大儲けして夢想できると思ったのに。お店は破壊されるし、恥ずかしい勘違いをした。
前世の知識がなければもしかしたら余計なことをしなくて済んだのでは……?
「私ってホント馬鹿」
あれ、これは何のネタだっけ。思い出せない。うわっ、やっぱりダメだよ中途半端な前世の記憶。だって、こうやって中途半端に思い出せないとき誰にも聞けないし。分からないまま思い出せないままもやもやがたまっていくって辛い。
褒めたのにも関わらず、私が顔を赤らめたり、表情を暗くするばかりで返事が来ないのにいらだったのだろう。
伯爵はいきなり私の腰に手を回して、ささやきかける。
「俺の婚約者はちゃんと話を聞くこともできないのかな?」
ちょっと、顔近いんですけど!?!?
しかも、顔が近いということは唇も近くて……そして、開いている方の手で今度は私のあごをくいっと持ち上げる。
これは……“顎クイ”ってやつでは????
ひどいっ。“壁ドン”もまだなのに!!!!!
物事には順序があるのに、いきなり“顎クイ”なんて酷すぎる。
でも、まてよ。
私に“顎クイ”をしている伯爵はイケメン。
顎クイをされるのはヒロイン。
つまり……私は何かしらの物語のヒロインということだろうか。
いや、ヒロインなんてパスなんですが。もちろん、悪役令嬢もいやだけれど。
私は平凡で幸せな生活をしたいのに。
こんな“顎クイ”をする、自信家イケメン伯爵とはどうしたってそりが合わない。だって、前世の記憶がこうやって邪魔をするから。
ロマンチックとかドキドキとかより、これってマンガで読んだやつって思考が先に来てしまうのだ。
私にはヒロインなんて向いていない。
選択肢
→・受け入れる
→・恥ずかしがる
→・殴り倒す
さあ、どれにする?????(どれも嫌だよー、えーん)
===TO BE CONTINUE===
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